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エピローグ

 土曜の昼ごろ、お袋が旅行から帰ってきて、それからはまた、なんでもない日々が再開した。

 月曜日、学校へ行く。

 教室に入る。するとやっぱり、俺の隣の席は空席で。

「ねえ、憐ちゃんまた休みなのかなー?」

「なんか心配だなー。ふっといなくなっちゃいそうで」

「えーー」

 周りの女子がそんな会話をしているので、俺は少し心が痛んだ。

 そんな会話を耳にしながら俺が鞄から教科書を取り出していると、外付けポケットからころりと、マスコットが出てきた。

 例の、朔夜に付けられたマッグのおまけである。

 これを堂々とぶらさげるのも恥ずかしかったのだが、外すのもどうかと思って結局ぶらさげたままマスコット部分をポケットの中に隠すように突っ込んでいたのだ。

 すると

「ねえ、東条君ってカエル将軍好きなの?」

 と、右のほうで喋っていた女子の1人が珍しく話しかけてきた。

「え……」

 1度も喋ったことがないような子に、唐突に話しかけられて俺は困ってしまったのだが、このカエルの、緊張感のない顔を見ているとなんだか笑ってしまって

「これ、貰いものなんだけどさ。結構気に入ってる」

 俺は自然にそう答えていた。

「そうなんだー。可愛いよね、カエル将軍!」

 その女子は少し興奮気味に何度も頷いて、また内輪の会話へと戻っていった。

 そこで

「ねえねえ、東条君ってもっと怖い人だと思ってたけど全然だねー」

「ほんとー、可愛いとこあるって感じ!」

「ちょ、私は前から結構格好いいなーって思ってたんだから!」

「もー、何カミングアウトしてんのよー」

 本人達は声を押し殺しているつもりなのだろうが、そんな会話がもろに聞こえてきて俺は赤面してしまった。

 それで、自然と頬が緩んでいたのか、

「何にやついてんの?」

 と、訊かれてしまった。

「べ、別ににやけてなんか……」

 と反射的に言い返しかけて、

「……!?」

 俺は勢いよく振り返った。

 すると、そこには。

「おはよ、英輔」

 白いシャツに、赤いネクタイ。

 なんら変わりない、そのままの朔夜がそこにいた。

「あ、おはよー憐ちゃん!」

「おはよー」

 彼女は笑顔で手を振りながら、そつなく周りのクラスメイトに挨拶を返している。

 俺は慌てて

「ちょ!? お前!! 帰ったんじゃなかったのかよ!?」

 出来るだけ声を押し殺して彼女に尋ねた。

 すると

「いやー、そのつもりだったんだけどねー。昨日急に高志の知り合いから依頼が来てさ」

 と苦笑しながらも彼女は語る。

「ほら、あそこの旧校舎。なんか曰くありげだと思ってたけど、実際、出るらしいんだよねー」

「で、出るって……おい、それ、お前の管轄じゃないんじゃ……」

「そうだけど、その依頼人ってのが高志が昔すっごくお世話になった人らしくって、断りきれなかったらしいの。で、ちょうど私の籍がまだここに残ってるってことで……」

 と彼女は言う。

(……なんつう……)

 俺は頭を抱えた。

 これでもこの土日、ちょっと寂しい思いをして、夜空を物憂げに眺めてたらお袋に変な目で見られたり、それでもなんとか吹っ切ろうと頑張ったつもりだったのに、その必要はまだなかったのか。ああ。

「ねえ、英輔も一緒に行かない? 旧校舎探検」

『行かない?』って訊いている割にもうすでに彼女は俺の腕に手を回している。

「……どうせ連れてく気だろ?」

 俺が言うと

「ん。まあね」

 と彼女は悪びれる風もなくそう答えた。しかし

「……嫌?」

 と、少し心配気に彼女は俺の顔を覗き込んだ。

 ……そんな顔をしないでほしい。

 俺の答えはもう決まっている。

「ちゃんと付いてくよ」

 俺がそう言うと、彼女は満開の笑顔で頷いた。


 どうやら神様は、俺の非日常延長届けを受理してしまったらしい。

 まあ、せっかくだから甘んじよう。


 

 何も起こらないことが幸せか?

 まだそんなことは知らない。

 だって、まだ見て、感じてないもののほうが多いんだから。

 だから。


「英輔、行くよ!」

 俺は彼女の手をとって、駆け出した。


ミッドナイトブレイカー、ひとまず完結です。

本作は自分にとって2度目の現代ファンタジーものだったので、色々気負うところも多かったのですが、書いていたらバタバタと暴走しまして(笑)自分の中ではちょっと異作な感じです。ですが最終的には要素、テーマ共に書きたかったものが書けたんじゃないかなーと、自分では思っているのですが……読者の方々は楽しんでいただけたでしょうか?

 さて、色々書きたいことはあった気がするのですが設定上のごちゃごちゃしたところはまたPCサイトのほうに特設ページでも作って公開しておくので興味がございましたらどうぞ(おい)。

 最後になりますが、迷走に迷走を重ねたこの作品、最後まで読んでくださった心温かい皆様、本当にありがとうございました! 連載途中に下さったコメントも例えようのないくらい励みになりました(涙)。本当にありがとうございました。

 それではまた、どこかでお会いできることを祈りつつ……。


2009年1月4日追記

ミッドナイトブレイカーは全3部のシリーズ化が決定しています。

第2部にあたるおまけ的な短編は既にアップされていますので、この後の2人がちょっとだけ気になる、という方はよろしければ見てやってください。

本作は今後挿絵を入れたりノベルゲーム化したり(笑)まだまだ盛り上げていく(いきたい)所存ですので、春の真の完結までもうしばらくお付き合い願えれば幸いです。

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