第四話 学校での話
第四話
小学一年生の授業なんて、適当に内職でもすれば良い――そんなことを思っていた時期もあった。
「はいじゃあ、お外に行くよ〜」
今時のちびっこってこんなにアクテビティなの!?体はピッチピチの6歳のはずなのに、なんかもう疲れてきた……帰りたい。せめて教室か図書館で本読むとかさ。
入学式の日。両親はものすごく心配していたけれども、私はそこまで緊張もしていなくて。思い返してみれば、前世の特技は『周りに合わせること』だった。相手の出方を伺って、同じ大きさでレスポンスする。相槌を丁寧にし、相手をいい気にさせて、喋らせる。私的、省エネテクがこんなところで生きるとは。……まあ、そんなことばっかりしているせいで、みんなにとって都合のいい、中身のない奴になったんだけども。
そんなこんなで、ここまで過ごしてきたが、思っていたよりも大変だった。
まず、そもそも子供なので、いつ、どんな時でも教師からの監視の眼が厳しい。何かがあってからでは遅いから、これは仕方がない。だが、教師の数は限られているので、昼休みは人気の少ない裏庭のベンチで過ごせている。
裏庭は、人の手が入っていないようだった。昼休みにすれ違った上級生が「裏庭は通りたくない」と言っていたのを聞いていたので、1人で向かったところ、それはもう、荒れきっていた。校舎が影になっているせいか湿っぽく、変に植物が育っていた。「ホラーゲームのワンシーンを切り取った」と言っても、疑わないレベル。
背の高い草を抜けた先にあるベンチは、蔦が絡まっているものの、整えれば使えそうだったので、私は早速作業に取り掛かった。母の手伝いで、庭の手入れはよくやっていたので、ちょっとした魔法だけは教えられていた。
「確か……こんな感じで」
目を閉じて、イメージする。鋭い刃……なんてものは身近ではないので、おとなしく草刈機を想像する。ベンチの周辺だけ、ベンチを避けて。集中する。
体に魔力が巡っているのがわかる。指先に意識を集中させて……ゆっくり放出する感じ!
サァァァァァッ
目を細めてやっと見えるくらい透き通った刃が、一瞬で周囲の草を刈り整えた。
「……っ!!」
今まで、魔法を使うには母の許可が必要で、監視の下、限られたものしか使わせてもらえなかった。
そもそも、魔法にはテンプレートがある。術式を簡易化し、一瞬で使えるものから学ぶのだ。だが、それだと魔法の寛容性がイマイチ欠けてしまう。そこで、術式を自ら組み出す魔法がある。なにより、このように編み出された術式の不要な部分を除いたものが前者なので、『鶏が先か卵が先か』的な視点だと断然後者が先である。
術式を自分で組む、というのは某知育ブロックに似ていると思う。シンプルにしようとすれば、どこまでも簡略化できるが、こだわろうとしたらキリがない。ただ、思いのまま組み合わせたブロックが、最終的に想定していない物を形造ることもある。そのうえ、無駄が多くなりやすい。意図せず、多くの被害を出してしまうかもしれない。だから、我々は魔法を『兵器』とも捉えている。特に人間界では、魔法に対抗する術なんて普及していないし、身体の造りが異なっている……らしい。それもそうか、普通は半不老不死ではないもんな。
話を戻すと、私が先に知識から教えられたのはそういった理由かららしい。とは言っても、だ。せっかく転生したのだ。もしかしたらものすごい才能が……!なんて、思ってこっそり練習をしていた。が、結果は微妙だった。特に魔力量が多い訳でもなく、父の道具をこっそり借りて調べてみても、本に載っていた『魔法使い6歳の平均値』ぴったりだった。
私のなろうライフは!?……まぁ、人生そんなうまくいかないか。でも、たくさん鍛錬を積めばなんとかなるかもしれない。
この裏庭は、人気が全くないし、接している校舎の見えている教室は空いていることも確認済み。整えた、とは言えどもベンチの周辺だけだ。これだけ草が生い茂っていたら近づきたくもないだろう。
「ここから、始まるんだ……!私の、第2の人生!」
昼休み後の掃除の放送が鳴り、ゾロゾロと生徒が動き出す。いくら目立たない裏庭でも、さすがにまずいか。それに、自分の掃除場所も決められてる。校庭の隅の方だ。掃除用具倉庫の周辺の清掃。別に、掃除という行為に不満がある訳では決してないが、小さな体では、竹箒で掃くことすら体力を使う。今の時期は散った桜を集めて、ゴミ袋へ。そのままゴミステーション経由で教室へ戻る。
「お、おつかれさまです。」
「……別に、そんなかしこまらなくても。」
「で、でも……るりちゃん、すごくおとなっぽいから」
「同い年だよ?」
確かに、こんな小学生はいないか。もう少し、今時の小学生になりきらないと、変だよな……
「あの。」
「なぁに?」
「今って何が流行ってるの?」
「へ?」
「いや、そういうのに疎くて……」
「うとい?って?」
「えっと……よくしらない、みたいな?」
「なんで、しりたいの?」
小学生ならではの無垢な瞳が私に突き刺さる。この人は、菊地紫乃さん。同じクラスで、今も隣の席だ。最初の自己紹介で何を言えばいいのか分からず、「読書が好き」と言ったところ、「かっこいい」と、予想外の反応をされた。それ以来、この人から私に対する印象は「大人」になってしまった。
……別に、読書が好きな子供もたくさんいる、よね?小学1年生でそれは珍しいとは言えど。
「貴方と、仲良くなりたいから。」
「……っ!」
「だから、教えてほしい。お願い。」
……子供ってどんな口調なんだ!?もう長らく子供と話す機会がなかったまま今に至っているので、参考にできる資料が某名探偵しかない。あれ?もしかして今の私って正にそれなのでは?……何を考えているんだか。
少し無愛想になってしまったが、家族と接している時とほぼ変わらないから、大丈夫だと信じたい。おとなしい子、ってことでなんとか!
「……うん!わたしもるりちゃんとなかよくなりたい!」
「ありがとう。」
そんな調子で話しながら、親しくなることができた。どうやら最近の流行りは動画投稿サイトのダンス動画みたいだ。動画投稿サイト……そういえば、あのVTuberはどうしているだろうか。調べてみようにも、ウチはスマホは高校生からって言われてるしなぁ。パソコンも……家にあったっけ?もしかしてWi-Fiすらないのでは?
私が子供の頃は何が流行ってたっけ。なんてことを考えながら午後の授業を過ごすのだった。




