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天の蜜、天の香り  作者: ふもふも
移り香
25/36

いち

ちょっと不機嫌になりながら、風呂からフィレスが戻ってくる。

タオルを肩から外し、なにやらこちらをジィっと見つめている。

どうせ風呂に入りながら、変なことでも思いついたんだろう。

相手にしないことが一番と無視する。


「レーナ、俺...重要なことに気がついた...」

名前を呼ばれてしまったなら、無視するわけにはいかないではないか...と、ちらり視線を移す。


「俺、レーナから『好き』とか言われたことないっ!」


2ヶ月もかかってお屋敷は修復された。

フィレスは鼻にしわを寄せて、ちょっと不機嫌にしていたけど...。

壁紙だって絨毯だってぜ~~んぶ張り替えた、けどどうやらまだ侵入した獣人臭いらしい。

鼻がいいのも考えものね。


まぁ私としては、無事に屋敷に戻って来れてホッとした!

根付いちゃったなぁって思う。

最初は仮の宿だったんだけどぁ...。


な~んて、現実逃避しながら「あっそ、よろしゅうございました」と返事をして本を閉じ、寝室に移動する。

「レーナぁ~!」

情けない声が聞こえてきたけど、そんなの知らん!

意地になってるのか性格なのか、自分からそんなこと恥ずかしくて言えない。

「好き」だとか簡単に言えるあんたが普通じゃないんだ...絶対。

想像だけで恥ずかしくなって赤くなった頬をおおいながら、さっさとベッドに潜り込む。


だいたい嫌いな人に毎晩体を許すほど、私は腐っちゃいないっ!

いそいそと隣に入ってくるフィレスに背を向けて拒絶してやる。

そんな拒絶、どってことないもんね~と抱きしめてくるフィレスの体温は、私より温かくて肩の力が抜ける。

「レーナ、キスしようよ」と言うフィレスにそっとキスを返した。




「じゃ、レーナ...行ってくる」

朝からフィレスは行きたくないとグズグズしてる。

「はぁい、遅刻するから!

 いってらっしゃいっ!」

ベタベタするフィレスを玄関までどうにか連れ出して、グズグズするのも構わず馬に乗らせる。

ビシッと隊長服を着こなしているのに、口を開くとガッカリ感が半端ない。

鍛錬所でキャアキャア言われてるのが幻かと思うよ。


ほら、門から出ていくあの姿。

遠目で見ると黒い軍服が雰囲気に相まってかっこいいのに...。



「レーナ様、今日はいかがなさいますか」

隣で一緒に見送っていたメンフィスが声をかけてくる。

「今日は王城と城下で花祭りでしょう?

 それを見に行こうかと思ってるの」

「それではリリーをつけましょう」

「平気よ、みんな忙しいでしょう?

 大通りからは出ないわ」

「お一人では危険です。

 フィレス様に叱られてしまいますので、護衛にリリーをつけないのなら外出はご遠慮願います」


獣人に襲われてフィレスは私に護衛を付けることにした。

「私はどこぞのお嬢様だ!」と言ったけど「俺が安心する!」とか「つけなきゃ毎日仕事場に連れてく」とか断言されて、押し切られてしまった。

リリーは元々隣国の軍隊所属だったんだけど、上司と大喧嘩してぶん殴って辞めたらしい。

機密に関わるからと他の軍には勤めないみたいで、フィレスが「人材的にちょうどいい」と言って雇った。


「はぁい、わかりましたぁ~」

渋々メンフィスに合意する。

セルジュの香りのせいで、メンフィスにはめちゃくちゃ迷惑をかけてしまった。

料理人のガルガリは「いつもキッチリされているメンフィス様が、無精ひげを生やしたままイライラとお仕事をする姿は、見ているこちらがいたたまれませんでした」と語っていた。

あれ以来、頭が上がらない。



「レーナ様~~!

 そろそろよろしいですかぁ~~!!」

陽気なリリーの声がドアの外から聞こえてきた。

「は~~い!

 今行きます~~!」


初めての花祭り、とても楽しみだ


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