【第6話 ルリとディアは凸凹コンビ】
それからというもの、私はディアに対して苦労に苦労を重ね、ぐったりしていた。
ちゃんとミズキになってミオに会いに行ったり、アリーシアになって頑張ったりしたのもあったが、やはりディアの方が私に苦労をもたらしただろう。
今日は誰にしようかな、と考えながら過ごす優雅な朝はもう無く、今日も疲れたなと息をつく間もなく、私は声を張り上げるのだ。
「え、ちょっと!お風呂入る時は脱衣所で服脱ぎなさいよ!」
「服着てお風呂上がりなさい……!」
「ご飯はフォークとスプーン、嫌なら箸を使って食べて!手で食べないでちょうだい!」
……とまぁ、今まで魔王していたディアには分からない感覚なのかもしれないが、私がとても気にしてしまう問題なのだ。
そしてつい今しがた、朝起きてからも……
「きゃあ!……もう、寝る時は服着てって言ったでしょ!なんで着てないの!?」
というように、まるで何も知らない子供を相手している気分なのだ。
もちろん今まで子守りなぞしたことがないため、苦労が大きいのだ。
ともあれ、私と彼の間で交わした4つの約束は未だ破られていない。
仕事の邪魔をしない、人様に迷惑をかけない、人間の姿で生活をする、極力外に出ない。
私のことを人様とするなら、私は十分迷惑を被っているわけだが、それはご愛嬌というものだろう。
ともあれ。私がいつものように今日は誰にしようかと考えていると、ふと思い出してディアに言った。
「そういえば今日はルリにしようと思ってるのだけれど……あと、その……」
「あぁ、お使いだな。しかと了解した。何を買ってくればいい?」
そう、私がルリの日は料理をたくさん作る日なのだ。
だからディアにお使いを頼んで、重いものも買ってきてもらうのだ。
「えぇと……とりあえず小麦粉、トマト、ピーマン、あればベーコンかしら」
「お、今日はピザか。いいな」
……私が何度も頼みすぎて、ある程度の材料を伝えれば今日は何を作るのかバレてしまうほどになった。
しかも問題はそこではない。
「確か今日はいつもの店よりその3軒隣の店の方がいいな。小麦粉が安くなるはずだ」
と店の特売日を覚えた。
またとある日は、店主と仲良くなったのでオマケとして何かしらもらったり安くしてもらったり。
……主婦か!
私はそう思わざるを得なかった。
まぁそれはさておき。
「んじゃ、よろしく頼むわね」
そう言い残し、私は「ルリ」と呟き、姿を変える。
鏡を見て、確認する。
「よしっ!ボクは今日も一段と可愛く見えるね!」
オレンジ色の短髪を揺らし、くりくりしたこげ茶色の双眸をぱちぱちさせてボクは言う。
すると、背後に誰かの気配を感じた。
「メシア……ではなく今はルリか。おはよう」
「あ、ディアだ!おっはよー!」
そう元気よく挨拶すれば、「……元気がいいのはいい事だが、何だろう、ものすごくモヤモヤする……?」と言われた。理不尽!
「ピッザピッザピザ~♪美味しいピザ~♪出来たてホッカホカ美味しいな~♪」
ボクは歌いながら料理を作る癖がある。
そのため、最初こそディアに怪訝な目で見られたが、今ではすっかり暖かな目で見られるようになった。
そうまるで、孫を見ているおじいちゃんみたいな。
「……ディアじい……?」
「ゴホッゴホ……っ」
おっと、ディアが飲んでいたお茶を噴き出した。
「ちょ、汚いよ!」
「……すまん、不可抗力だった」
意味不明な言葉を残し、ディアは机に突っ伏した。
その際、ゴンッと鈍い音が響き、「……大丈夫?」と声をかけると、「あ?あぁうん、大丈夫だ。……ディアじい……」とブツブツ言っていた。
「行ってきまーす!」
大きな声で元気にそう言って、私は家を飛び出した。
この時のボクは全く想像していなかったんだ。
あんな事故――もとい、事件が起きるなんて。




