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No Color  作者: 出海彩羽
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第2話 妹編集長の原稿チェック

 「ただいま」

 「あ。かな兄、おかえり!」

 玄関を開けると、キッチンから妹の千沙ちさが慌ただしくやってくる。

 「おう。これ、二葉から」

 「おー!! 今日は何かな~」

 千沙は彼方から受け取った小包をひったくるように奪い取り、中身を確認する。

 「うひゃー! 今日はクッキーだ!!」

 「とりあえず、廊下で食べるのはやめような?」

 「はいはい~。ご飯にする?お風呂にする?」

 「風呂にする」

 「はーい。じゃあご飯温めておくね」

 

 彼方が風呂から上がると、ちょうど千沙がご飯を温め終わったところだった。

 「お、ナイスタイミング! 今日はハンバーグだよ~」

 「お、美味しそうだな。で、千沙」

 「ん? 何?」

 「お前が手に持ってる封筒は何だ?」

 「かな兄がそこに置いてったやつ」

 「料理温めるのに必要ないだろ!!」

 「温めるとき暇なんだもん。これ結構修正したんだね?」

 「え? ああ。まあ、お前の感想のおかげで修正点が明確になったからな」

 「ふーん。それでも修正点山済みだけどね~」

 千沙は彼方の原稿をパラパラと見ながら、大量の修正を見て「うへぇ…」と声を漏らした。

 そして、原稿を机の上に置いてクッキーを手に取った。

 「それにしても、クッキー美味しいね!!」

 「お前マジで会話する気ないよな!? 全然話繋がってないぞ!?」

 「違うよ!! 私は今思ったことを素直に口にしてるだけだよ!!」

 千沙の会話の唐突さに、彼方は頭を抱えた。

 「だって、もうこれだけ修正されてるなら色々言われてるんでしょ?じゃあもうこの話は終わりでいいじゃん」

 「……お前、ちゃんと考えてるんだな。でもその雑な会話の切り方は考えた方がいいぞ?」

 「んむぅ……考えとく。で、次は何書くの?」

 「ん? 次は文芸部の恒例行事に向けての作品だな」

 「あー。もうあれの時期なんだ。今回のテーマ何なの?」

 「今回のテーマは“空”らしいよ」

 「空かあ。色々書けそうだね」

 「ああ。テーマがぶれそうになるから大変だったよ」

 彼方のその言葉を聞いた瞬間に、千沙がにやりと笑った。

 「その言い方だと、もう出来てるってことだよね?」

 「あ、ああ。まだコピーしてないけど」

 「見・せ・て!!」

 千沙は身を乗り出して、彼方に新作を見せるように要求してきた。

 身を乗り出すほどか、と彼方は思ったがそれは口に出さないようにした。

 「……飯食い終わったらな」

 「やったー!! あ、おかわりいる?」

 「いや、いいよ。ごちそうさま。今日も美味しかった」

 「いえいえ。お粗末様でした。食器洗いお願いしていい? お風呂入ってきちゃうね」

 「おう。ゆっくり入って来い」

 「はーい」

 元気よく返事をして、千沙はパタパタと足音を鳴らして風呂に向かった。

 それを聞き届けて、彼方は食器洗いに取り組んだ。

 汚れを落としながら、千沙にこれから見せようとしている作品が何をテーマに書いたものか振り返っていた。

 千沙は彼方の作品を読むとき、事細かに質問をしてくる。

 その質問の大体は千沙の興味本位の質問が多いが、毎回読み終わった後に音字質問をしてくる。

 『この作品のテーマって何?』

 そのテーマを言えなかったらもはや論外と言ってデータを消されてしまう。

 テーマを言えたとしても、テーマからずれていた場合、酷評が飛んでくる。

 つまり、千沙の中で重要なのは自分の考えているテーマにしっかり沿っているかなのだ。

 「それにしても、あいつの評価って何であんなに厳しいんだろうな。というか、いつから俺の作品読むようになったんだっけ?」

そんなことを考えていると、千沙の足音が聞こえてくる。

 「ふいー。いいお湯だった。あ、食器洗いありがとう!」

 「おう。……って、お前髪乾かしてないだろ?」

 「だってめんどくさいんだもん」

 「せめてしっかり拭け!!」

 彼方は千沙が首にかけていたタオルを取り上げると、千沙の濡れた髪を拭き始める。

 「あわっ!? ちょ、自分でやるから~!! でもちょっとお姫様気分かも!」

 「うるせえ!!」

 「わふっ!?」

 調子に乗り始めた千沙に彼方はタオルを顔面に投げつけた。

 「レディーに何すんのさ!?」

 「今更気にしねえだろ!! さっさと部屋行くぞ」

 「むぅ……。はいはい」

 

 部屋に移った二人は早速パソコンを開き、原稿を読み始めた。

 彼方は千沙が読んでいる横で誤字・脱字の確認、自分なりに表現がおかしいところがないかを確認していた。

 千沙はいつも通り気になるところがあったら聞いていた。

 そんな長い時間を過ごし、二人がため息をついたところで恒例行事は終了した。

 彼方は床に寝転がり、千沙は彼方の布団に寝転がった。

 「あー……疲れた。今回は評価のし甲斐があったよ~」

 「そりゃどうも」

 「ふぁあ……。かな兄、明日朝早い?」

 「早くないけど。何でだ?」

 「私が明日早いから巻き込もうかなって」

 「鬼かよ。ちなみに何時だ?」

 「6時半……日直なんだよね……」

 「なるほどな。まあ別に俺は良いけど」

 「やった! さすがかな兄!! 愛してる!!」

 「あーハイハイ。ありがとよ」

 彼方は適当に返事をしながら、パソコンのデータを保存して、新しいファイルを立ち上げる。

 千沙からの指摘や、新たに気が付いたことをまとめていく。

 そこから、作品を修正したり、新しい作品のヒントにしていく。

 そんな作業をしていると、ふと、食器を洗っていた時に考えていたことを思い出した。

 ちょうど千沙もいるし、聞いてみようと彼方は思った。

 「なあ、千沙。お前、何でそんなに的確な評価が出来るんだ? あと、お前っていつから俺の作品読み始めたんだっけ?」

 「んん……」

 しばらくの間、沈黙が流れる。

 彼方は千沙が考えているのかと思って、作業をしながら待っていた。

 しかし、いつまで経っても返事が返ってこず、不思議に思って振り返ってみると、千沙が気持ちよさそうな寝息を立てて眠っていた。

 「千沙……?」

 「んにゃ……」

 声をかけてみるが、熟睡しているようで、全く起きる気配がない。

 「はあ。お前、布団ぐらいかけてから寝ろよ」

 そう言いながら、彼方は千沙に布団をかけた。

 ここは彼方の部屋でもあるが、千沙が占領しているため、千沙の部屋でもあった。

 そのため、彼方のベッドは千沙のベッドも同然の状態となっていた。

 すやすやと眠る千沙を見て、彼方にも眠気がやってきた。

 「……保存して寝るか」

 彼方は作業中のデータを保存して、パソコンを閉じて布団を引っ張り出した。

 「ふぁあ……おやすみ」

 そう言って、電気を消して布団にもぐる。

 目を閉じて、しばらくしてからあること思い出して起き上がる。

 「千沙……アラームかけてたか……?」

 千沙の携帯の画面を確認すると、アラームのマークはついていなかった。

 「はあ。しょうがない」

 彼方は携帯で6時にアラームをセットして、今度こそ眠りについた。

 


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