第一話 転生前の話
私は、冴えない人間だったと思う。学力こそはあったが、そのせいで親とも離別した。けれども不幸だったかと聞かれると、きっとそうではない。少なくとも、学校には通えていたし友人にも恵まれていた。小さな頃から、大した理想がなく、それとなく生きてきた。特技と言えるものはどれも、とても人生に役に立つものとは思えなかったので、ずっと仕舞っているうちに思い浮かべることすらできなくなってしまった。
好きなものといえば、幼い頃から親しんでいたアニメや漫画にライトノベル、ゲームや配信とインドアなものだった。それも、最近は外向きの仕事に就いたお陰で、触れる時間なんて全く無くなってしまった。家に帰ったら、何もせずにすぐに寝る。朝起きたらニュースを見ながら支度をして、すぐに仕事へ。通勤中にもスマホでニュースを確認する。そんな味気のない日の繰り返し。楽しくないは楽しくないが、社会人生活に楽しさは求めるものではないしな、とまた同じレールに乗る。
(何これ……?)
今日も今日とて、スマホのニュースアプリで記事を読んでいると、一際目に入る、不思議なタイトルを見つけた。
(大手個人VTuberが人探し、ってこんなことを大々的に取り上げられるなんて、平和だな。)
何故だか心惹かれて、その記事を読んだ。……この人、すごい見た目だな。私が見ていた頃のVTuberってもっと素朴な感じの、飾り気の少ないものだったのに。色々、進化しているんだな。
そんな風に愁いながら、画面をスクロールする。どうやら、昔の友人を探しているらしい。挙げられていた特徴はどれも、普通の、どこにでもいる人のようだった。年齢こそ自分と同じだが、『行動力がある』の項目には絶対に当てはまらないので、違うらしい。そもそも、こんな大手のVと絡んだ記憶もないので、自分とはまったく関係のない話だ。
ささやかな応援の気持ちで、記事に『いいね』を押して、顔を上げる。そっと立ち上がり、ポケットへとスマホをしまう。
今日もまた、私は変わり映えのない労働へと歩き出す。
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「ピコンッ」
小さなバイブレーションと共にメッセージアプリに通知が届く。……しばらく何の動きも無かった高校のクラスのグループトークかららしい。
「同窓会?あぁ、もうそんな時期か。」
送られてきたアンケートに、予定を確認することもなく『欠席』を送信する。投票の人数は出席の方が多いらしい。数十人の食事会の幹事は大変だな、と物事を進めているアカウントの名前を見る。
「『AKANE』って……白宮さん、だっけ。確か……」
確か、彼女は委員長をしていたっけか。……まあ、出席する気も無い私にとってはもう、関わりの無いことだ。スマホの電源を切ろうとした時、ふと朝の記事のことを思い出した。配信……しているだろうか。少し、声を聞くだけ。そんなことを考えながら、検索にかける。
すると、すぐに配信動画が出てきた。15分程度の切り抜きを見る。彼女は、不老不死の魔女という設定らしい。トークも面白く、本当に長い間生きてきたかのような話には目を見張るものがある。心地の良い声に惹かれて、今配信中の雑談枠を開く。
「それでね、その時の子が励ましてくれたの!」
探しているという『例の子』の話をしているようだった。
(たまには、こんな日もいいかな。)
彼女の配信を聴いているとすぐに、眠気が疲れた体に襲いかかった。スマホの充電はしてあるし、そのまま寝よう。睡魔に従って、瞼が重くなる。目を閉じてから、眠りに就くにはそう時間はかからなかった。
「……どうせならその子から来てくれないかなぁ。『魔法でどうにかならないの?』あ!そっか!いいこと思いついた!ありがと、リスナーくん♩」
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(まっぶし……。あれ?カーテン開けて寝てたっけ?)
「おお!ついに生まれたぞ!」
「この子が……。」
目を開けると、そこに広がっていたのは――
(森!?なんで!?私、もしかして犯罪に巻き込まれたの!?)
目線を下へと下げる。いつもよりも体が動かしにくい。が、目に入ったのは、とても自分のものとは思えないほど小さな手……らしきもの。動け、と念じる。だが、右腕はぴくりとも反応しない。まるで、深い泥の底に沈めた丸太を動かそうとしているような絶望的な重さだ。
ようやく指先が動いたかと思えば、それは自分の意志ではなく、自分を抱いている誰かの指が掌に触れたことによる、ただの反射だった。
脳から送った命令は虚しく霧散し、代わりに喉の奥から『おぎゃあ』という、自分のものとは思えない甲高い叫びが勝手にせり上がってくる。私は、自分の肉体の主権を完全に失っていた。
(え、もしかして私――)
頭に駆け巡る、様々な可能性。これは、俗にいう……
(異世界転生!?!?!?)




