プロローグ
小学生の頃、僕はどんな奴だったかを思い出す。たしか、ぶっきらぼうで無愛想だった事を覚えている。自分でもうざい子供だろうなと思いながら過ごしていた。
ここで少し、家族の事を思い出してみる。
いつも物静かな父。はっちゃけていて明るかった母。まだまだ小さかった妹...。
今はどうしているかな? 今も明るく、みんなで家族団らんに過ごせているだろうか。
なんだか、心配になってきてしまった。
「かはっ...!」
本当に、なぜこのような状況で家族の事を思い出すのだろうか。吐血しながら、僕は自分の人生をかんがみていた。
「ブハハハハハハ!!! 限界のようだな。人間!!」
今、目の前には、仰仰とした、人外の化け物が高らかに笑っていた。
そして僕は今、持っていた剣を地面に突き刺し、方膝をついた状態で、ふらふらとしていた。はっきり言って、もう意識も朦朧である。
「やはり、魔王や覇王を相手にしたあとの我の相手は人間にはすぎた仕事だったか?」
ニヤリと下卑た笑みをその骸骨のような顔面に称えていた。
「...けんな」
「ん、なにか言ったか? 人間」
「 ...ざけんな。ざけんなって言ってんだよぉおおおおおお!!!」
僕は喉がはち切れんばかりの咆哮をくり出し、力を振り絞って、立ち上がった。
そして、地を力一杯蹴り、走り始めた。
「ほぉ、まだそんな力があったか...!」
勝手にこの世界に呼んできて、なにも力は渡されず、魔王を倒してくれ。倒してくれたらもとの世界に返そう。と書かれた包み紙だけを渡されて、どこかの森のなかに放置。
いきなり出てきた、始めてみる魔物から死に物狂いで逃げていた森の中の日々。
なんとか森を抜け出すも、右も左もわからぬ状態。
運よく、旅をしていた武道家に拾われ、強くしてくれと頼んだのちに来た地獄のような訓練。
そこから失敗や挫折を繰返し、なんとか魔王を倒せる力になるまで鍛えた。
この間、十年。今年で二十三歳だ。
ここまでで、いったい何回修羅場があっただろうか。実際、死と隣り合わせの暮らしだった。
だが、ここまで頑張れた。
実際に、魔王はなんなく倒せ、ようやくこれで帰れると思った。しかし、理不尽なこの世界ではそう簡単にはいかなかった。覇王が出てきたのである。
ふつう魔王を倒した瞬間に出てくるかよ。覇王は魔王のうん倍は強かった。
だが、僕はなんとか勝った。
しかし、身勝手なこの世界に、どうやら僕の安らぎは存在しないようで、すぐさま待ってたかのように覇王の次に邪神が出てきやがった。
なんて理不尽な世界だ。
なんて身勝手な世界だ。
なんて最悪最低な世界だ。
なんて自分勝手な世界だ。
終わらせてやる。今ここで、終止符を打ってやる。
「さぁ、こい! 人間! 私を楽しませてみろぉ!!」
「死ねやぁ!! くそがぁああああ!!!!」
叫ぶ。全身全霊を持って。
その数分後、僕はやっとの思いで邪神を倒していた。
もう力は残っていなく、地面に仰向けになって寝転がっていた。
先ほどまで蔓延っていた曇天は消え去り、今は青く快晴な空が広がるばかりである。
おわった...のだろうか?
なんだか実感がない。達成感と言うものもほとほと来なかった。
ただ心配なのが、もうこれ以上の敵が来ないかである。
魔王を倒して、覇王を倒して、最後に邪神を倒した。もし、これ以上の敵がくるとなったら、はっきり言ってきつい。
そうやって危惧していたら、瞬く間に視界が真っ白になり、見える世界が変わった。
また敵か!
僕はすぐに体制を立て直し、辺りを警戒した。
周りは一面白一色の世界だった。
「やぁ、こんにちは」
背後からした声に、僕はすきを突かれたのかと思い、思いっきり振り返り、ニ三歩後退した。
「そこまで警戒しなくてよい、楽にせい」
そこにいたのは白く長い髭を携え、長い白髪をはやしていた老人だった。服装も白を貴重としたもので、なんだか仙人感がでている。
「...あなたは誰ですか?」
警戒色を込めて放つ声はいやに冷静だった。
「ソナタをこの世界へとつれてきたものだ」
その瞬間、僕の脳内思考は混濁となる。
誰がつれてきたのかと思ったが、このじいさんが?
なぜ僕だったんだ?
というか、なぜそんなにじいさんは無責任に僕にこのような仕事をなすりつけたんだ?
僕の十年を返してくれ。
先ほどまでの混乱が、だんだんと整理されていき、深々とした静かな怒りに変わってゆく。
「まてまてまて、そこまで怒るな。負の感情が駄々漏れているぞ」
焦りを含む声に、僕はそこまで憤怒していたのかと自分でも驚いていた。僕は余り怒らない性格だが、この事に関しては怒りに収集がつかないらしい。
「あなたは一体、なぜこのようなことをしたのですか?」
そこから聞いた、僕が呼ばれた理由。それは僕の魔力が魔王に匹敵するほどだったかららしい。
そして聞かされたこの世界の事情。
一刻の猶予もなく、数百年に一回しかできない世界転移を即刻行ったという。
この世界が壊れたら、神たちの事情が悪くなるのやらどうやら。
今回は一種の賭けだったらしい。ほんの一縷の望みで僕はこの世界へと呼ばれていたのだった。
「本当にすまないと思っている」
さらには謝罪。そして一つの提案。
「どうだろうか、お礼になにかひとつだけ願いを聞き入れよう」
なんて上から目線な。しかも一つて。なめてんのか。
「何でもいいんで、早く返してください。日本に」
そのためにここまで来たんだ。苛立ちを匂わせる声色で僕は言いはなった。
あぁ、そうだ。そういえば願いならあった。
「あの、一つ願いが叶うっていってましたよね? 僕が異世界に呼ばれた時、つまり呼ばれた瞬間の時に僕を返してください。年も若返らせて。それでお願いします」
「あいや、わかった。その条件で君をもとの世界に返すとしよう。では早速だが、帰の義をしたいのだが、よろしいか?」
「はい」
僕が返事をしたあと、神らしいじいさんはなにかを呟き始めた。するとだ、僕の地面から魔方陣がでてきて、眩く白に光る。
僕のからだが消えようとしている。多分これで僕は帰れるようになるのだろう。
感慨深く、薄くなっていく手を見ていた。
しかし、ただこれだけで帰るなんてありえない。長年の夢を僕は果たす。
すなわち、神を殴ったのである。
吹き飛ぶ神。起き上がると、疑念の顔になっていた。
僕は最後にいってやるのだ。
「ざまぁみろ。僕のこれまでの恨みだ」
これで長年の夢はかなった。いつか、僕をここへ誘った奴を殴ろうとしていたのだ。日本へ帰るという目的の次に大切な目的を果たせ、僕は完全にこの場から消え去るのだった。