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【第14話 最後の日】

 魔王ともあれば人のひとりくらい簡単に消せるのだろうと思っていたし、ディアも自負していたのだが、いざやるとなると少し時間がかかるそうだ。

 少しと言っても本当に少しで、昨日から今日の夜くらいまでだろうと言っていた。

 そこは魔王たる所以だろうか。

 ともあれ。

 私は、最後に目に焼き付けておくために街へ出た。

 アリーシアが薬を売っていた石畳の道。

 ルリがご飯を売っていた赤い屋根の家の前。

 ミズキが花を売っていたレンガ造りの店の前。

 誰も店舗を持たず、持とうとも考えていなかったがために、道だったり家の前――勿論ルリの知り合いの家だ――だったり、店の前――同業者に頼み込んで、利益の2割ほどを渡すという形で店の前を借りていた――だったり、客が集まりやすいようで集まりにくい、そんな場所で商売をしていた彼女たち。

 私はただただ、それを黙って見ていた。

 今日も頑張ってるなぁと、他人ではあるが他人ではない彼女たちに、しかし他人事にそう思っていた。

 でも、実際にここに来てみると彼女たちの人生がどれだけ輝いていたのか、手に取るように分かる。

「あれ、今日はあの子いないんだね…そろそろ薬が切れる頃だから買いたかったのになぁ…」

 落胆するおじさん。……一見、変な態度のおじさんだ。否、変態ではない。変な態度のおじさんだ。ここ重要。

「最近ルリさんを見ませんね~…三日に一回だけの贅沢な昼食だったんですけどね~…」

 嘆くお姉さん。……結構贅沢する頻度高いな。

「ミズキいないなぁ…もうっ!いつになったらミズキの花を買えるのよ!まだそうたくさん買えてないのに!」

 憤る乙女。……いやあなた、相当ここで花買ってますよね?私は見てますからね。

 ツッコミどころ満載で性格も性別も容姿もバラバラな彼らだが、しかし皆共通していることがある。


 彼女たちを、愛している。


 おじさんはアリーシアの作った薬を、引いてはアリーシアを。

 ファルファさん(だったっけ?)はルリの作った料理を、引いてはルリを。

 ミオさん(覚えやすい)はミズキを、友人として。


 彼らは、彼女たちを待っている。

 待つ人がいるのだ、彼女たちには。


 なら、私は?


 そう考え始め、いやいやと首を振った。

 そんなこと考えても仕方がない。

 どうせ私は皆のために消えるだけなのだから。


 私は気を取り直して街の景色を目に焼き付けた。



 私は帰るなり、私の腹の虫がディアに空腹を訴えた。

 すると、ディアは私のために料理を振舞ってくれた。

(……ますます魔王らしくない)

 美味しい、美味しいと泣きながら言うと、ディアはそうだろう、と笑った。


 ディアはお風呂上がりの私をディアの部屋に呼んだ。

 そこに入ると、物々しいまでに怪しげな五芒星……?魔法陣のようなものが床に書かれていた。

 そして私は、ディアに言われた通りにその魔法陣の中心に立ち、目を閉じた。


 さようなら、みんな。

 みんなからしたらただの迷惑だっただろうけど、私はとても楽しかったよ。


 さようなら、ディア。

 あなたに会えたのは偶然で、ありえないことばっかりだったし、迷惑かけっぱなしだったけど、とても楽しかったよ。オムライス、最高に美味しかった。本当に、ありがとう。


 伝えきれない、私の想い。

 伝え終わる前に遠ざかる、私の意識。


 さようなら。

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