まえがき
「ねえ、なにやってるの?」
「え……? えーっと、本、書いてるの」
「わあ、すごい!!」
「そ、そうかな?」
「すごいよ! だって本ってこういう分厚いやつでしょ? すごいよ!!」
「……ありがと」
その女の子はいつも教室で何かをやっていた。
何をやっているのかずっと気になっていたが、勇気が出ず、ずっと聞けないでいた。
ある日、男の子は勇気を出して女の子に聞いてみた。
女の子は急に話しかけられて驚いていたが、戸惑いながらも質問に答えてくれた。
それが男の子は少し嬉しかった。
だから、もう少し、勇気を出してみることにした。
「ちょっと読んでもいい?」
「……」
勢いで聞いてしまったが、少女の沈黙によって、これが不躾な質問であったことに気が付く。
「あ。ごめん!やっぱりいやだよね……。邪魔してごめんね!」
謝って自分の席に戻ろうとすると、服の裾を掴まれて立ち止まる。
「え?」
「……読んでも、いいよ?」
「本当に!?」
女の子は少しだけ微笑みながら、自分が書いていたものを渡してくる。
「ありがとう!」
男の子は笑顔で、お礼を言いながら女の子が渡してくれたものを受け取る。
そして、男の子はその一行目に目を通した。
その内容は──────────
「かーなーたっ! もう下校時間だぞ!!」
「ん……。祐介?あれ、もうそんな時間か」
「おう!あまりにも気持ちよさそうに寝てるもんだから起こさなかったけど、そろそろ帰ろうぜ」
「ああ。そうだな。……って、みんなは?」
「俺が来て、ちょっとしたらみんな帰っちゃったぞ。あ、これ部長から」
一宮彼方は幼馴染の十野祐介から封筒を受け取って帰り支度をする。
文芸部の部室の鍵を閉めて、二人で鍵を返しに職員室に向かう。
その途中で、彼方はあることに気が付いた。
「あ」
「どうした、彼方?」
「教室に課題忘れた」
「あー。明日の一限の課題か? マジか」
「ちょっと俺教室に取りに行ってくる。鍵返しておいてもらっていいか?」
「おう! この祐介様に任せろ!!」
「助かる」
そう言って、彼方は鍵を渡して教室に向かって走り出す。
「って、俺の課題コピーすればいいんじゃ……って、もういないし!?聞けよ!!」
「うるさいぞ、十野」
「いてっ! すみません……。あ、鍵お願いしまーす!!」
教室に着いた彼方はドアを開ける手前で立ち止まった。
「っていうか、もしかしてこの時間だと教室の鍵閉まってるんじゃ…」
結局、職員室に戻らなきゃいけないのかと思いながら、もしかして開いてるんじゃないかと思い、教室のドアに手をかけた。
すると、ガラっと音を立ててドアが開いた。
「あれ? 開いてるのか」
誰かいるのかもしれないと思いながら、教室に入る。
教室の窓から綺麗な夕日が差し込んでいた。
綺麗な景色だと思いながら、教室を見渡すと、窓際の一番後ろの席に一人の少女が座っていた。
その姿は夕焼けと相まって、幻想的な姿に見えた。
彼方がその光景に見とれて、ぼーっとしていると、少女がこちらに気が付いたようにゆっくりと視線を動かす。
「え、あ、えーっと……」
少女と目が合った彼方は、少し照れながら何かを言おうとするがうまく言葉が出てこなかった。
「おーい、かなた―!!」
廊下の向こうから声が聞こえてくる。
「課題あったか!?」
「え、あ、ああ! 今から探す!」
祐介の声で現実に引き戻された彼方は、急いで自分の机の中から課題を取り出して教室を出ようとする。
去り際に振り向いて、少女の方を見る。
少女はまだこちらを見ていた。
「あ、えっと、騒がしくてごめん。じゃあね」
何を言えばいいか迷った結果、そんなことを口にして教室を出て行く。
「遅いぞ、彼方。何やってたんだ?」
「あー、いや。課題が中々出てこなくてな」
「そっか。あ、帰りに二葉のところ寄ってこうぜ!」
「ああ」
教室から遠ざかる声を聴いて、少女はまた自分の机に向かう。
「ばいばい」
小さい声で先ほどの挨拶に遅い返事をして、少女は少しだけ微笑んだ。
これが二人の、最初の出会いだった。
初めまして、出海彩羽です。これは某F文庫の大賞に送り、見事に一次選考で落ちた作品です。このまま眠らせておくのは勿体ないと思い、気が向いた時に投稿していこうと思います。お付き合いいただければ幸いです。