1ー21 バトル回 その男チートにつき
よろしくお願いします
「…何処に居たかって言われても知ってますよね?あなた達が送った刺客達によって拉致されていたんですよ。街の外へと連れて行かれ危うく殺されかけましたよ。」
「は?刺客なんて知らんぞ!私はそんな指示は出していない!!」
知らなくて当たり前です。口から出まかせの大嘘ですからね。
「刺客達があなた達に命令されたと言ってたんですよ。まあ刺客達は全員髪も残さず消滅させて、返り討ちにしましたけどね?なので証拠は無いのですよ。」
「大嘘だ!!証拠が無いじゃないか!証拠が無ければ信じられるものかッ!!」
「なら、貴方が命令していないと云う証拠を見せてくださいよ。無いなら貴方の言い分も信じられる訳無いじゃないですか。」
「やっても無いのに証拠があるか!!それにお前———」
「もういいですよ。理由がどうであれ貴方が契約を破ったのは間違いの無い事実なんですから。貴方も商人なら契約書の重みは解りますよね?だから契約に基づき貴方の全財産ともう一つの方も頂きますよ。もちろん、そこに居る子爵のお孫様からも取り立てますよ?保証人なんですから。」
「この無礼者めッ!!僕は子爵家の嫡孫だぞ、平民風情が付け上がるな!」
バカ孫が上から目線で怒りました。14歳にしてはまだ余裕が有りますね。一方トートスは顔は真っ赤で浮かび上がった血管がリアルでブチ切れそうです。
「貴様なんかの好きな様にやらせるかッ!!…き、貴様に私の…私の財産の 全てを 奪われるくらいなら…………」
「…お前がいなければ、今頃エルフを好きに出来たのに!それなのに!!僕を誰だと思っているんだ!この領内に住む奴等は僕なら好きにしてもいいんだ!………なのに、なのに、なのにぃぃぃ…………」
瞳孔が開き目の焦点が合っていないトートス。小さい子供の様に話しながら徐々に興奮しだしたバカ孫。そして2人の言葉が偶然重なった。
「「…殺してやる」」
ミケとトモエがスッと前に出ます。
「ナツオには指一本触れさせないわ」
「ナツオには近付けさせません」
いつもの雰囲気とは全く違い、凛として神々しくもある2匹。神の使いは伊達では無いようです。ミケとトモエの雰囲気に呑まれたのかトートスとバカ孫が少し躊躇しています。
その隙に俺は懐から昨日契約した特別な誓紙を出して、そっと魔力を流した。
目の前に昨日契約により焼失した特別な誓紙が、白い炎に包まれ時間を巻き戻す様に再生されていく。
再生し終わると誓紙は薄く輝き、誓紙を中心として魔法陣が浮かび上がった。
「聖約を侵す者に断罪を要求する。」
俺が文言を唱える。すると魔法陣から ————— 無機質な精霊王達の重なった声が響いた ——
『契約者による申請を確認開始 ————— 確認完了。申請を是と承認。—— 聖約壱號を侵す者を確認開始 ———— 確認完了。—— 聖約による断罪を履行。契約者の文言により行動開始。』
突然上空に別の大きな魔法陣が浮かぶ。
その魔法陣から人と思えない莫大な魔力を感じさせる2体のフルプレートの騎士らしきモノが降り立った。
片方は全身水色の細くスリムなフルプレートで両手に細い剣を握りしめている。もう片方の方は全身黒のフルプレートで左手に黒のハルバートを握っている。
生命感の感じられ無い2体は、共に兜の奥は全く見えず人かどうかも確認出来ない。
剣やハルバートをだらりと下げ、降りて来た場所にそのまま佇んでいる2体。
そんな異様な光景をバカ孫やトートスを始め他の面々も、少し距離を取りただ固唾を飲んで見守っているだけだった。
「契約不履行、断罪開始」
俺が静かに唱えた文言が辺りに響いた。
水色のフルプレートの姿が消えた、人の目にはそう見えた。
『お"ぼ"』そんな声が聞こえたと思えば、次の瞬間トートスの目の前にいた。両腕を突き出した格好で。
そして右手に握る剣は心臓を刺し貫き、左手に握る剣は口の中から後頭部へと刺し貫かれている。
両手の剣を引き抜くとトートスの身体は後ろへと倒れ落ちた。
水色のフルプレートは降り立った時と同じく、剣を持った両腕をだらりと下げてその場で佇んでいる。
黒色のフルプレートはゆっくりと子爵の孫グレイマンの方へと進む。
グレイマンの護衛2人が剣を抜き前に出る。そして黒色のフルプレートの正面と右側から切りかかった。
黒色のフルプレートの両腕がブレた様に見えなくなった。
"ザシュッ""ボンッ"という音が聞こえ終われば左腕に握ったハルバートは正面護衛の頭の上から股下へと振り抜かれ、右腕は裏拳を放った後の様に握られた拳は右側に伸びていた。
正面の護衛はハルバートで頭から真っ二つにされ、右側から切りかかった護衛は裏拳によって剣ごと頭を爆散させていた。そして ————
「え?」
信じられないモノを見た時の間の抜けた言葉。それがグレイマンの最後の言葉になった。
いつの間にか水色のフルプレートがグレイマンの正面に立ち右手の剣を真横に振り抜いた。
頭を失った身体は首から血が噴き出し後ろへと倒れ、そして頭部は空中をクルクルと回転しながらドサリと地面へと落ちた。
2体のフルプレートは体勢を整えその場で静かに佇んだ。
『断罪終了。—— 契約は守られた ———— 精霊界へと帰投。』
精霊王達の声が再び響く。すると上空の魔法陣と2体のフルプレートは輝く細かい粒子となって消えていった。
そして俺の目の前にある聖約書は魔法陣が消え碧い炎によって再び焼失した。
僅かな時間の間に4人の命が奪われたその場所は静寂に包まれていた。
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