よん
フィレス視点
誰に八つ当たりしてやろうか...。
グルルルッと唸り声を上げながら、部屋を行ったり来たりする。
朝、目が覚めた時は良かった、最高だった。
まどろむレーナをギリギリまで堪能して...そうだ、軍事施設に入ったまではいつも通りだった。
そうだ、部屋に姫が入ってきたあたりでおかしくなったんだ。
「合同演習の調印式があるから、外交官3名と魔術師隊の副隊長と第三番隊副隊長と今すぐ行くように」
なんて言われて「第一番隊隊長にお譲りしますので、俺は定時に帰ります」と言ったあたりから記憶がない。
目が覚めたら馬車に突っ込まれてて、耳には魔力封じのピアスがはまってるし、暴れだしたい気分だった。
実際ロックに掴みかかったけど...。
そのあと歯噛みしながら国境沿いのオーランド城に着いた。
外交官に「懇親パーティなんて必要ねぇ、今すぐ早く速攻で調印を終わらせろ」とどついたけど、調印式は明日だから、決まった予定はそう簡単に変えられないねぇ!なんてのらりくらりとかわされた。
これっぽちも、1ミリも面白くない懇親パーティで、鼻息の荒い女を紹介されたり紹介されたり紹介された...結果っっ、ロックも魔術師副隊長も近寄らない俺の状態を全くものともしない、空気の読まない奴はたくさんいるんだとよく分かった夜だった。
そして今!!
調印が締結されてすぐ、大雨で橋が流されたという報告が入ったんだが...、どういうことなんだっっ!!!
姫は現在隣国に訪問していて、国内には不在だ。
ネックレスの効果なんて、せいぜい5日が限度だろう。
「フィレス!!
早馬が用意できた!
行くぞっ」
走ってきたロックが声をかけてくる。
軍馬は半端なく金もかかって、なおかつ手入れされてて、走り潰したらあとで色々とやっかいだ。
「絶対八つ当たりしてやるからなっっ」
げぇぇ!というロックの顔を歯をむき出して睨みつける。
「橋が流されたのはオレのせいじゃねぇ!!
逆に馬を用意したオレに感謝しろ!」
二人して馬に飛び乗る。
「馬が疲れ出したら街で馬を代える!」
「りょうかーい」
走り出した馬は予想以上の走りをみせ、見事に早かった。
2週間かかる行程を10日で駆け抜けた。
郊外に建つ屋敷を見て吐き気がした。
入口のドアが外れ、横に投げてあった。
割れた窓やドアのなくなった入口からレーナの香りが漏れ出ている。
「うっわ...これは、いろんな意味でヤバイ。
頭がクラクラ酩酊する...」
横でロックがうめく。
「レーナに手を出してみろ。
殺すぞ」
その瞬間俺の腕輪がビリッと電撃を放った。
危険回避の術が作動した合図だ!
...レーナッッ!!
魔力封じのピアスをひっぱり耳からむしり取る。
ポタポタ耳から血がながれるけど、そんなことかまってられるか。
「...持ってろ」
ピアスをポイッとロックに預けると、屋敷をまるまる魔力で包んで、匂いがもれないようにしながら徐々に小さくする。
「ふぃれすぅぅう、こわいよぉぉ!!
たすけてぇぇ...」
レーナの悲痛な声に走り出し入口に手をかけると、そこにはぐちゃぐちゃに破壊された部屋に倒れたメンフィスと、ボロボロになって泣いているレーナと、今まさにレーナに手をかけようとする獣人がいた...。




