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【第1話 アリーシアと「私」】

 目を覚ますとそこは、いつもの天井だった。

「なんだ、夢か」

 なぜ今頃小さい頃の夢を見るのか不思議に思ったが、特に気にせず私は準備を始めた。

 柔らかなベッドから降り、近くにあるドレッサーまでペタペタと歩き、鏡で「私」を見る。

 腰まで伸びる、うっすら青みがかった新緑色の髪。燃えるように赤い右目。ギラギラと輝く黄金色の左目。

 この世界で魔女の象徴とされる容姿そのものだ。


 左右の目の色が違う。髪が緑色、そして長い。


 はぁ、と溜息をひとつ落とすと、私はその髪に櫛を通して、そして仕上げだ。


「アリーシア」


 そう呟くと、私の容姿がみるみるうちに変わっていく。

 新緑色で長かった髪は金色の肩くらいまでの長さの髪になり、三つ編みに。左右違った瞳の色は深い青一色になった。

 そこに細い銀縁のメガネをかければ完成だ。


「わたし」はアリーシア。

 自信が無く、常にオドオドしている三つ編みメガネ。

 薬を作ることが得意で、街に行っては薬を安く売り、みんなのために働くことが大好き。


 よし、役作りは出来た。


「……い、行ってきます……!」


 わたしは扉を開け、外に出た。



「よう、アリーシアちゃん!今日もいつものくれるかい?」


 威勢のいい声でおじさんが言う。

 この人は、わたしが来るたびにいつも塗るタイプの傷薬を買っていってくれる常連さんだ。

 彼が着ている服――白いタンクトップ、泥にまみれたズボン、そして長靴だ――を見るに、恐らく彼は畑仕事をしているのだろう。

 タンクトップから見える上腕二頭筋が、太陽の光を反射して眩しく輝いている。いい筋肉。


「はい……、いつもありがとうございます!」


 そう言うと、彼は大きく笑って、


「なーに、健気なお嬢さんが良く効く薬を売ってたらついつい買っちまうってもんよ。頑張れよ!」


 と言ってくれた。

 彼のような人がいるからわたしも頑張ろう、と思う。常連であってもなくても、わたしの薬を求めてくれる人がいる、そう考えると、わたしがいなくなってはいけない、頑張らなくちゃと思えるのだ。


 わたしは大きく息を吸って、


「い、いらっしゃいませー!良く効くお薬、いかがですかー!」


 と叫ぶ。

 気になって見に来た主婦、お年寄り、子供たち。

 色々な人が目を輝かせてわたしを、わたしの薬を見ていく。

 すごいねぇ、まだ若いのに。こんな安く売って大丈夫なの?

 そんな声がちらほら聞こえる。

 みんな、わたし自身を見てくれている。

 恥ずかしいけど嬉しくて、ふふっと笑ってしまう。


「ど、どうぞたくさん見ていってくださいね!」


 こうして、わたしの一日は終わっていくのだ。



 わたしは家に帰ってくるなりベッドにダイブし、「解除」と呟く。

 すると、今まで「アリーシア」だったのが、私に戻ってくる。

 この魔法は、自分の内に秘められた人格……というか、人を呼び覚ますというもので、私の中には三人ほどの人格がいる。


 今日のように、薬を作るのが得意なオドオド系女子、アリーシア。


 料理を作ってはそれを配達する、活発でキャピキャピ系女子、ルリ。


 アクセサリーと花を作って育てる、ポツリポツリとしか喋らないミステリアス系女子、ミズキ。


 この三人を、私の気分で選んで名前を言うことで、その人格を自分のものとして扱えるのだ。

 逆に、「解除」と言えば魔法が解除され、「私」に戻る。


 ちなみに、私はどれにも属さない、ただの「私」でしかない。

 名前もなければ好きなものも嫌いなものもない、強いて言うなら魔女くらいしか特徴がない「私」だ。

 しかし、それでいいのだ。

 アリーシア、ルリ、ミズキ。

 それぞれの人間が、「私」として動いて、話して、食べていて、私はそれを傍観する。

 それで私は楽しいから。


 私は鏡で「私」に戻ったことを確認し、再びベッドに戻り、眠りについた。

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