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第5話:金髪男色男、召喚される

 朔夜のお父さんからの意味不明な電話のせいで、俺はこってり朔夜から説教を受けた。

 というより愚痴を色々聞かされた。

 それで驚いたのだが

「え!? お前のお父さん、鷹の方学園の理事長もやってるのか!?」

「ああ。まあ名前だけっぽいけど。鷹の方とイーグルは表裏一体だからな」

 らしい。

 しかし、そういえば

(あのお父さんは養父って言ってたけど、本当のお父さんとかはどうしたんだろ。離婚? 亡くなった? ……どっちにしろ訊かない方がいいか)

 と俺は心の中で納得して、ただただ朔夜があのセクハラまがいのお父さんへの愚痴をこぼすのを聞いていた。

 が

「なあ朔夜。そろそろ零時なんだけど……」

 俺は時計を見て切り出した。このままだとずっとこいつの愚痴を聞かされる羽目になりそうだったからだ。

「ん? でも今日は全然ケモノの気配感じないんだよなー。昼間も全然だったし」

 と朔夜が言う。

「昼間も気配を感じるときとかあるのか?」

 俺は少し驚く。

「ああ。ケモノが攻撃的になって活発に動くのは夜だけど、でも学校ここに人がいるのは昼間だろ? あいつも視力を取ろうとするなら昼間に動かざるを得ないんだろ」

 俺は朔夜の言うことに納得しつつ

「って、じゃあ今もあいつは生徒の視力をこっそり取ってるのか!?」

 ということに気が付いた。

「ああ、そういうことだな。まあ私が切って分裂させちまったから1体1体が人から取れる量は少なくなってるはずだ」

 と朔夜は笑うが

「……なあ、ケモノってのは人のものを取ってどうするつもりなんだ?」

 と、俺は疑問を呟いた。

 朔夜は肩をすくめる。

「……さあ。自分の力の蓄えにする奴もいるだろうし、もっと別の理由で取ってる奴もいるかもしれない。昨日も言ったろ? 奴らがなんで創られたのかとか、そんなことは分からないんだって」

 それを聞いて、俺はさらに疑問を深めた。

 そんなわけの分からないものを、どうして彼女は倒しに行くのだろう、とか。

(お父さんがイーグルの局長だからか? いや、でもあの過保護っぽいお父さんならわざわざ娘をこんな危ないことに誘わないよな……)

 俺がそのことを尋ねようとした矢先に、彼女はおもむろに立ち上がってこう言った。

「このままじゃ埒が明かないな。一応校内回ってみるか? 気配隠して隠れてるかもしれないし」




 夜の学校は、やはり不気味だ。

 新しい建物といってもやはりこの静かな感じが気味悪い。

 夜の学校を舞台にしたホラー映画なんてよくある話だが、どれも結構怖い造りになっていると俺は思う。前に見たやつなんて血生臭すぎてトラウマになってしまったほどだ。

(とりあえずトイレとか職員室には入りたくないな)

 そんなことを思いつつ、結局1階、2階、3階、4階と、各階のフロアを俺たちは歩き回った。

 が、特にこれといって何もなかった。

「んー。やっぱ駄目だー。気配なし。英輔、なんか見えた?」

 朔夜は疲れたのかその場にしゃがみ込んだ。

(そういうリアクションをするからスカートの中が見えるんだよこの馬鹿。気を遣え、周りに)

「いたら叫んでるよ」

 俺が呆れ気味にそう返すと

「女々しいなー、英輔は」

 と朔夜は笑う。

「う、うるさいな。でもどうするんだよ、相手がどこにいるのかも分からないんじゃ手の出しようがないだろ。ていうかほんとにこの校舎の中にいるのか? 外に逃げてたらどうするんだよ」

 俺は腕組をして反撃する。

「んー? ケモノは一旦根城にしたところからはそうそう離れないはずだ。今回の奴はここで随分と甘い蜜を吸ってるから特にな。……でもま、昨日は校庭にいたわけだからそれも考えないと駄目か」

 そう言って朔夜は立ち上がり、赤いほうの刀を抜いた。

「……それでどうするつもりだ?」

 彼女の行動の意図が全く読めずに俺は困惑する。

「疲れるからあんまり呼びたくなかったんだけど……もういいや」

 彼女はそうぼやきながら、刀を使って宙に文字を書いた。暗闇に赤い光が跡をひく。

 浮かんだ文字は、『三』。

「――三炎の三、来い!」

 彼女がそう呼ぶと、浮かんだ三の文字が膨張して、空間に穴のようなものが開いた。

「――は?」

 俺が呆気に取られていると、その穴から何かが出てきた。


「なーによ、憐? せっかく人が夜のティータイムを愉しんでたって時に〜〜」


 そんな気だるげな声と共に現れたのは、すらりと背の高い男だった。

「……!?」

 俺は目を見張る。

 それは、長い金糸の髪、赤い眼をした顔立ちの端正な青年だった。さらには纏っている衣服も色鮮やかな赤色の南米系の民族衣装で、あまりにもこの場にそぐわない、派手な印象を受ける。

 というより、どうも人間っぽくなかった。

「むー。憐、アナタまた胸でかくなった? アナタが女っぽくなるにつれてワタシの士気も下がるわぁ〜」

 と、何か矛盾しているような発言をその男がすると

「……そんなことで下げんな士気。ちなみに前呼んだ時とそう変わってないぞ」

 朔夜はどこか悔しげにそう言った。

(……つーかそんな話を俺の前でするな)

 俺が心の中でそう呟いていると

「あら? そこにいる可愛い子はだぁーれ?」

 と、その、なんというか、美青年なのに口調がどうもオカマくさいその男は俺のほうに気が付いたようで、その妖艶な赤い瞳をこちらに向ける。

(……なんか、関わりたくない……)

 俺の本能がそう告げていたが、

「ああ、そいつは今回特別に協力してもらってるクラスメイトの英輔だ。私の目の代わり」

 と、朔夜がさらっと俺の紹介をしてしまった。

「英輔……なかなか硬派な感じの素敵な名前ね! ワタシ火砕かさいっていうの。呼び捨てでいいわよ」

 と、その男は俺にウインクをして近づいてきた。

(……!?)

 俺が何かよからぬ悪寒を感じて間もなく、その火砕という男はものすごい至近距離まで近づいてきて

「うんうん、近くで見るとさらにかーわいーわ〜♪ シャイっぽい顔つきとかすっごいワタシ好み。啼かせてみたいわ」

 とか言って俺の頬をその白い手で撫でた。

「〜〜っ!?」

 俺は無意識のうちに飛び退いて朔夜の後ろに隠れていた。

「なんだよあれ!」

 またしても俺は無意識に浮かびそうになった涙をこらえつつ叫び気味に朔夜に問うと

「刀の中にいる妖の1人だよ。火砕はの化身なんだ」

 と、彼女は言った。

「――蛾!?」

 俺はそれにも驚いてまた叫んでいた。

(いや、だって蛾って言ったら元は毛虫で……ていうか今日俺がティッシュで掴んで外に出したのも蛾で……)

「火砕、英輔からかうのもそれくらいにしといてさっさと仕事してくれよ。私の体力使って出てきてるんだからさー」

 と朔夜はあの青年に言った。

「んもう、憐ってば人使い荒すぎー! いいじゃない、ワタシがアナタにかける負担なんて他の2人に比べたらものっすごい微量じゃない!」

「う、る、さ、い、なあ! 微量でもかかってるもんはかかってるんだからとっととケモノ捜してこい!」

 朔夜がそう叫ぶと

「ちぇ〜。またね、英輔クン」

 語尾にハートマークをつけるようにそう言って、金髪オカマ男は姿を消した。

 

 否、消したのではなく変化したのだ。

 蝶と見間違うほどの、赤と金色の羽根を持った美しい蛾へ。


 小さな蛾は赤く光る鱗粉をこぼしながらぱたぱたと暗闇に飛んでいった。

(……ほんとに蛾なんだ……)

 と俺が呆けていると

「おい英輔、火砕の鱗粉には毒があるから気をつけろよ。私も1度ひどい目に遭ったことがある」

 と朔夜が後ろで言った。

「ど、毒!? 先に言えっ!」

 俺は服についていないか入念に確認する羽目になった。




 結局その夜、その火砕という男は帰ってこなかった。

 一応宿直室で待っていたのだが

「あーあ、もう4時かあ。朝だな、こりゃ」

 眠そうに朔夜は外を見てぼやいた。

 しかしぼやきたいのは俺も同じだ。

(結局ここで一泊かよ。寝られなかったし)

「俺一旦帰るぞ。今日の授業の準備とかしてないし」

 そう言って俺は立ち上がる。

「ああ。そーいや今更なんだけどさ、お前夜中に家空けてて大丈夫なの? 家の人とか……」

 と朔夜が訊いてくる。本当に今更で俺は苦笑した。

「そういうことは先に心配してくれ。……今週は家に誰もいないんだよ。お袋が海外旅行に行っててだな……」

 と俺が言うと

「え!? そうなのか!?」

 と、なぜか朔夜は目を輝かせてそう言った。

(……?)

 俺がその意味を理解できないでいると

「だったら朝ごはんご馳走しろよ!」

 と、彼女は言い出した。

「……は? なんでそうなるんだ」

 俺が率直にそう尋ねると

「だーからー英輔ん家に行くんだよ、今から」

 彼女はけろっとそう言った。

 俺はことの重大さにようやく気が付いて焦る。

「は!? なんで!?」

「だから朝ごはん……」

「朝飯くらいどっかで食べろよ! 朝マッグとか!」

「えー、昨日の晩もマッグだったのにー?」

「牛丼でも食っとけ!」

「えー。この制服で牛丼屋に入ると変な目で見られるんだよー」

(……入ったことあるんだな)

 と俺が呆れていると

「っておい! 何鞄持って準備してんだよ!」

 彼女は自分の鞄と俺の鞄を持って出口のほうへ歩いていった。

「ほら出るぞー、鍵閉めるぞー」

 彼女のその様子から、もう逆らえないと俺は理解した。




 まだ日も差していない朝の街。人通りはほとんどないが、夜の学校よりかは雰囲気はいい。

 俺の家は学校前の坂道を下って、駅前を素通りして、線路沿いに歩いていったところにあるちょっとした住宅街の中にある。

 この時間だとまだご近所さんも外に出てきていないから助かるといえば助かる。

 親の留守中に女の子を家に連れ込んでたなんて噂が立ったらそれこそ終わりだ。

「ここだ」

 俺は後ろをてこてこと付いてきた朔夜にそれとなく言って、門を開ける。

「ふーん。このあたりは結構いいとこだな。悪い気配が全くない」

 と朔夜は意味深なことを言う。

 俺はコメントに窮しつつ家の鍵を開けて、中に入った。


 まずはリビングに直行して、荷物を置いた。

「俺風呂入ってくるから適当に食べとけよ。冷蔵庫の中のもんとか勝手に使っていいから」

 と俺が半ば投げやりにそう言うと

「えー!? つまんないのー。じゃあ待ってるからさっさと入ってこいよ。覗いたりしないから」

 と朔夜は妙なことを言う。

「……覗くっておい。もういいや……。家の中あんまりちょろちょろすんなよ」

 俺はそう念を押して、さっさと風呂場に向かった。



 本当に数分で俺がリビングに戻ると、朔夜はダイニングテーブルの上に突っ伏して寝ていた。ちょうどその席が普段俺が使っている席だというのは偶然だろうか。

「…………」

(人の家でよく堂々と寝られるなー……)

 俺は半ば感心しつつ、冷蔵庫を開ける。

(朝飯ごちそうしろって言われてもなー。何にもないっていうか……。こいつもしかして家じゃ朝からリッチなもん食ってんのか? 一応鷹の方理事長の娘だし)

 俺は少々困惑気味にとりあえず卵とベーコンを取り出す。


 俺がベーコンエッグを焼いていると、朔夜がむくりと体を起こした。

「んー? あ、いい匂いがするなーと思えば……。英輔ー、胡椒はたっぷり目でよろしくー」

 伸びをしつつちゃっかり注文をつけるアイツ。

「はいはい」

 卵を焼き終え、後ろのオーブントースターで焼いておいたトーストを取り出して皿に盛る。飲み物はもう面倒なのでいつもどおり牛乳でいいだろう。


 少し不安もあったが、朔夜は文句を言わずにもくもくとその朝食を食べてくれていた。

 牛乳を飲み干して、彼女は喋りだす。

「ん。これでデザートがあれば文句はない」

「あ、そ。残念ながらそんなもんはうちにはないぞ。後でコンビニででも買っとけよ」

 俺もそう言いつつ牛乳を飲み干す。

「そうする。ところでさー、思ったんだけど、この家って案外普通だな」

 と彼女は言った。

「は? 当たり前だろ。普通の家なんだから」

 と俺は一昨日から何度目かの『は?』を使っていた。

「いやいや、そうなんだけどー。ほら、もっと護符とかいっぱい貼ってるのかと思ってた」

「護符? なんで?」

 朔夜は両手で頬杖をつきつつ

「いや、だって英輔さ、あんまりその霊視力のこと良く思ってなさそうだったからさ。なんか嫌なことがあったのかなーって。普通はそういう奴の家に限ってそりゃあもう結界のオンパレードなんだぜ?」

 なんてことを言ってきた。

 俺は溜め息をつきつつ

「……この辺は悪い気配がしないって言ったのはお前だろ? ここに越してきてからはほんと、何にもないんだよ。すっごい平和だった。お前が来るまではな」

 最後のあたりは少し皮肉を込めて付け加えておいた。

 が、しかし朔夜は特段気にも留める風ではなく

「あ、そっか。そうだよなー。……ってことはお前昔からここにいたわけじゃないんだ?」

 と聞き返してきた。

「ああ。小5のときにこっちに越してきた。前にいたとこはもうちょっと都会だったんだけどな、とりあえず色んなもんが見えて嫌だったよ」

 そう言いつつ、俺は極力その頃を思い出さないようにした。

 良い思い出はあまりないのだ。

「ふーん。ま、最近じゃ都会のほうが厄介なもんが多いからな。鷹の方学園にもすっごい結界が張ってあるんだぞ。力を持った生徒が多いからな、よく惹かれて集まって来るんだよ、そういう輩が」

 と朔夜はどうも気味の悪い話をする。

「あーもう、朝からそんな話するなよ。朝飯食っただろ? ならさっさと学校へなりコンビニへなり行け」

 俺はそう突っぱねて、食器を抱えて立ち上がる。

「むー、なんだよー、まだ早すぎるしー。あ、英輔の部屋どこ? ちょっとたんけーん」

 と朔夜は席を立ってふらーっとどこかに行ってしまいそうだった。

「あ! おい馬鹿! 勝手に人の家の中探検するな! ていうか俺の部屋入るなよ!?」

 俺は慌てて彼女を追いかける。


(……朝から何やってんだよ俺。仮眠を取りたいんだよ仮眠を。ああ)


火光に宿る3人の妖『三炎刀守さんえんとうしゅ』の1人目が登場しました。オカマだけど(汗)。1番よわっちいんだけど(汗)。

そういえば『トイレとか職員室』で惨劇が起こった学校を舞台にしたホラー映画とか「あれかな?」と勘付かれた方いらっしゃいますか(笑)? あれは怖かった・・・。

ここまで読んでくださった方々ありがとうございました!

次回も何とぞよろしくお願いします・・・

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