怪奇事変 収集品
最近ずっとネットフリックスばっか見てる……あの犬が喋る映画とか面白いよね
第二十五怪 収集品
我が家の犬は必ずと言って言い程、何かを拾ってくる習性がある。
野生の本能だろうか?
最初はそんな風に考えていた、初めは木の棒を口に加え、まるで自慢気にその姿を飼い主である家族に見せていたのだ。
「ははは!ルイ、そんな物を拾って何に使うんだい?」
そう問いかけると、ルイは家の中――ではなく、裏手に周り、ある場所で口に加えた木の棒を落として、地面を掘り始めた。
「あ!ルイ!!」
急いで注意をするも犬かきは止めず、最終的には地面に穴を掘られてしまった。
そこに穴のサイズには不似合いな木の棒を必死に入れようとするルイに、木の棒を奪い取り、それを見せるようにする形で注意をする。
「良いかルイ。これはお前にとって家宝にでもするつもりなのかもしれないけど、そもそもこの大きさの穴じゃ入らないよ」
そう言って木の棒で穴を軽く叩いて教える。
「つまり、残念だけどルイが拾ってきたこの宝物は没収させてもらうよ…そんな顔するなよ、ダメなものはダメなんだ」
少し困った表情を浮かべるルイを諭しながら木の棒を隠しながら話す。
「せめて拾うなら、もう少し小さくて邪魔にならないものじゃないとな」
ルイの目を見つめて言うも、まるで言葉を理解しているかのうような表情を取られてこちらが困惑してしまう。
このセリフが後にルイの物拾いの才を覚醒させる一言になってしまうとは知らずに。
翌日の散歩の時――またルイは何かを見つけてそれを口に加えていた。
ボロボロになった野球のボールだ。
当然手入れなどされていないため、土で汚れてしまって衛生的にも良くないと考える。
「ルイ、それどこで見つけたんだ?ほら、こっちに渡してくれ」
だが木の棒を取られた一件を覚えているのか、そっぽを向いてそれを頑なに渡そうともしないどころか、口から離すことはなかった。
おかげで口の隙間から垂れ流される唾液でボールはベトベトになってしまっている。
流石に家に着くまでには口から離すだろうっと思って放置していたものの、ルイの意思は飼い主の想像以上で、そのボールを例の穴を掘った場所に放り投げて土を被せていた。
「…ルイ、見てるぞ」
「……ワン!」
一吠えすると、尻尾をブンブンっと元気よく振って機嫌がよさそうだ。
バレているのだから回収される可能性があると言うのをまだ分かっていないのだろう…翌日にでも回収しようと考えて今日は寝ることにした。
――翌日――
ルイの散歩でまた何かを拾ってきた。
脱ぎ捨てられた、或いは脱ぎ捨てて忘れてしまった子供用の靴だ。
最初は驚いてしまったが、流石に血痕も付いていないし、何より失踪事件などにもなっていないため、特に気に留めることはなかった。
「ルイ、一体…いつの間に拾ってきているんだ?」
「ワン」
気づいたら拾っているルイ。
一瞬、目を離して風景を見ている間に口に咥えているのだ。
特にリードを引っ張られたりする感覚などはなかった、それだけが奇妙だなと感じていた。
そして――段々とルイの収集癖は酷さを増していく。
「…はぁ」
その日の散歩後に裏手の庭に埋められたルイの宝を漁る日々。
当然、ルイも散歩で獲得した品物が無くなっていることには気づいていたが、家には焼却炉が付いているため、そこで燃やしてしまっている。
怒る訳でもなく、また宝探しの日々が始まる――そんな感じだ。
「……ん?」
手帳のようなものを見つけた。
だが実際ページを開くと土と埃で凄いことになっており、一部は濡れていたためか、ページが引っ付いて開けなくなっていた。
誰かに日誌のようだった。
普通はA4サイズのノートなどに日記を書くことが一般的なのではないだろうか?と考えるも、別に書く用途にA4が絶対ではないと考えを改め見ていく。
「……平凡だな」
ただ今日はなにした~とか、何があった~とかそう言った日記だった。
特に目を惹かれる物はなかったが、もしかしたらこの執筆者は無くした日記を探しているかもしれないと頭に過ったのだ。
「届けるか……」
こればかりは勝手に焼却っと言う訳にもいかないだろうと考え、警察に届けて後の物はいつも通り焼却した。
正直、日記を返すなら他の物も返すべきっと思ったが、当然汚れた衣類や用具など戻されても困るだろうと考えて勝手に厳選した。
「(俺だったら返されても困るしな……)」
完全に自分基準で行動し、その日は眠りについた。
だが――なにやら物音が聞こえ、それで目が覚めた。
眠気はあるものの、何か掘るような音が聞こえ、二階から窓を開けて庭を見ると、ルイが例の穴を掘っていたのだ。
「ルイめ…明日はお風呂だからな、あんな汚して…」
土だらけになっていた。
それにしても熱心に掘っていたように見えた。
まるで飼い主である自分から宝物を奪われないために、より深く穴を掘って守ろうとするかのように。
「井戸でも発掘するつもりか?ルイは…」
そうして再び布団に包まり眠りにつく。
結局寝るまで耳にあの土の音だけが響いていたのを覚えている。
そして翌朝、早朝の散歩でルイが拾ってきたのは、よりにもよってまた子供の靴だ。
正直、不気味に仕方がないっと感じた俺は、強引にルイの口から靴を離してそれを遠くに放り投げた。
当然、そんな行為にルイが心を痛めないはずもなく、シュンっとした表情を見せたが、俺は断固としてそこは曲げずにしっかった。
「いいかい、ルイ。あんな物を拾ってきちゃダメだ!誰の者か分からない所有物は誰かが探している物かもしれない、きっと拾いに自分でやってくる。
ルイがもし大好きなジャーキーを落としたとして、それを取りに来た時に無くなってたら悲しいだろ?」
人間の子供に諭す様に伝える。
当然ジャーキーなどはモノの例えだ、落とした物の価値、貴重品ではない限り、大体の人はそのままほったらかしするに決まっている。
分かったのかわかなかったのか、それとも興味を失ったのか、ルイは帰路に着く道を歩みはじめた。
俺も理解してくれたと考え、その後に続くものの、自分でも不思議と投げた物の行方が気になりそちらを向いてしまう。
当然、此処から肉眼では視認できない場所に落ちたと思われるも、あの靴がもし…昔、此処で行方不明になった子供の靴とかだったらと考えるとゾッとした。
仕事の休憩の合間、携帯で過去に起きた事件の詳細が乗った記事などを漁り、実際に此処で行方不明になった人物がいたかどうかを検索してみたいが、何一つとしてヒットしなかった。
それは不幸中の幸いであったが、何故靴があんな場所に…そしてやはり、飼い主の自分が言うもなんだが不気味なのが、ルイだ。
いつの間にか物品を持っていること、当然本人もふざけて訳ではないはず。
本能によるものだと考えるしかないと言い聞かせているのに、不安になってしまう。
「(ルイは…散歩に行く度に奇妙なモノを拾ってくる…それを俺に気づかれずに、どうやって?)」
自身の手の感覚がなくなった訳でもない、更に言えばルイを散歩中に凝視すらして歩かせたこともある。
だが決まって必ず何かを口に咥えてもって帰っているのだ。
それだけが…異様な不気味さを放っていた。
――夜間――
あの音が聞こえてくる、穴を掘る音だ。
きっとルイがまた穴を掘っているのだろう、今朝も確認したが穴の深さはルイが丸ごと入れるぐらいの大きさにまで広がっていた。
中には彼が集めたコレクションとも言えるべき散歩の戦利品が入ってたのを思い出し、ため息が出てくる。
「ルイ…こんな夜中にまた穴を掘って……」
窓を開ければ庭が見える、そこからルイの行動も一目瞭然だ。
十中八九、予想通りの展開であった。
「秘密基地でも作るつもりか?家の下にとか勘弁してくれよ?」
犬の穴堀で地盤が緩んで陥没とか想像したくない、と言うより、そこまではできないかもしれないが…今のルイにはそれだけの気迫があるように感じる。
初めてルイを飼おうと決断した時に親父には家には入れないと言うことで庭に犬小屋を作ったのが間違いだったのかもしれない。
余所の犬何かは夏でも冬でも人間と同じように気温調整を上手くできているのにも関わらず、そこは逞しいとさえ思う。
だが、そう思っているのは自分だけで、実際はストレスを抱えていて、その原因が今の状況を作っているようにさえ感じもする。
「だとしたら…考えないとな」
散歩で拾ってきた戦利品を無造作に投げ捨てたのは返ってルイにストレスを与える原因だったのかもしれないと心の中で反省しつつ、眠りについた。
――翌朝――
散歩から帰るなり、急いで裏手に周って例の土を掘り、中に戦利品を入れるルイ。
今回は誰がか落としたライター、中のガソリンはとっくに無くなっているため、着火の恐れもなかったのでそのままにしておいた。
問題は飲み込まないか心配していたが、その心配も杞憂に終わった。
埋め返すと犬小屋に戻り、汚れた手など気にせずにそのまま眠りに落ちる。
「(つうか、普通に良いよな…俺もあんな生活を送ってみたいわ)」
学業に専念してる最中は早く勉強なんかやめて仕事に就きたいなんて思っていたが、実際に社会に出たらあの時の方が幸せだったなんてことは山のようにある。
昔、親父達がそんな話をしながら酒を飲んで居た時のことを思い出す。
その時は、意味が理解できなかったが今ならその苦労も思いも理解できているつもりだ。
だからこそ、羨ましく思う。
だが同時に、犬は…拾われるも飼われるも、自由の選択肢の無い中、競争で勝ち取られる格差社会が形成されている。
ルイもきっと自分達に拾われていなければ、過酷な運命が待っていたのだろうと思うと、こんな穴を掘る作業など可愛く見えるものだ。
「と言っても、このままにしとく訳には行かないよな…会話でもできれば、断捨離の優劣を付けられるんだが…」
このまま放置と言う訳にも行かないのも現実。
明日にでも軽く片づけておこう。
確か明日は従兄が子供連れて遊びにくるはずだ、その時だけはルイも家に入ることを許されている。
その瞬間を見逃さず、自分はルイが拾った戦利品をそれとなく片づければ良いだけの話だ。
そうして――従兄が久々に帰省してきた。
夫婦仲睦まじく、子供も2人、男性と女性で綺麗に分かれているのがちょっとうらやましく思う。
子供たちはルイに駆け寄り早速、ちょっかいをかけていた。
そんな光景にルイは鬱陶しく思うような表情をこちらに向けてくるが、流石に何もできないので、そっと視線を外して見捨てた。
庭に出てルイの掘った穴をシャベルで漁ると、やはり――よくもこう集めたなと思う。
たまにMeTubeでコレクターの動画などを拝見することがあるが、それに匹敵するほどの量だ。
念のため、燃えるゴミと燃えないゴミの両方を分別して早速作業にとりかかた。
「…すまんな、流石に家はゴミ捨て場じゃないんだよ、ルイ」
独り言をつぶやきながら作業していく。
兄貴は事情を知っていたので特に何も言ってこないが、父は終始不機嫌であった。
『だからあれほど犬など飼うなっと言ったのだ!』
その通りだが、だからと言ってもう飼っているのだからアレコレ過去のことを言った所でどうにもならないだろうに。
そんなに気に入らないなら過去に止められなかった自分を責めてくれと思う。
「ん?」
小さな手帳を発見する、それは意外なモノだった。
「警察…手帳」
そんな貴重品を落としているなんて…つうか何処から拾ってきたんだと思って、家を見ると背筋が凍った。
見た目は賑やか、だがルイの目線はしっかりと自分を見つめていた。
縁側で遊ぶ子供達など関係なく、ルイは自身のテリトリーが荒らされている様子を静かに見ていたのだ。
「……」
生唾を飲み込みながら作業を続けていく。
もう何を拾ったかは覚えていなかった。
ただ…ルイのあの目線はどちらかと言えば――人間の目線っぽかった。
それから数年経った。
親父は元々酒癖が強い人間で肝臓をやられていたらしく、ガンが見つかりステージは4だったそうだ。
もう既にあと数日しか生きられない中、最後に親父の言った言葉に家族は笑った。
「酒が…飲みてーな、日本酒の美味いやつ」
そうして本人立っての希望もあり、最後は家でと言うことで、好きな食べ物と酒を少量飲み、そして最後には静かにあの世に旅立って行った。
当然、家族は全員泣いた、頑固な父であったがそれでも憎めない人で、犬のルイを飼うことも了承してくれたのだ。
優しい親父だった。
骨上げを行うと、人ってこんなにも小さく軽い存在だったのだと思う。
歴戦の相撲チャンピオンも何れはこんなにも軽くなってしまうのかもしれないと思うと、人間ってとても弱く、儚い存在なんだと感じる。
そうして葬式は全て滞りなく行われ、最後には父の遺言?で、ルイを家の中に住ませても良いとのことだ。
理由は親父も気になっていたあのルイのコレクター愛が詰まった庭の穴についてだ。
これ以上土地を荒らされるのは敵わんと思った父が最後に許した言葉、当然ルイは今、家での生活を満喫している。
だが、変わらなかったのはやはり散歩後に行う収集家としての行為。
つまりは穴掘りだ。
毎日手を洗うため、濡れた雑巾や乾いた布を玄関に敷くため、他の犬より苦労するんじゃないだろうか?と考えている。
そんな日課になっているのは、変わらずルイが持ってきたコレクションの厳選だ。
流石に全てをゴミにして捨てるのは可哀想とお袋が言ったことをきっかけに、少しは残している。
「また沢山集めて――」
だが言葉を失った。
何故なら――
「……餌?こんな餌いつ?いや、違う…これって――」
――人骨じゃないのか?――
そこに埋まっていたのは人間の骨格、全てが揃っていたのだ。
数週間に一度の片づけの間、こんな物を拾ってきたことは一度もないし、拾ってきた時点で事件性がある。
「手帳…子供の靴、でも体格は、大人…いや、けい――」
振り向くと、ルイが居た。
ただその視線は相変わらず――人間の目のような恨めしい眼光で、俺を見つめるのであった。
第二十五怪 ルイのコレクション
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