【第15話 さようならのその先に】
目を覚ますとそこはいつもの天井だった。
「なんだ、夢か……」
そう呟くと私はベッドから起き上がる。
おはよう、と声をかけてきたディアにおはよう、と返事をし、私は支度する。
今日は誰にしようかな。
「んー……アリーシア」
私がそう言うと、みるみるうちに私の姿が変わり始め、――なかった。
「あれ、私の魔法が効かないなんて……何かしら、不具合?……アリーシア!アリーシア!!」
何度呼びかけてもアリーシアは姿を現さなかった。
――否、自分にアリーシアが現れることはなかった。
「な、なんですか……!」
現実では聞くはずのない、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「……あ、アリーシア……?」
「そ、そうです、けど……貴女が、メシアさん、ですか……?」
お互い、頭の上に「?」を浮かべている。
そこに口を挟んだのは
「あれ、アリーシアどーしたの?……うわっ!知らない人だ!」
「この人が……多分、メシア。主人格の」
わらわらと出てきた彼女らは、彼女らだった。
「ルリ……と、ミズキ……?」
あの3人が、目の前に。
何故?と言う目をディアに向ける。
「皆の意見を尊重したまでよ。どんなふうであろうと、皆、生きたいと言っておっただろう?」
「……え、でも、私は」
そうだ、私は死んだはずではないのか。
サクッと殺ってもらったはずなのに、何故?
ますます謎が深まり眉間に皺が寄る。
「あぁ、それはな」
ニヤリと、さながら子供のイタズラがバレた時のような表情を浮かべたディアは、それはそれはビックリ仰天なお話をした。
「確かに俺はメシアにサクッとやってくれと頼まれた。
「しかしその裏には、メシアの奥底には、強い信念が見えたのだ。
「生きたい、と。
「しかし皆の意見もメシアと同じで、生きたいというものだった。
「ならば、話は簡単ではないか。
「メシアを生かし、皆も生かす。
「簡単な話であれど、実際にそれをやるにはそれなりの魔力が必要だった。
「俺は魔王だからな、そんじゃそこらの魔女よりは魔力を持っていたが、少し時間を要した。
「いくら魔王と言えど、少し衰えを感じてな。
「……おいそこ、『歳だもんね』と言っているがまだ300年も生きてないからな?くれぐれも年寄り呼ばわりはしないように。
「……と、話は逸れたがつまり、時間がいると言ったのは決してメシアを殺すための魔力が必要だったわけではなく、メシアとほかの皆を生かすための魔力が必要だっただけなんだ。
「メシアが皆に思いを聞いた後、俺もこっそり聞いたんだ、皆は主人格……メシアを殺してでも生きたいかと。
「そうすれば何だ、皆口を揃えて言うではないか。
「メシアが死ぬなら私たちは死んでもいい、それなら生きたくない、と。
「メシアは愛されているんだ、皆にも、魔王にも。
「魔王が情で人を生かすために魔力を使うなんてなかなかないことだ。
「……なんだ、ルリ。言いたいことはハッキリ言え。何だ、『本当はディアもメシアを殺すつもりなんてなかったんでしょ?』って。
「そうだがそれはここで言うべきことではないだろう。格好がつかないじゃないか。というかもう茶々は入れてくれるな、いいな?
「……ルリのせいでまた話が逸れた。すまん。
「とにかくだ。
「俺はメシアと皆を別々の存在にした。
「一人から四人に増やすんだからな。骨は折れた。
「だが、皆が、俺がメシアを殺したくなかった。
「生きてほしいんだ、メシアだけの人生を。」
「私だけの、人生……」
そう呟くと、皆がうん、と頷いた。
「ディアからこの提案をされた時はビックリしたよー。だって、ボクたちを全員別々の人間にするって言ってたもんねー。」
「えぇ。わたくしたちも驚きましたわ……」
「……でも、実際、別々になってる」
「ふふん、これが魔王の力だ。恐れ慄くがいい」
ディアはそう言ってドヤ顔を決めているが、その表情は褒めて欲しい子犬か子供にしか見えない。
まぁ黙っておくが。
ともあれ。
「……みんな、ありがとう。こんな私を、生かしてくれて。受け入れてくれて」
魔女で、特に感情も表に出すことはなく、話していてもつまらない人間を、こうやって生きながらえさせてくれている。
それだけで私は――、
「ちょっと、何言ってんの?『こんな』私って言ってるけど、ボクたち、まだメシアと話したことないんだけど?」
「そうですわ、わたくしたちは見知らぬ人、ですよ」
「……だから、これからたくさんお話しよ……?」
各々がそう言って、私に笑いかけた。
「……えぇ、皆様、これからも……よろしくお願いします!」
私は彼女ら、そしてディアのもとに駆けていった。




