【第8話 ボク的な大事件】
「キミ可愛いねぇ。彼氏いるの?キミそんな可愛いから彼氏のひとりやふたりいそうだよねぇ……で、実際はどうなの?」
(……え?)
「ちょ、ボク、彼氏なんていないよ!失礼しちゃう!……じゃなくて、その人になにしてたの!?悲鳴みたいなの聞こえたんだけど!?」
すると男は気まずそうに苦笑いし、
「あー、それはねぇ。キミみたいに、彼氏の有無を聞こうと思ったら怖がられちゃってさぁ」
と言った。
なぁんだ、特に襲われてた訳では無いんだ…と安心した直後に放たれた一言で、その安心は儚く砕け散ったわけだが。
「答えそうになかったから、ちょーっとちょっかい出したら分かるかなーってね」
「最低!女子の敵だ!!」
全然大丈夫じゃなかった、むしろ天災だ!
「まぁまぁ、そうカッカしないでよ。……あ、そうだ。キミ、まだ結構小さいのに働いてて偉いね!」
「ち、小さい!?失礼ですね、ボクは立派な18歳です!」
胸を張って言うと、彼はオーバーに驚いて見せた。
「えぇ!?キミ……18、なの?あぁ、これほどまでに幼く見える女性もいるなんて……実に素晴らしい!オレのお嫁さんにならない!?」
こいつ……真の変態じゃないの……!
女性大好き(ロリも可)……!
「変態退散ーーー!」
「うわぁっ!」
大きな気合いの声とともに放たれた拳が、ロリコンの鳩尾に上手い具合に入り、彼は意識を手放した。
……あ、ヤバい。
ボク、事件だと思って助けに行ったはずなのに、何故か犯人を殴って逃げてきちゃった。
犯罪者はロリコンじゃなくてボクじゃない!?だって人を殴っちゃったんだし……!
と焦りながらの帰宅。
「た、ただいまぁ……」
言うと同時に床に倒れ込む。
木目の暖かな床とはいえ、木は木。
ものすごく痛かった。
頭を抱えていると、ディアが来た。
「おかえり。……どうした?」
「ただいま。……色々あった」
そう、色々あった。
女の人が襲われてるのかと思って行ってみれば違って、それはただのナンパだった。(しかもロリコン属性も持つと来た)
女の人を助けるために行ったはずなのに、気付けば彼の鳩尾に一発入れて意識不明にさせた挙句逃げてきた。
「……ボク、犯罪者になっちゃったかも」
「ほう、ルリがか。どうした?」
どうしてだろう、ディアがとても温かい人間に見える。人間じゃないけど。
かくかくしかじか、と話すとディアは大笑いした。
「はっはっは……っ!顔を真っ青にして帰ってきたから何事かと思っておれば、なんだ、そんなことで悩んでいたのか……!」
「そんなことってなんだよー!ボクにとってはある意味事件なんだよー!」
そう叫ぶと、ディアはようやく笑い終わり、涙で潤んだ目を擦りながら言った。
「そんなもの、俺がなんとかしてやろう。具体的には魔法を使ったりして。人心掌握なんてお手の物だぞ」
「犯罪はダメー!」
全く……少し気を抜くとこれだからダメだ。
まぁ、魔王にまともな意見を求める時点でアレなのだけれど、そこは気にしないでおこう。
「犯罪とな。メシアに言われたくはない。合法な作り方で作った訳では無い薬を売ってるだろ。あれもある意味犯罪なのではなかろうか?」
「え、薬?ボク、そんなの作ってないけど?というかそもそもさ、メシアって誰?」
「……しまった」
「ちょっとー、ボクに濡れ衣着せないでよね」
……と茶番を繰り広げていると、不意に頭がキーンとした。
あぁ、ボクはボクではなくなるのか。
何故かそう本能が悟った。
「……では。また会おう、ルリ」
ディアの声が遠ざかる。
ボクの意識も遠ざかる。
ボクは、自分のもののはずなのに体が思うように動かせず、気付けば「解除」と呟いていた。




