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No Color  作者: 出海彩羽
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第10話 少しだけ近づく距離

 「まさか、まだ残って作業してるのか……?」

 彼方は教室に向かいながら、おそらく残っているであろう女子のことを考えていた。

 いくら彼女でもこんな時間まで残って作業しているとは思いたくないが、今までの彼女の作業への取り組みを見ていると、こんな時間まで作業をしていてもおかしくはない。

 そんなことを考えていると、彼方は教室にたどり着いていた。

 教室の中を覗くと、白河が黙々と作業をしていた。

 「やっぱり……」

 作業に集中しているのか、彼方が廊下にいることは気が付いていないようだった。

 入るかどうしようか悩んでいると、遠くから足音が聞こえてくる。

 「ん? おい、一宮。こんなところで何やってるんだ」

 「っ!? あ、先生。いや、ちょっと忘れ物しちゃって」

 「そうか。早く帰れよー」

 彼方の肩をポンと叩いて、先生は職員室に戻っていった。

 軽くため息をついて教室の中を見ると、白河と目が合った。

 先生とのやり取りが教室の中にまで聞こえていたらしく、完全にばれてしまっていた。

 彼方は大人しく教室に入っていく。

 「……忘れ物?」

 「あー。うん。そんな感じ」

 彼方はカバンから一冊のノートを取り出した。

 部室から出る時に、カバンの中に入っていたのを思い出したのだ。

 彼方は白河の方に歩いていき、ノートを差し出した。

 「これ、返すの遅くなってごめん。本当にありがとう」

 「うん。どういたしまして」

 白河は少し微笑みながらノートを受け取った。

 「白河さん、こんな時間まで残って作業してるんだね」

 「うん。20時までは残っててもいいらしいから」

 「そういえばそうだったかも」

 彼方は部活以外で学校に残ることが少ないため、あまりそういうことは覚えていなかった。

 「そういう一宮くんも、こんな時間まで残ってどうしたの?」

 「俺はさっきまで部活やってたんだ」

 「部活?」

 「うん。文芸部」

 「うん。知ってる」

 「……え?」

 白河の予想外の返答に間抜けな声を出していると、チャイムが鳴り響く。

 「もう20時だ。帰ろ、一宮くん」

 「あ、うん」

 チャイムの音を聞くと、白河はすぐに帰り支度を始めた。

 彼方はもやもやとした気持ちのまま、空いていた窓を閉めた。

 二人で職員室に鍵を返し、昇降口で靴を履き替えて外に出た。

 20時を過ぎると、居残りの生徒も少なくなり、校舎は先ほどよりも暗くなっていた。

 二人は以前と同じように、校門まで特に何かを話すわけでもなかった。

 ただ以前と違うのは、彼方は少しだけ白河のことを知っているということだった。

 それ以上に知らないことが多いと分かり、それを知りたいと思ってしまっていた。

 しかし、何を聞けばいいのか分からず、沈黙を続けていた。

 そして二人は校門についてしまった。

 「じゃあ、私こっちだから。ばいばい」

 そう言って、白河は背中を向けた。

 「あ、あの、白河さん!」

 その背中を見て、彼方は反射的に声をかけてしまった。

 「……どうしたの?」

 「あ、えっと……」

 声をかけてから、何故声をかけてしまったんだと彼方は後悔していた。

 声をかけて、自分はどうしたかったんだ。

 分からないけど、何か話そう。

 そう思ったとき、カバンの中にあった原稿のことを思い出した。

 もし、白河が自分の作品を読んだら、どんな感想を残してくれるんだろう。

 彼方はそんなことが少し気になった。

 「あのさ……。白河さんも小説書いてるんだよね?」

 「うん。書いてるよ?」

 「えっと……。そんな白河さんの感想を聞いてみたいと言うか何と言うか……」

 「……?」

 「つまり……その……」

 「……」

 「これ、読んでくれませんか……?」

 そう言って、彼方はカバンから原稿を取り出した。

 「……これ、一宮くんが書いたの……?」

 「うん……。文芸部の活動で。白河さんにも読んでほしいんだ」

 「私に……? 何で……?」

 「あ、いや! ほら! 文芸部のみんな以外からの感想が聞いてみたいなって思って……!」

 白河の問いかけに、しどろもどろな返答をする。

 そんな彼方の様子に、少しだけ微笑んで白河は原稿を受け取った。

 「そう言うことなら、読ませてもらおうかな……」

 「う、うん。読んでくれると嬉しい、かな」

 「えっと……じゃあ、ばいばい」

 「うん。また明日」

 白河は小さく手を振って自分の家に向かって歩き始めた。

 その背中を見送って、彼方も自分の家に向かって歩き始めた。

 歩きながら、突拍子もないことをしてしまったなと後悔していた。

 でも、まあ少しは距離を縮められたのかな、とそう思うことにした。


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