【第2話 ミズキと「私」】
いつものように目が覚め、いつものように自分が自分であることを確認し、今日は誰にしようか悩む。
昨日はアリーシアだったし、その前は……ルリだったか。
ならばと思い、私は「ミズキ」と言う。
漆黒のツインテール、漆黒の双眸。
よし、ミステリアスさ満載ですね。
「私」……ではなく「わたくし」は、作っておいたアクセサリーと(魔法で)育てた花を持って外に出ました。
「お、ミズキ!久しぶりー!」
そう声をかけてきたのは……誰でしたっけ、ミオだったか、とにかくわたくしの育てた話をいつも見ていく活発な女の子です。
「はぁ……今日も、冷やかしですか……?」
いつも彼女はものを見るだけ見て帰るのです。
冷やかし以外の何物でもありません。
少々厳しい目を彼女に向けてしまうと、彼女は頬を膨らませ、
「違うもん!ミズキに会いに来てあげたの!」
と言いました。
「……そう、ですか」
何でしょうか、この胸の鼓動は。
今まで感じたことのない高鳴り。
物を買ってくれるわけではなく、ただわたくしに会いに来ただけ。いつもなら「迷惑です」とあしらえるはずなのに、今回ばかりは――真っ直ぐに、キラキラとわたくしのことを見つめてくる彼女だけは――冷たくあしらうことができない。
一体なぜ……?
うーん……と首を捻っていると、彼女は「まぁいいわ」と言い、私に指をさした。
「次、いつ来るの?」
……次、ですか……。
「……分かりません」
いつまでわたくしがここにいるのかも分かりませんし、不確かなことは言えませんもの。
しかし彼女はそれで納得していないのか、うーん……と悩ましげに呻いています。
「……じゃあ、いつ買いにくればいいのよ」
「……は?」
わたくしは思わず聞き返してしまいました。
「だから、いつ来るか分からないとお金も持ってこれないじゃない!来ない日に不用心にお金を持ち歩きたくないの!」
……なるほど、そういうものなのですね。これが庶民の考え方なのですね、勉強になりました。
私は更に悩み、ポツリと「……三日後」と言いました。
「三日後……また来ると思います」
と言うと彼女はパァっと、さながら花が一気に咲いたように、満面の笑みを浮かべて「絶対ですよ!」と言いました……可愛らしい笑みです。
はいはい、と流すと「ちょっと!ちゃんと来なさいよ!」と釘を刺されてしまいました。
わたくしにとってのミオは、かけがけのない存在なのだと今日初めて知りました。
少し雨が降ってきた夕方。
わたくしはいそいそと森の中を駆けていました。
すると、うっかり見落としそうになるくらい小さな狼がいたのです。
雨に濡れてブルブルと震え、しかしこちらを見る目は「助けてくれ」ではなく「どうせお前も助けてくれないんだろう?」という、諦めしか感じない冷たさでした。
わたくし……そして、「私」みたいだなと思い、わたくしは思わずその子を抱きかかえ、家まで走りました。
「はぁ……疲れました」
わたくしは、帰ってくるなり暖炉に火を入れて狼を暖炉の目の前で下ろし、ミルクを温めて器に入れて、狼にやりました。――やろうとしたのです。
しかし狼は贅沢にもプイッと顔を背けてしまったのです。「ミルクじゃなくて肉をよこせ」と、つまりそういうことでしょう。
あいにく肉はないのでミルクで我慢してもらおうと、器を狼の目の前でチラつかせました。
すると、しばらくしてようやく狼は重い腰を上げ、立ち上がると器の目の前までやってきました。
スンスンと匂いを嗅ぎ、そして――
「えっ、ちょっと……!」
狼はわたくしの指を噛んだのです、しかも割と痛いくらいの力加減で!
狼はミルクを素通りし、わたくしの手元に来て、ドクドク流れるわたくしの血をペロリ、とひと舐め。
気に入ったのか、何度か舐めました。
すると、不思議なことに先の噛み傷は消え、狼は少し大きくなっていました。
何故……?と首を傾げていると、狼が体を大きくブルリと震わせました。
そして、ポンっという小気味よい音とともに煙がモクモク。
「ケホッケホッ……」
その煙が晴れるとそこには……
「俺を助けてくれたのは貴様か?非常に不本意だが、感謝せんわけにもいかん。……助かった」
足元まで伸びるサラッサラの黒髪と、先の鮮血を思わせる真紅の瞳が特徴的な、美青年が。




