深紅の記憶
元タイトル「光の中」から全面的に書き直しました
気づくと少年は見知らぬ場所にいた。
大理石製の石畳に周囲には白亜の円柱が立ち並ぶ、荘厳な神殿のような場所だ。
少年はそこを静かに歩く。なんとなく物音を立ててはならないような気がしたからだ。
しばらく進むと奥に人影が見えてきた。
豪奢な椅子に腰かけた人物だ。
その人は若い女性らしい。長く白い衣装をまとい、金色の髪を肩に垂らした彼女は、そのきゃしゃな体を不釣り合いな巨大な椅子にもたらせかけている。
ずっとうつむいたままで顔はよく見えず、ひじ掛けに乗せられたその手はあまりに白く身じろぎ一つしない。
少年は女性が死んでいるのではないかと一瞬思ったが、どうやら彼女は疲れ切って深い眠りについているようだった。
その顔をよく見ようと少年はさらに歩を進めたが、その時突如として世界が一変した。
今度は、少年は暗く狭い場所にいた。
足元にはきれいな服が折りたたまれている。どうやら衣装箱か何かの中にいるようだ。
わずかに箱には隙間がある。少年はそこから外の様子をうかがおうとする。小さな背中が見える。
その時箱が動きわずかに音がした。
「だめだ」
背中の主は押し殺した声を出す。まだあどけなさの残る男の子の声だ。
「ちゃんと隠れてないと。もうすぐやつが来る――」
激しい物音が聞こえた。何者かが扉をけ破ったのだ。
その何者かが部屋に押し入ってくる。
箱の隙間からわずかにそれが見えた。
暗い色のローブをまとい、冷たい刃を携えた影のような人物。
フードの隙間からわずかにのぞくのは異様な光を放つ深紅の双眸。
目の前の男の子の背中は震えていた。
にもかかわらずそこを動こうとはしない。
その背中から突如として刃が飛び出す。
激しい血しぶきが舞い少年の視界は深紅に染まる。
そしてとどろく狂ったような笑声。
低く暗く、まるで地獄の外から聞こえてくるかのような恐ろしい声――。