に
「レーナ様、とてもまずいことになりました。
7日にして、ほぼこの部屋全体に香りが充満しております。
どうやらネックレスの効果が切れてきたようですね。
窓はお開けになりませんよう、お願い申し上げます」
執事のメンフィスがちょっとトロ~ンとした顔で告げてくる。
絶望だ...。
早くも効果が切れてきた。
王家に「ふっざけんな!こちとらの命かけてまで必要な調印式だったんかぃ!」と怒鳴り込みたいとこだけど、王族なんか簡単に会えるかどうかも賭けだし、香りを振りまいてまで行く勇気も当然ない。
「...りょ、了解よ。
メンフィス...よだれ」
今更だけど、メンフィスとロックは亜人だ。
メンフィスはエルフ、ロックは吸血鬼。
だから鼻や耳などの五感はニンゲンよりもずっといい。
トップクラスは獣人だけど、獣人は基本的にソロを好む。
数にものを言わせたら、いくら戦闘や能力に長けた獣人も、団結した亜人やニンゲンには負けるだろう。
ってことで、話はそれたけど、メンフィスはフィレスへの忠義と尋常ではない忍耐と精神力で、よだれにおさまってるにすぎない。
「し、失礼しました」
「ともかく私は部屋から出ないよう...あ、地下があったわよね?
私しばらくあそこにいるわ」
「しかしあそこは...」
「娼館なんて選択肢の確率がこれから上がる部屋は絶対いやよ!
地下の方が数倍マシ!!」
「...わかりました
至急用意します」
もともと野宿やらしてた私には、地下もなかなか住み心地は良かった。
...ちとカビ臭いけど。
ワインも飲み放題!ひゃっほ~!
「レーナ様、なかなか楽しそうですね」
ニンゲンの料理長ガルガリが食事を持ってきてくれた。
ニンゲンの五感が一番鈍いからね、メンフィスは部屋でヨダレを垂らしたあの日以来会ってない。
たぶん、会ったらまずいと理解してるんだろう。
「そうね、ロウソクもいっぱいくれたし、なんだかちょっとした秘密基地気分よ」
クスクス笑いながらガルガリと話す。
「私にとったら『最高級の香水』という感じで、そこまで変わりありませんけどねぇ。
まぁその最高級の香水を嗅いだ経験ありませんけどね!」
キョロキョロ見渡しながらガルガリが首をかしげる。
「たはは、みんなそうだといいんだけどね...」
ようやく10日くらい経った?
私は知らなかったけど、鼻のいい狼とかの獣人が屋敷の周りにチラホラ集まっていた。
そして屋敷の中で、頭を打ち付けつつ四六時中ヨダレと格闘していたメンフィスのことも知らない。
性格変わってないことを祈ります




