表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/91

第7話 二人の成長

朝、畑に水をやっていると、村の入り口のほうから声がした。


「ガイウスさん!」

聞き覚えのある声だった。

振り返ると、茶色の短髪の少年と、黒髪を束ねた少女が走ってくる。


レオとカナだ。

(前に魔術と剣術について教えたよな)


二人とも装備が前と少し違った。

剣の鞘が新しくなっている。

カナの腰のポーチも、増えていた。

「久しぶりですね」

「久しぶりです!」

レオが息を切らしながら言った。


カナは少し落ち着いた様子で、「お邪魔します」と頭を下げた。

「どうしました。故郷のほうは?」

「それを報告しに来たんです」

レオが胸を張った。

少し、背が伸びた気がする。

「魔獣、減りました。全部じゃないけど、かなり」

「ほう」

「言われた通りにやったんです。

戦う前に紙に書いて、プランを決めて。

そしたら、なんか……頭が整理されて、動けるようになって」

「カナさんは?」

カナが少し考えてから答えた。


「撃つ前に余計なことを考えないようにしたら、外れる回数が減りました。

まだ完璧じゃないですけど、安定してきた気がします」

「そうですか」

俺は水桶を下ろした。

二人の目が、来たときと違う。


一ヶ月前は緊張と焦りが混ざっていたが、今は少し落ち着いている。

根拠のある目をしている。

「よかったじゃないですか」

「全部、ガイウスさんのおかげです」

「違います。二人がやったことです」

レオが少し口を尖らせた。


「でも、きっかけはガイウスさんが——」

「きっかけと結果は別物です。

きっかけをもらっても、実践しなければ何も変わらない。変えたのは二人自身です」

レオが黙った。

カナが小さく笑った。

「……素直に受け取れないんですね、お礼を」

「そういうわけでもないですが」


「素直に受け取って欲しいです」

手厳しい。


二人を作業場に通した。

ポーションの棚を見たレオが目を丸くした。

「増えてる!前来たときより全然多い」

「需要が増えたので」

「噂、聞きましたよ。ポーションが旨いって、冒険者の間で広まってて」


「旨い、というのは食べ物ではないですが」

「品質がいいってことです。ギルドの掲示板にも書き込みが出てました。エーデル村の何でも屋、って」

俺は少し眉を上げた。


何でも屋、はリナの言葉だ。

いつの間にか外まで広まっているらしい。

「ガイウスさん、もしかして有名になってきてます?」

「なっていないといいのですが」

「なってますよ絶対」

カナが棚の瓶を一本手に取って、透かして見た。


「これ、上級品ですか」

「中の上級、というところです。処方をまだ調整中で」

「売ってもらえますか」

「どうぞ。前と同じ値段で」

カナが財布を出した。

レオも慌てて財布を出した。


「僕も買います。回復薬と、あと解毒薬があれば」

「ありますよ」

二人分の袋を用意していると、リナが顔を出した。

「あ、この前の二人だ」

「リナさん、覚えてたんですか」

「当たり前じゃん。ガイウスさんが珍しく外に連れ出してたから印象に残ってるよ」


「連れ出したわけではないですが」

リナがレオとカナを交互に見た。

「強くなった?」

レオが少し驚いた顔をした。

「なんでわかるんですか」

「顔つきが違う。前来たときより、ちゃんとしてる気がする‥」

「ちゃんとしてる……」

カナが笑った。

「そうですね。少しだけ」

リナが腕を組んだ。


「お昼食べてく?うちの宿屋で出せるよ」

二人が顔を見合わせた。

「……いいんですか?」


「せっかく来たんだから。ガイウスさんも来るでしょ」

「俺は畑の続きが——」

「昼ごはんも食べないで畑やる人いないから」

論理が雑だが、反論が難しかった。


宿屋の食堂で、四人でテーブルを囲んだ。

リナの母親が作るスープは、相変わらず旨い。

レオが三杯目をおかわりしていた。

食べながら、レオが聞いてきた。

「ガイウスさんって、王都にいたんですよね」

「はい」

「何で追放されたんですか。噂だと、神託で変な結果が出たとか」


「変な結果、というか。次の王を占う神託で、自分の名前が出ました」

レオが固まった。

「……それって、すごくないですか」

「迷惑なだけです」

「でも、神託って本物なんでしょ」

「さあ。神託がどこまで当たるかは、正直わからないです。ただ宰相が怒鳴り込んできたのは本当です」


カナがスープを飲みながら、静かに聞いた。

「王様になりたいとは思わなかったんですか」

「思わないです」

「どうしてさ、すごい事なのに」


「面倒そうなので」

リナが吹き出した。

「それ、本気で言ってるんだよねこの人」

カナが俺を見て、少し笑った。

「……そうですね。ガイウスさんには王様は似合わないと思います」

「そうですか」

「農家のほうが、ずっと似合ってます」

悪い気はしなかった。


レオがスープの最後を飲み干してから、真剣な顔をした。

「ガイウスさん、一個だけお願いがあるんですけど」

「なんですか」

「今日、少し手合わせしてもらえませんか。強くなったか、確かめたくて」

俺はリナを見た。

リナが肩をすくめた。

「いいんじゃない。暇でしょ」

「畑が」

「終わってからやればいいじゃん、畑」

論破されてばかりだ。


午後、村外れの空き地に出た。

前と同じ場所だが、草が少し伸びていた。

まずカナに術を撃たせた。

「《火矢》」まっすぐに、板の中心に刺さった。

「もう一本」

「《火矢》」

ほぼ同じ場所に着弾した。

「もう三本、続けて」

「《火矢》《火矢》《火矢》」

三本とも、板の中央付近に集まった。

ばらつきはあるが、前とは比べ物にならない。


「安定しましたね」

「まだブレることはあります」

「それは経験で埋まります。今日みたいな精度が出せるなら、実戦で困ることはほぼない」

カナが深く息を吐いた。


「……よかった」

「よかったです」

次にレオだ。

木剣を持たせて、俺が正面に立った。

「来てください」

「え、ガイウスさんが相手してくれるんですか」

「はい」

「でも、素手じゃないですか」

「問題ないです」


レオが少し戸惑った顔をしたが、剣を構えた。

踏み込んでくる。

前より速い。

ただ、足の運び方が変わっていた。

無駄がなくなっている。

三手ほど受け流したところで、止めた。

「どうですか」

レオが息を整えながら言った。

「……全然当たらない」

「それは俺が相手だからです。ただ、動き方が前と全然違う。プランを持って動いているのがわかります」

「本当ですか」

「本当です。一ヶ月でここまで変わるとは思わなかった」

レオが少し目を見開いた。

それからじわじわと、顔がほころんだ。


「……嬉しい」

「素直でいいですね」

「だって、ガイウスさんに褒められると思ってなかったから」

「褒めた覚えはないですが、事実を言いました」

リナがそばで腕を組んでいた。

「ガイウスさん的には最大級の褒め言葉だよ、それ」

「そうなんですか!」

「そうだよ」

俺は何も言わなかった。


日が傾いてきた頃、二人が帰り支度を始めた。

「また来てもいいですか」

レオが言った。

「どうぞ。ただ弟子は取りませんよ」

「わかってます。でも、また見てほしくて」


「まぁ、成長の確認なら、構わないです」

レオが破顔した。

カナも少し笑った。

「ポーションもまた買いに来ます」

「いつでも」

二人が頭を下げて、街道へ歩き出した。

少し行ったところで、レオが振り返った。


「ガイウスさん!」

「なんですか」

「絶対、故郷守ります!」

俺は手を一度だけ振った。

二人が角を曲がって見えなくなった。

隣でリナが言った。

「いい子たちだね」

「そうですね」

「弟子にしてあげればいいのに」


「面倒なので」

「絶対そのうち押しかけてくるよ」

「……そうかもしれないですね」

リナが笑った。

俺は畑に戻った、水やりの続きをしなければならない。

空はもう夕焼け色になっていた。


風が気持ちよかった。

スローライフは、今日も順調だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ