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灰の大陸  作者: 森木冬二
混迷の大陸
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蠢動

 新たに狩人のダークを加えたロビンたちが最初の目的地、エンドア王国を目指して旅を続けているころ。


 王都リブロンの王城の一室では王室顧問会議が開かれていた。 

 病臥した王に代わって国政に関する決定を行う重要な場である。

 ちょうど今そこではバイロン将軍が報告を行っていた。


「先日の騒乱に関してですが、衛兵たちの活躍により王都へ侵入した賊はすべて討ち果たされました。しかしながら、ブランシェット公爵、ブラント子爵をはじめ、居合わせた重臣に複数の犠牲者が出ており、また、式典の見物に来ていた市民も多数が犠牲となりました」

「賊の正体については何か判明しているのか?」

 亡くなったウィンスレット公爵に代わって軍務卿に就任したボーゼン男爵が質問する。

「それに関しましては目下調査中です」

「では賊の侵入経路については? 王都の正門およびその周辺では異常はなく、まるで突如湧いたかのように城下町に姿を現したとのことだが」

「その点についても現在調査中で……」

「つまり何もわかっておらんのか!? 式典に賊の乱入を許したことといい、これは貴公の失態というしかないな、将軍」

 ボーゼンが声を張り上げるとバイロン将軍は巨体をすくめる。

「返す言葉もありませぬ。もちろんわたしめもこのままこの地位にとどまるつもりは毛頭なく、事件の処理が終わり次第、将軍の地位を返上し――」

「それは困る」

 その声は大きくはなかったが、不思議とその場にいた者全員の視線を集める効果があった。

「……何かご意見がおありのようですな、内務卿」

 ボーゼンは声の主に向かって言う。

「確かにこたびのことはバイロン将軍の失態ではあるでしょう」

 ウィルクス卿は静かに話す。

「だが、優秀な指揮官であるバイロン殿はわが国にとって不可欠な人材だ。とりわけガレリアとの戦争が目前に迫った今は」

「真相究明に関しても純粋な武人であるバイロン将軍にとって、こういった調査活動は得手ではないはず。あとはこちらで引き受けましょう」

 そしてウィルクスは一同をぐるりと眺め渡す。誰も彼の視線をまともに受けようとはしない。

 最大の政敵であったウィンスレット公爵亡き今、彼に逆らえるものはいないのだ。

 結局、ウィルクス卿の提案はすべて通り、王室顧問会議は終了したのであった。


 


 大陸のいずことも知れぬ雪深い山中。

 さらにその地下深くにある暗闇に支配された神殿で二人の男が話し合っていた。


「ついに、ファストロムの子せがれの『旅』が始まったそうだな」

 そのうちの一人が口を開く。まるで下僕に話しかけるかのような尊大な口調だ。

「いかにも」

「これまでに何度もやつを葬る機会がありながら、いったい貴様らは何をしていた?」

 尊大な口調の男が続ける。

 金糸銀糸で刺繍がされた濃紺のローブをまとい、フードを目深にかぶっているため、顔はほとんどわからない。

 ただ、時折その両眼から赤い光が漏れるのみだ。

「われらとて手をこまねいていたわけではない」

 もう一人の男が淡々と話す。何の特徴もないのっぺりとした仮面のような容貌だ。

 こちらもローブをまとっているのは同様だが、その身なりは相手の男と比べひどく粗末だった。

「ほう? では一体何をしていた。役立たずの現地の賊を小僧にけしかけていたのか?」

「利用できるものを利用したまでのこと。ファストロムは遠くわれらの力も及ばぬ」

 表情のない男は相変わらず淡々とした口調だった。

 いや、むしろ感情が欠落した、といった方が正しいかもしれない。

「ならば朗報だ。やつらは恐らく右回りで五王国を訪れる。つまり、向こうからこちらに近づいてくれるというわけだ」

 尊大な男の両眼が暗闇に不気味な赤い光を放つ。

「今後は外の人間になど任せず、貴様ら『夜陰』自ら動くのだ。小僧を呪われた都に入れてはならぬ。その前に必ず殺せ。わかったな」

「仰せのままに、ゼノン様」

 ふいに空気が乱れると、ゼノンと呼ばれた男の気配はかき消すように消えてしまった。


 一人取り残された男はまるで闇と同化したかのように、しばらく薄暗い神殿内に立ち続けていたが、ややもするとどこからともなく影が複数男の方によってくる。

 男はそれらに向かい相変わらず抑揚のない声で短く指示を出すのだった。


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