第二話 思い返す話
第二話 整理する話
「ほら、ルリ。お母さんよ〜。」
「どうだ、ミラ?リリィの様子は。」
「いたって普通の子よ。まぁ、いくら何でも静かすぎるけど。」
「魔法使いの子なんざ、そんなもんさ!じゃ、俺は魔法省に行ってくるから。」
(静か、って言ったって私、もういい歳した社会人だからね!?)
ある日、本当に突然のことだった。いつものように目を覚ますとそこは――異世界……に見えるだけの現代でした。これは所謂、『転生』ってやつ……!?と、これから始まるであろう日々に妄想を膨らましていたが、暇だ。どうやら私は、赤子に転生したらしく、自分で何かをすることはおろか、常に母に見守られている。……ま、それが普通なんだけど。
周囲を観察したり、親の会話を聞いてわかったことがいくつかあった。まず、この世界は私が生きていた世界と同じ世界。何なら、少しだけ未来のようだった。テレビから聞こえる日付は、私が記憶しているおそらく最後の年から約10年ほど先のものだった。使っている言語は当然日本語。この家がどこにあるのかは知らないけれど、人気の少ない田舎ってところかな。
次に、今の私の名前は『ルリ』である。和名にすると多分瑠璃。苗字は……まだ、わからない。聞こえてくるものは全てカタカナっぽいし、もしかしたらハーフとか、なんて思っていたが、両親を見る限りは違いそうだ。母の下の名は『ミライ』で、父からはミラと呼ばれている。この感じからすると、父が海外かぶれなのかもしれない。ちなみに、父の名前は『ゴウ』だ。……やっぱり純ジャパのようだ。
そして最後に、これが一番重要なやつ。
私の周りにいる家族とか病院の人は全員、『魔法』を使える。
正直、何言ってるんだ?と言われると思うが、本当なのだ。物を宙に浮かせたり、羽ペンに手紙を書かせたり……と言った具合で、とても現代日本とは思えない光景が毎日続いた。
「あら、庭の花に水やりしなくっちゃ。」
私を抱いたまま、外へ出る母。外、と言っても、周りに広がるのは木々だけだった。
「よーいしょっ!」
薙ぎ払うように動かされた母の手が描いた軌道を、なぞるように光が輝き、一瞬で爆ぜて、花全体にシャワーがかかる。
(綺麗……!)
細かい水の滴に、一瞬、虹が見えたような気がした。こんなふうに、何かに心から関心したのはいつぶりだろうか。ブラック企業とも、ホワイト企業とも言えないような会社に入社して、パソコンをいじり、外へ出て、またパソコンを触る。そんな日々の中で私はきっと、余裕がなかったのだろう。いや、余裕を作ろうとしなかった。ただ、熱心に仕事をして、ほどほどの衣食住が整えば、それでよかった。周りを見渡す余裕を持ってしまったら、そんな自分が壊れてしまいそうだった。もし、新しい夢を、目標を見つけてしまったら?今までの自分が過ごした時間は無駄になってしまう。そうなったら、誰も、私という存在を肯定できなくなる。自分の一番の味方は、自分でいたかった。
今思うと、愚かな話である。いかにも、厨二病っぽいというかきな臭いというか……私はずっと、昔から、何も成長できていなかったらしい。『社会人』という肩書きを得て、大人ごっこをしていたのだ。前世のことを思い返すと、こうやって、すぐに自己否定に完結する。
何をやっても中途半端で、自分のことすら自分で決めきれない自分が、嫌だった。嫌いだった。でも、今更それをどうにかしようとしたって、無理な話だった。流されるように生きていくうちに、ズルズルと大きくなってしまった。大人にならされた。
……でも、今は、違う。今の私は、『瑠璃』だ。それも生まれて数ヶ月の赤ん坊。今の私にはチャンスがある。未来がある。
きっと『昔の私』は死んでしまったのだろう。それならば、心機一転!私は今世を全力で生き抜き、楽しまなければ!
昔は見上げることもなかった青空を見つめて、私のこれからを誓った。
「?あらあら、いい眼をしているわねぇ。……うちの子はきっと凄い子になるわぁ。」




