さん
へたですみません
「こんにちは、第三騎士団を任されてる、フィレスといいます。
フィーと呼んでくださいね」
恍惚とした微笑で微笑む男を、呆然とレーナは仰ぎ見る。
漆黒の髪から黄と黒の耳が見え、耳と同じ黄と黒の縞模様のシッポが左右にゆらりゆらりと揺れる。
麗しの...とはこういうことだろうか?
黄金色の目が焚き火の火に照らされて、ユラユラと色を変えていく。
健康的でたくましい、そして隙のない身のこなしだった。
虎の獣人...
出入り口は塞がれてた。
完全に退路を塞がれた形になってしまった。
呆然としたレーナにフィレスは首をかしげる。
「お名前をうかがっても?」
その言葉にレーナは我に返った。
「じょじょじょ冗談じゃないわよ!
ああ、あ、あんたとはもう会わないんだから、名前のやりとりも必要ないじゃない!!」
その間に必死に逃げ道を探す。
なんでここにいるってばれた?!
どうして見つかった?!
捕まるなんて考えたくもない!
娼館に売られてく仲間を遠くから何度も見た。
あんなの絶対嫌だ!!
荷物を抱え込み洞窟の奥へ後ずさる。
「ははは、俺はこれっきりさせないつもりだよ」
にっこり微笑みながらフィレスが前に歩み出る。
ひいぃぃいい!!
コワイよ!!
あいつ目が笑ってないよ!!
冗談じゃないよ
レーナはワタワタと奥へ逃げ込んだ。
フィレスがにこにこと追ってくる。
小さい洞窟のため、レーナはあっという間に追い詰められてしまった。
最悪だ!
一番見つかっちゃいけないやつに見つかっちゃたじゃないか!!
絶対絶対逃げ切ってやる!!
とうさまは絶対的魔力。
かあさまは動物としゃべれる。
わたしは____...。
「動くなぁ!!!! フィレス!!!!!」
レーナは大声で叫んだ。
「...う~ん、最初に名前をお伝えしたのは、うかつでしたね~」
フォレスは固まった。
微動すらせず。
「ご愁傷様、いつか解けるでしょ。
あんたの魔力次第で。
忘れ物ありがとう。
さよなら、二度と会わないわ」
するりと脇を抜け、レーナはフォレスの持つ罠をむしりとって、入口へと歩を進める。
レーナは名前さえ知っていれば、相手を従わせる力を持っていた。
あまり他者との接点はなかったが、1度の命令で短くても30分、長くて半日の拘束力はあった。
人並みの能力しかないレーナが一人でやっていけたのも、この能力のおかげだった。
雪はまだまだ降ってはいたが、こんな危ない奴といるよりは遭難の危険があっても、越境を選んだほうがマシだ。
軍人なんかかおいそれと越境したら国としてもまずいだろう。
うぇ...、雪ひどくなってんじゃん。
クソ!遭難したら化けて出てやる。
そんなことを思った瞬間、ゾッと背中がする。
「あなたとの関係は、これっきりにしないと言ったでしょう?」
嬉しそうに微笑むフィレスが背後に立っていた。
グッと腰に腕をまわされ、眠りの詠唱をされる。
「ごめんね、俺ってけっこうワガママなんだ」
「ちょ、規格...外...」
そのままレーナは深い夢の中へ落ちていった。




