第6話 「黄金週間:未練」
Side. Secret
「…………いいのか? 神羅。妹さんに会わなくても」
5月1日。特に何の予定もなかった俺は今日は一日自分の部屋でくつろいでいようと思っていたところを、小学以来の友人に呼び出されていた。
そのまま二人で特に何の意味もなく街中をぶらぶらしていると、たまたま同じ学校の生徒と道端ですれ違った。
「いいのかって、何のことだ?」
自分では分かっている。しかし、この場ではどうしてもそう言う風にそらすしかなかった。
「なにがって、今の芹菜って娘、お前の妹なんだろ?」
その友人の一言は、俺の心の奥のある思いを蘇らせた。
俺には二つほど年の離れた妹がいる。彼女の名前は御剣芹菜。優秀な魔法師である両親の間に生まれた正真正銘の天才だ。
若干8歳にしてその溢れんばかりの魔法の才能に開花し、周囲の大人たちを驚かせた。
なぜなら、彼女の使う魔法は、使い手の少ない上位三属性の一角を占める「生命」。他の「時」や「幻惑」と比べて最も人数の少ないとされているそんな属性の魔法なのだ。
上位属性を操るものは大抵の人間なら大抵は自身のその属性以外にはあまりうまく扱うことができないとされている。しかし彼女は自身の扱う「生命」に加え、「地」「水」「風」までも得意とする正真正銘の神童であった。
それとは対照的に、兄である俺には魔法の才能は一切なかった。
普通魔法師の良心をもつものならば、多少なりとも魔法が使えるはずである。しかし、俺は燃え盛る獄炎を出すことも、荒れ狂う暴風を操ることも、大地を轟く雷鳴を起こすこともできなかった。それどころか、ライター程度の大きさの炎ですら満足に起こすこともできなかった。
周囲の大人たちは、俺にはなんの目もくれなかった。それどころか、俺のことを出来そこない呼ばわりし、妹ばかりを賞賛していた。
流石の妹も、俺のことを気遣っていたのかあまり大きな態度をとることはなかった。だがむしろそれが周囲の大人たちには今のままの力ではまだ満足していなく、より高みを目指す姿勢に映ったようだった。
それまでは、何処にでもいるような仲のいい兄妹だったのに…………。
俺と一緒にいるときは、妹は魔法については何も言わなかった。
妹なりの気づかいだったのだろうか? だけど、むしろそれが俺の心をさらに傷付けた。
実の妹相手に当時の俺は一体何を意地になっていたのだろうか?
魔法の才能なんて今にして思えば別に大したことではない。
だが、当時の俺にとってはかなりのウェイトを占めていたようで、そんな大人たちや、妹と一緒にいることが徐々に苦痛となっていった。
だから小五のちょうど今頃、俺は家から一人逃げ出した。
「…………まあな」
今にして思うと、こいつとの付き合いも長いものだな。家出した後、一人さびしく公園のベンチに腰かけていたときに、こいつが話しかけてきたんだったけな。
あのときの俺は変な意地はって隣町にまで行って挙句の果てに道に迷って途方に暮れていたんだっけな。
そんなときにこいつは俺に声をかけてきた。そのまま公園で暫く話すうちに意気投合して、そのままこいつにくっついて行ったんだったな。
こいつの家はなんでも両親が失踪して当時高校生の姉との二人暮らし。
そんな家に俺は中三までの四年間も居候させてもらったんだよな。
なんだかんだで、こいつには感謝しているし、こいつの姉の華織さんにはそれこそ感謝しても感謝しきれない。
「まあなって、あのなあ。七年たってんだからそろそろ帰ってもいいんじゃないか? あのころに比べてお前はだいぶ強くなってるいんだし」
友人はそう言う。
「そうは言ってもな。今更帰ろうにもどんなつらさげて帰ればいいのかわからないしな」
その言葉にこいつは噴き出して笑った。
「あのな、お前の両親七校で教師やってんだし気付いてないわけないだろう。流石に娘にそのことを言っているかは知らないがな」
そうなのだ。俺の両親は七校で教師をやっている。しかも…………。
「親父には入学式の日そうそう一体いつになったら帰ってるんだって聞かれたしな」
入学した当時の俺のクラスの担任が親父という現象によって、入学当日には両親にはばれた。
「しっかしまあ、あれだよな。家出したのにもかかわらずその両親がいる学校に進学するのってなんかあれだよな」
「いや、そうでもないさ」
「どういうことだ?」
友人は不思議そうな目を俺に向けてきた。
「あのまま違う高校に進学するってことも考えなかったわけじゃないさ。でもな、それじゃただ逃げているだけじゃないか」
友人は一瞬なに言っているのこいつ? みたいな顔を向けてきたが、すぐに「お前らしいと言えば、お前らしいか」といった。
ふと、後ろを振り返る。
俺のことを自分の兄だとは気付かずにすれ違って行った俺の妹は、いつしか見えなくなっていた。
どうも、お久しぶりのマチャピンです。
今回のお話はGW編の二人目、芹菜のお兄ちゃんのお話です。
こいつは作者のお気に入りの男性キャラの一人です。だからもっと出番を増やしたいんですけど…………。
まあ、まだ先は長いのでおいおい出番が、というより……?
それでは、本日はこの辺で筆を置かせていただきます。