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No Color  作者: 出海彩羽
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第13話 悩める休日

「うーん……」

 彼方はパソコンの画面とにらめっこしながらうなり声をあげていた。

 早速、賞への応募作品に取り組み始めたのだが、書きたいことがまとまらず、作業は難航していた。

 「かな兄―!! そろそろ休憩したらどう??」

 頭を悩ませていたところで、下から千沙の声が聞こえてきた。

 確かにずっとアイデアを考え続けていたため、頭が痛くなってきた。

 しかし、アイデアが全くまとまらないまま休憩するのもどうかと思い、もう少しまとまってから休憩しようと画面を睨む。

「……よし、休憩しよう」

 十秒後、彼方は諦めて下に降りることにした。


 「あ、降りてきた。どう?」

 千沙が牛乳の入ったコップを差し出しながら聞いてきた。

 その牛乳を彼方は一気に飲み干した。

 「おぉ。いい飲みっぷり~」

 「はぁ……。牛乳ってたまに飲むと美味しいよな」

 「えぇ? いつも美味しいじゃん。飽きるけど」

 「飽きるのかよ」

 彼方は空いたコップを水で流してから、お茶を入れて、リビングのソファに座った。

 「で、新作の調子は?」

 「幸先悪いって感じだな。全く書きたいことがまとまらない」

 「あらら……。スランプ?」

 「それはない……と思う」

 「分かんないよ? 人間、いつスランプに陥るか分からないからね」

 「とりあえず、まだ時間はあるし、ゆっくり考えるよ」

 「うん。それでいいと思う。焦ってもいい作品は出来ないしね~」

 千沙は妙に悟ったようなことを言いながら、牛乳を飲んだ。

 そんな千沙の態度に、以前の疑問を思い出した。

 「なあ、千沙。お前、いつから俺の作品読み始めたんだっけ?」

 「え? えーっと……、小学生の時じゃなかった? ほら! かな兄が本書くって言い出したときあったでしょ? あの時からいつも私が読まされてて、いつの間にか私の楽しみになってた……的な?」

 「そういえばそうだったような……」

 彼方は小学生の時、同じクラスの女の子が本を書いていたことに影響されて本を書きたいと思うようになった。

 それは覚えていたのだが、千沙に毎回読ませていたことは覚えていなかった。

 「じゃあ、あの厳しい評価も俺のせいだったのか?」

 「ん? あー。それはね、文芸部の先輩が教えてくれたの」

 「先輩が?」

 「うん! その先輩、転入してきて、二年生から文芸部に入ってきたんだけど、最初は静かであんまり喋らなかったからちょっと近づきにくいかなって思ってたんだけど、話してみるとかわいくて、すっごく優しくて、一緒にいて落ち着くから大好きだったんだー。あと、小説のこと聞くと、自分のことのように相談に乗ってくれるところとか、もう本当に好きなんだよね! 今でもたまに連絡してるし、かな兄のこともたまに話題にしてるよ?」

 千沙がここまで饒舌になることがあまりないため、彼方は驚いた。

 「っていうか、勝手に話題に出すなよ……」

 「そこそこ盛り上がるよ?」

 自分のことを勝手に話題に出していたことへのちょっとした抗議は、あっさりと一蹴されてしまった。

 「喜んでいいのか、それ?」

 「喜びなよ! ほら、これ」

 釈然としない彼方に、千沙はその先輩とのやり取りの履歴を見せてきた。

 千沙の言っていた通り、たまに彼方のことが話題に上がっていた。

 「確かにそこそこ盛り上がってると言うか、結構続いてるな……」

 「でしょ?」

 彼方はため息をつきながら、千沙と先輩のやり取りを眺めていた。

 画面を眺めながら、彼方は千沙がこれほどまでに尊敬する相手の名前が気になった

 相手の名前を探すと、そこには白河三琴と書かれていた。

 「白河三琴、か。……は?」

 彼方はそこに書かれた名前を見て、夢か何かかと思った。

 「な、なあ、千沙。この先輩って……」

 「ん? どうしたの?」

 「あ、いや。その、名前……」

 「みこ先輩がどうかした?」

 「この人ってどこの高校に行ったのか分かるか……?」

 「はあ? 何言ってんの、かな兄? かな兄と同じクラスじゃん」

 もしかしたら別人かもしれないと思って千沙に質問してみるが、あっさりと同一人物であることが語られた。

 彼方は衝撃の事実に撃沈していた。

 「あれ? 私言ってなかったっけ?」

 「言ってへんし、聞いとらん!!」

 「そない怒らんでもええやん!?」

 動揺しまくった彼方は口調がおかしくなってしまい、それにつられて千沙も口調がおかしくなっていた。

 「じゃあ、白河さんは最初から俺のこと知ってたってことか」

 「うん。同じクラスになった時、連絡来たし知ってると思うよ」

 それをもうちょっと早く教えてくれていれば、話しやすかったのにと思う反面、教えてもらっていてもあまり変わらなかっただろうなと、自分の情けなさにため息をついた。

 「あ。ねえ、かな兄? みこ先輩のあの癖ってまだ残ってるの?」

 「癖? 何だそれ?」

 「あれ? 知らない? っていうか、そもそもみこ先輩の原稿読んだことある?」

 「この前読んだけど……。なんなら、今上に置いてあるぞ?」

 「え!? 何で!? 本当!?!? 読みたい!!!!」

 千沙は半ばタックルのようにあなたに突っ込みながら懇願してきた。

 「そんな突っ込んでこなくても読ませてやるっての……」

 「わーい! やったー! 久しぶりのみこ先輩の原稿だー!!」

 千沙は余程嬉しかったのか、飛び跳ねながら二階に上がっていった。

 「はあ……。小説の主人公ってこんな急展開を毎回味わってるのかな……」

 今度書く作品の主人公には優しくしてあげようなどと思いながら、彼方も二階に上がっていった。


 彼方の部屋では既に千沙が原稿を取り出して読み進めていた。

 「おー! 本当にみこ先輩のだー!!」

 「テンション高いな。そんなに嬉しいのか?」

 「うん! 超うれしい!! よく分からないけど、よくやった! かな兄!!」

 「……お褒めにあずかり光栄です」

 千沙はご満悦と言った表情で、夢中で原稿を読んでいる。

 彼方は白河の癖が何なのか気になったが、こんなに楽しそうな千沙の邪魔は出来ないなと思い、自分も息抜きをしようと思い、本棚から取りだした本を読み始めた。


 彼方が本を読み終えたのと、ほぼ同じタイミングで千沙も見終えたようで、深いため息をついて窓の外を眺めていた。

 「どうだった?」

 「……うん。すっごくよかった!! かな兄が何やったのか分からないけど、こんなに気合の入ったみこ先輩の原稿、久しぶりだよ」

 「そうなのか?」

 「うん。卒業するときに何回もお願いして書いてもらったんだけど、それと同じくらいすごいよ、これ」

 そんなにいい原稿を読ませてもらっていたとは光栄だな、と彼方は思っていた。

 「でも、やっぱりあの癖はそのままなんだね」

 彼方はやっと聞きたいことが聞けると言わんばかりに、千沙に向き合って口を開いた。

 「そう、それだ。その白河さんの癖って何なんだ?」

 「んー。癖って言っていいのか分からないけど、みこ先輩の原稿って毎回題名が書かれてないんだよね」

 「……は?」

 千沙の口からあっさりと語られた事実に、彼方は完全に固まってしまった。


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