はち
おまけのフィレスターン
目が覚めたときレーナの匂いがしなくてイラっとした。
「てか、ここってどこ?」
記憶を探ると巫女を部屋に連れてって、帰りの馬車待ちをしていたところから途切れてる。
何俺?
ズボンは履いてるけど、上半身モロ出し...。
レーナにしか見せたことないのにっ!
体を起こすとカチャカチャと軽快な金属音が聞こえてくる。
「は?鎖?」
どうやら足かせを付けられたらしい。
「...いい度胸じゃねぇか
特別な虎でも飼いましょうってか?」
フツフツと怒りが湧いてくる。
とりあえず鎖に火の魔術を当てて、どんどん温度を上げてみる。
熱にあてられて寝具が燃え始める。
それでも構わず温度を上げてくと、ドロッと溶け出してボタボタと下に鎖だったモノが落ちた。
そこからまた火の手が上がる。
「こんなちゃちい拘束具で、俺をとどめることができるとでも思ってんのか?
ほらほら、カワイイ虎さんが逃げ出してしまいますよ~」
フンッと鼻を鳴らして歩き出す。
輪っかはまだ足にはまったままだから、カチャカチャうるさい。
「このまま普通に出てってもつまらないね。
いい演出でもしてあげようかなぁ~~」
そう言いブツブツ詠唱しながらいったん手を合わせ、離すと手のひらの間からバチバチと稲妻が現れてくる。
どんどんと光が大きくなっていく。
手のひらをドアノブに向けた瞬間一気に稲妻はドアノブへと走り、ドアそのものを壊しながら地面を揺らすような大きな音になった。
「たまや~~~~!
や~~もう本当、僧兵のみんな急いできてね。
俺がけっちょんけっちょんに潰してあげるから」
もうもうと煙がたちこめる中、騒々しい足音が近づいてくるのがわかった。
「俺、マジで魔術師隊でもやってけるかも~~~」
最初に来た僧兵が床に転がっている。
すでに火事になりつつある部屋を振り返り、小さな竜巻を起こして火災旋風を作る。
バカな巫女を育てる神殿なぞ燃えてしまえ~~~!
「ほら、僧兵さん。
あんたら早く逃げないと巻き込まれちゃうよ」
まだ意識のある何人かに声をかけてあげる。
レーナが悲しむことはしたくないからね~。
長々とした廊下を、奪った剣で暴れながらエントランスに着くと、奥から巫女が走ってやってくる。
「フィレス!
なんてことをなさるの?」
「ははは、そっちこそ何考えてんの?」
おおかた、自分のことだろうけどね。
「わたくしはフィレスを思って...」
「へぇ、拘束具のどこが俺を思ってしたの?」
チャリっと足首に残ってる輪っかが鳴る。
「フィレスは優しいから、ご自宅に居座ってるヘンな女の気持ちが断れないのでしょう?
だったらせめてわたくしが拘束したせいにして、あなたの罪の意識を軽くして差し上げようと...」
ウルウルした眼差しで見つめてくる巫女の頬スレスレに、氷の刃を飛ばす。
「それ、やめてくんない?
ヘンな女って自分のことでしょ?
俺の恋人さして言ってんなら殺すよ?」
「な、フィレス殿!
巫女様に失礼ですっ!
せっかくの巫女様のご厚情を...」
一緒に付き従っている僧兵や司教が怒り出す。
「あんたらがさぁ、まともに育てないからこうなったんでしょ?
わかる?
俺誘拐監禁されてたの、知ってるよね?」
右手から炎が吹き出し始める。
「おまけに上半身裸にひん剥かれてて、寝てる間に拘束具付けられたりイタズラされてんの。
体からその頭おかしい巫女のニオイ、臭いもん。
おぇっっ...吐きそう。
ねぇ...俺の怒り、わかるよね?」
修道女が「まぁ!」と声を上げ真っ赤になる。
と、突然フィレスが打って変わって今までにない眩しい笑顔に変わる。
女性全員が見とれる中「やだ、フィレス!?あなた女の人に喰べられちゃったの?!」と、素っ頓狂な声が聞こえた。




