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No Color  作者: 出海彩羽
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第3話 早起きのご褒美

 翌日、6時15分。

 なり続けるアラームに彼方は起こされた。

 「んん……。もうこんな時間か」

 のそのそと布団から這い出て、アラームを止める。

 そしてゆっくりと、立ち上がり伸びをして、カーテンを開ける。

 「うおっ。まぶしい」

 差し込む光に目を閉じて、一度カーテンを閉める。

 しばらくしてから、ゆっくりとカーテンを開け、快晴の空を眺める。

 「千沙。そろそろ6時半になるぞ」

 「んー……あと5時間……」

 「寝すぎだ。5分後に起こすからな」

 千沙にそれだけ言って、下に降りる。

 下に行くと、両親が朝食を食べていた。

 「おはよう、彼方。朝ごはん出来てるわよ」

 「今日は早いんだな」

 「千沙が朝早いって言うから」

 「はあ。もう、彼方は千沙に甘いんだから」

 「まあ、仲が悪いよりいいんじゃないか?」

 「とりあえず、顔洗ってもう一回千沙起こしてくるよ」

 「うん。お願い。あ、今日も夕飯お願いね」

 「分かってるよ。何か食べたいものある?」

 「うーん。ハンバーグ……かな? お父さんは?」

 「僕は何でもいいよ」

 「母さん、ハンバーグ好きだな……。昨日もハンバーグだっただろ?」

 「だってハンバーグって何か手作り感があっていいじゃない。それに味も違うしね。千沙の作るハンバーグは優しい味がして、彼方の作るハンバーグはガツンとしてるのよ。」

 「はあ……。そういうもんなのか?」

「そういうものなんじゃないかな。僕は二人が作ってくれるものなら何だって嬉しいよ」

 「全く。じゃあハンバーグ作っておくよ」

 彼方は両親の要望を聞いてから、顔を洗いに洗面所に向かう。

 彼方と千沙の両親は共働きで夜は帰ってくるのが遅い。

 そのため、夕飯は彼方と千沙が交代交代で作っている。

 今日は彼方の番だったのだが、両親が二日連続でハンバーグを要望したため、千沙に文句を言われることが確定してしまい頭を悩ませていた。

 「まあ、チーズハンバーグにしておけば許してくれるか」

 千沙の単純さに賭けよう、などと考えながら千沙を起こしに二階に上がる。

 部屋に入ると、千沙はまだ気持ちよさそうに眠っていった。

 その寝顔を見ると、起こすのも可哀そうだなと思ってしまうが、ここは心を鬼にしなければと意を決して彼方は千沙を起こしにかかった。

 「千沙、5分経ったぞ。起きろ」

 「んん……。あと100時間」

 「……許せ、千沙」

 彼方は布団を取り上げる。

 「んんんなあああ!! 私の布団!!! 返せえええええ!!!」

 「元は俺の布団だ!!」

 「今は私の布団だ!!」

 「それもそうだな。じゃなくて! もう6時半になるって言ってんだろ!!」

 「……え?」

 彼方の叫びに千沙はゆっくりと時計を見る。

 そしてゆっくりと顔を上げて、一言だけ言った。

 「まだ、あと10分あるよ……?」

 その瞬間、彼方は無言で千沙を持ち上げて下に連行した。

 「はーなーせー!! でも楽だからまあ許す! あ、でも運び方は考えてほしいかな?」

 「……わがままなお姫様だな」

 さすがに雑な持ち上げ方をしすぎたなと思い、お姫様抱っこをして下に連れていく。

 「あらあら。本当に彼方は千沙に甘いんだから」

 「あ、お母さん、お父さん。おはよう!」

 「おはよう、千沙」

 「はい。おはよう」

 下に降りると、両親は既に朝食を食べ終えていた。

 「ほら。さっさと食べちゃいなさい」

 「はーい!」

 「ありがとう」

 彼方は千沙を下ろして、椅子に座って朝食を食べ始める。

 「朝からありがと、かな兄!」

 千沙は彼方に笑顔でお礼を言いながら、椅子に座って朝食を食べ始める。

 「あ。ふぉういえば、ふぁなにぃ」

 「食べてから喋ってくれ」

 「ごっくん。そういえば、かな兄。今日の夕飯何にするの?」

 「あー。二人に聞いたらハンバーグって言ったから今日もハンバーグだ」

 「うへぇ……。まーたー? 昨日もハンバーグだったじゃん」

 「しょうがないだろ。ハンバーグってリクエストされたんだから」

 「それはそうだけど……。じゃああれだ。お前のはチーズハンバーグにするから」

 「……いい提案だけど、ハンバーグには変わりないでしょう?」

 雰囲気が変わった千沙に対して、彼方も雰囲気を変えて対応する。

 「ふむ。回りくどいね。単刀直入に要望を言ってもらおう」

 「なら、言わせてもらいましょう。私の要望はただ一つ。あと一品欲しいな~!!」

 「……」

 分かりやすい千沙の要望に彼方が固まった時、玄関から両親の「行ってきまーす」と言う声が聞こえた。

 「行ってらっしゃい」

 「行ってらっしゃーい!!」

 その声に反応して、二人で玄関に向かって返事をする。

 その返事が聞こえたのか、二人が玄関のドアを閉めた音がした。

 「……で、あと一品って何が欲しいんだ?」

 「そうだな~……。かな兄に任せる!! ごちそうさま!! 食器よろしく~!!」

 「それが一番困るって分かってるだろ! って、もう上に行ったのか」

 ため息をつきながら、彼方も「ごちそうさま」と言って、千沙と自分の分の食器を片付け始める。

 手早く食器を片付けると、上からどたばたと言う音が聞こえてくる。

 「かな兄! 今何分!?」

 「もうすぐ7時になるぞ!!」

 「おっ。余裕じゃーん!」

 千沙はカバンを玄関において、着替えた服をもって洗面台に向かい、そのまま身支度を始める。

 「たまには俺も早く行くか」

 早く行けば、人が少ない教室でゆっくり作業ができると考えた彼方は、自室に戻って準備を始める。

 制服に着替えて下に降りると、ちょうど千沙が準備を終えて、出発しようとしているところだった。

 「ん? かな兄も日直?」

 「いや、ただの気分」

 「ふーん、そっか。じゃあ行ってきまーす!」

 「おう。気を付けろよ」

 「うん!」

 元気な返事をして、千沙は玄関のドアを開ける。

 そこで千沙は一度振り返って、彼方に笑顔で、「起こしてくれてありがと、かな兄!!」と言って学校に向かった。

 「……たまには早起きも悪くないな」

 そんなことを思いながら、戸締りをして彼方も学校に向かった。


 彼方の通う高校は自宅から徒歩十分ほどの距離にある、三里みさと南高校である。

 ちなみに千沙の通う高校は自宅から30分ほどの距離にある三里北中学である。

 本当なら千沙も彼方と同じ中学に通うはずだったが、「私は違うものが見たい!!」と言って、三里北、三里西、三里東中学の中からルーレットで選んで決めたのだった。

 朝早いせいか、高校に向かっている生徒はあまり多くなかった。

 学校に着いてから、彼方が向かった先は職員室だった。

 教室の鍵は一番最初に来た人が職員室から借りてきて開ける仕組みになっていた。

 彼方が学校に着いた時間は7時15分。

 さすがにまだ誰も来てないだろうと思い、職員室に来たのだったが…。

 「あれ……? もう鍵借りられてる……?」

 職員室には既に教室の鍵はなかった。

 それはつまり、もう誰かが来ていると言うことに他ならなかった。

 「こんな時間に誰が来てるんだ」

 普段の彼方は登校時間が遅いため、誰が朝早く来ているのか知らなかった。

 疑問に思いながら、教室にたどり着いた彼方はすぐに答えを目撃する。

 教室には一人しかいなかった。

 窓際一番後ろの席に座る少女、白河三琴だった。

 「……」

 「?」

 教室のドアを開けて、固まっていたため、白河は首をかしげて彼方を見つめていた。

 「……入らないの?」

 「え? あ、ああ」

 白河の一言によって静寂が破られる。

 彼方は返事とも言えない返事をしながら教室に入る。

 彼方の席は前のドアから入ってすぐの席だった。

 座りながら、この席の位置じゃ気づかないよなあと彼方は思った。

 席に座って、彼方も作業を始める。

 作業中、一瞬だけ白河の方を見る。

 白河も何かの作業中のようだった。

 「何やってるんだろうな……」

 「何がだ?」

 「いや。白河さん、朝早くに来て何やってるんだろって」

 「じゃあ聞いてみろよ!」

 「いや……さすがにそれは迷惑だろ」

 「そうか?」

 「そうだろ。……って、ん?」

 彼方は違和感に気が付き、顔を上げる。

 そこには満面の笑みを浮かべた祐介がいた。

 「おはよう、彼方!」

 「ああ。おはよう!!」

 「いってええ!!」

 挨拶と同時に、手元にあった紙くずを祐介の顔に投げつけた。

 「いきなり何すんだよ、彼方!?」

 「俺のひそやかな独り言を拾うからだ」

 「だって何か言ってたら気になるだろ!?」

 「はあ……」

 深いため息をつきながら、白河の方を見るが、作業に集中しているようでこちらの騒ぎには気が付いていないようだった。

 その間に祐介は彼方の作業を覗き込んでいた。

 「お? これもしかして次の賞に送るやつか?」

 「違うよ。これは文芸部の次回のやつ」

 「ああ! あれか!」

 「昨日、千沙に見つかってな。ありがたいお言葉をいっぱい頂いたよ」

 「だからこうやって修正作業に入ってるわけか。間に合いそうか?」

 「まあ、講評会は来週だし、間に合うと思う。そういう祐介は終わったのか?」

 「あともうちょいかな。まあ来週までには終わらせるから、任せとけって! 見てろよ!! 壮大なやつ持ってくから!!」

 「ああ。楽しみにしてるよ」

 そんな話をしていると、教室には続々と生徒がやってきていた。

 彼方と祐介はその後にやってきた二葉と談笑して、始業のチャイムを迎えた。


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