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初 -introduction-
「どうぞ」
客に紅茶を差し出す、その慣れない所作に指先が震える。
「ありがとう」
それを受け取ると同時に放たれたそっけない謝辞に、緊張が増して身を縮こめた。
二つ上の兄が初めて家に連れて来た親友――『国枝』というらしい――彼は、眉目の整った涼やかな外見に、どこか近寄りがたい壁を感じさせる人物で。けれど、手にした器の中で揺れる紅茶が存外似合うな、と直感的に思った。
持ち上げられた白磁のカップ。直後こくりと喉が鳴る。
「……美味い」
小さな息が漏れ出すのと共に、ほのかな笑みが面に浮く。
緩められた口元、少し和らいだ視線。
壁の内側から突如洩れ出た優しげなそれに、つられてこちらの表情までもが解けていく。
「よかった」
「え?」
「あ、いえ。何でもないです……」
たった一瞬の共有だけれど。
どきどきと高鳴り始めた鼓動と共に、何かが内に生まれ刻まれた気がした。
これがふたりの――はじめの、はじめて。