予兆
第一話だったものを分割したものです
題名を変更しました
ファストロム王国の王都リブロンは、人口二万を擁する大陸南部では有数の都市である。
旧神聖帝国時代から存在するこの荘厳な都も、今はどこか騒然として落ち着かない様子であった。
ロビンたちが王都へ向かって旅をしているころ、その王都の中央を突っ切り、王城へと疾走する一体の騎馬の姿があった。
馬上の人物は城門前に到達すると、下馬し馬を厩番に預ける。
「これはミラン殿。よくぞお戻りになりました」
衛兵は敬礼し騎士を通す。
短髪にいかつい顔、長身で肩幅の広い、このいかにも歴戦の勇士といった風貌の男こそ、ローレンたちが待ちわびていた騎士ミランであった。
約束の場所に現れないわけである。
彼はある人物に召喚され、急ぎ王都に帰還していたのであった。
ミランは王城に入ると目的の場所に向かって大股で歩を進めていく。
途中衛兵に出会ってもみな、敬礼とともに無条件で彼を通した。
騎士ミランの名はこの王都で知れ渡っているのだ。
「リチャード・ミラン、ただいま帰還いたしました」
彼は目的である両開きの立派な樫の扉の前に立って名乗る。
「入りたまえ」
中から低い声が聞こえてくると同時に、ミランは扉を開き中に踏み入った。
中は執務室だった。広々とし、豪華な調度品で飾られたなんとも立派な部屋である。
大きな窓の前には鏡面のように磨き抜かれた執務卓が置かれており、そこには一人の男が腰かけていた。
「報告を」
書類から顔を上げ、部屋の主は騎士に命ずる。年のころは四十過ぎといったところか。
痩せて背が高く、後ろへ撫でつけた髪はすでに灰色になっているが、端正といってもいい顔立ちである。
「探索任務に従事中、わたしは謎の賊と遭遇し、これと交戦しました。敵は五人でありましたが、このうち三名を殺害、一人を捕縛し、残る一人には遺憾ながら逃走を許しました」
「ほう」
男は初めて感心したような表情を見せる。
「賊の捕縛に成功したか。さすがは筆頭騎士だ」
「恐縮です」
「この賊というのはやはりマルヴの手のものなのだろうね」
「すくなくとも、わたしはそう考えております」
「結構。後でわたし自ら尋問するとしよう」
男は満足げに笑うと話を変える。
「時に探索任務の方はどうだ?」
「残念ながら、わたしの方では発見には至りませんでした。ですが、いまだ騎士モースタンと、傭兵ファルーク、ホスンの三名が任務を続行中であります。何らかの報告があるやもしれません」
「そのことだが、実は先ほどローレン・モースタンから報告があった。目的の人物の確保に成功し、明日中にも王都に帰還するとのことだった」
「さようでございますか」
ミランの目がすっと細くなる。
「ではいよいよ『旅』が始まるわけですね」
「そうだ、わが国、いや、大陸全土の命運をかけた『旅』がな……」
男はそういってミランに背を向け背後の窓を見やる。
外は突如湧いて出た暗雲が立ち込め、今にも雨が降りだしそうな空模様であった。