プロローグ1「ある日の生徒会室にて」
「ただ今戻りました」
午前授業で放課となった金曜日の午後。
俺――佐藤太郎――は先代の会長が残していったソファーに腰掛けていた。
佐藤太郎…………、本当に自分はなんでこんな名前を名乗っているんだと考えることもある。
実際に変える機会なんていくらでもあったし、そもそもこの名前すら本名ではなく偽名なのだが、とある事情があってからはずっとこの名前で通している。
今の生活の中では本名を名乗る機会はないし、友人知人の中で本名を知っているのはテツとつばさしかいない。
いや、かつてのと言えば……。いや、今はもういい。自ら選んだ道だ。
そんなことを考えていると、とあることに対しての情報収集のために派遣した三人の生徒会メンバーのうち、唯一の二学年で俺の本名を知らない、如月風音の声が聞こえた。
風音は普段自身が座っている席に腰かけ、こちらを向く。
「テツ先輩と、つばさ先輩はどちらに?」
どうやら話題は、残る二人のメンバーのようだ。
「あいつらならたぶん購買に言っているはずだな。さっきつばさが、<魔力銃弾>がきれたとか言ってたからな。その媒体でも買ってるんじゃないか?」
「……そうですか。確かにあの人の魔法を考えると事前にストックしといたほうが有効な場合の方が多いですもんね」
<魔力銃弾>。それは自身の魔力を一時的に物質化させ、ビン状の物体の中に格納するためのアイテムである。
実際は全てを変換できるわけではなく、5パーセントほどのロスが生じるはずだが、その人が保有できる魔力以上を扱うことのできるためにこのんで使用する魔法師も多く存在している。
欠点は先にも述べたとおり百パーセントの魔力を行使できない点と、本人しか使用できない点である。
もっとも、これを含めても年間数億個は売れるらしい。一個の単価が二十円程度と言うのもそれに拍車をかけているのかもしれない。
「あいつの場合はそれ自体が自身の能力みたいなもんだからな」
と、そのとき、ガチャリという音が聞こえた。
「おい、し……会長。頼まれた物のついでに買ってやったぞ」
テツとつばさが戻ってきた。
そのまま鉄は、俺に向かってブツを投げてき、自身の席に着き、つばさもドアを閉めてから同様に座った。
「さてと、これで一応あいつを除いて全員集まった訳だが……」
そこでいったん言葉を区切り、室内を見る。
特に変わった痕跡はない。しかし、なにか不穏なものを感じる。
「どうやら盗聴されているらしいな。しかたない、ここはいったん移動するとしよう」
俺はそう言って、指を鳴らす。
別にそうしなくてもいいのだが、詠唱を聞かれるわけにはいかないのでこれを詠唱代わりに使用しているのだ。
すると、一瞬の浮遊感が襲い、さきほどまでとは全く違う部屋に俺たち四人は移動していた。
どうも、初めましての方は初めまして。別のも読んでやってるという方はお久しぶり(?)です。
さて、今作は前々から申していた通り、七校内でのお話を別の作品として掲載したものです。
とりあえず、どちらも完結させようと思うので、どうか見捨てないでください。
それでは、本日はこの辺で筆を置かせていただきます。