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Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました  作者: 仁科異邦


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第4話 来客は、いつも面倒だ


朝、ポーションの瓶を並べていると、リナが駆け込んできた。


「ガイウスさん、馬が来たよ!騎士みたいな格好の人が乗ってる。村の入り口で止まってる」

俺は瓶を棚に置いた。


騎士‥王都から、ということか。

来るとしたら、もう少し時間がかかると思っていた。 噂の広まり方が、想定より速かったらしい。


「ガイウスさん、どうするの」

「出ていきます」

「に、逃げなくていいの?」

「逃げる理由がまだないので」

リナが何か言いかけたが、俺は上着を手に取って外に出た。


村の入り口に行くと、確かに二人いた。

王都の近衛騎士団の制服——紺と銀の配色——を着た男たちが、馬の上から村を眺めていた。

三十代くらいの、いかにも体を鍛えた体格だ。 村の農民数人が遠巻きに見ている。


俺が近づくと、先に口を開いたのは背の高いほうだった。

「ガイウス・ノア殿ですか」

「人違いでは?」

「いいえ、間違いございません」


男が懐から羊皮紙を出した。

「王都の宰相閣下よりの書状を携えております」

「追放された身ですが」

「それについても、書状に記載があります」

「宰相閣下から?」

「はい」

「……閣下がわざわざ書状を。珍しい」

男は何も言わなかった。

真面目そうな目をしている。


仕事をしているだけ、という顔だ。

俺は書状を受け取った。

封蝋は宰相家の紋章、本物だ。

「ここで読んでもいいですか」

「どうぞ」

俺は書状を開いた。

宰相の筆跡は相変わらず小さくて細かく、読みにくい。

内容をかいつまむと、こうだ。


一、ガイウス・ノアの追放は引き続き有効とする。

二、ただし、王国北部の魔獣異常発生について、原因調査に協力せよ。

三、協力の対価として、今後の王都への出入りを許可する。

四、拒否した場合、追放令をより厳しい形で再発令する。

……なるほど。

つまり追放は続くが、都合のいい時は使うという話だ。

宰相閣下らしい文面だと思った。


「北部の魔獣異常発生について、詳しく聞かせてもらえますか」

男が少し驚いた顔をした。

断ると思っていたのかもしれない。

「……街道沿いの三つの村で、Bランク以上の魔獣が連続して出ております。いずれも夜間のみの出没で、冒険者ギルドも原因がつかめていない状態です」


「夜間のみ」

「はい。昼は痕跡もない」

「森の種類は」

「針葉樹林です」

「土地の魔力濃度の調査は」

「……していないと思われます」

俺は書状をたたみ直した。


夜間のみ。針葉樹林。

魔力濃度の未調査。

いくつか仮説は立てられる。

ただ現地を見ないことには確かめようがない。

「一つ聞いていいですか」

「はい」

「断ったら、本当に追放令を強化しますか」

「……閣下のご判断次第かと」

「つまり、わからない」

正直な男だ。 悪くない。


「もう一日待ってもらえますか。畑の水やりをしてから行きます」

「は……はい?」

男の表情が少し崩れた。

俺は書状をしまって、踵を返した。


裏に回ると、リナが壁際で聞き耳を立てていた。

「……聞いてましたね」

「聞いてた、それで行くの?」


「行きます」

「王都の使いに言われたから?」 俺は少し考えた。

「魔獣の出方が、少し気になったので」

リナが腕を組んだ。

「……また変な答え‥普通、断るか、しぶしぶ行くかでしょ。気になったから行くって、どういうこと」


「どういうことと言われても、そうなので」

リナがため息をついた。

「いつ帰ってくるの?」

「三日か四日。問題によっては五日」

「わかったわ」


リナはそれだけ言って、踵を返しかけた。 それから振り返った。

「ポーション、多めに持っていってよ」

「大丈夫、作ってあります」

「食料は?」

「明日の朝出るので、今夜用意します」

「作ってくる」

「……いいですよ、自分でやります」

「私が作ったほうが美味しいから」

それだけ言って、リナは宿屋のほうへ歩いていってしまった。 俺は畑に向かった。


水やりをしながら、少し考えた。

正直に言えば、王都に関わる仕事は面倒だ。

宰相とはそりが合わないし、城の空気も好きじゃなかった。

十年いて、それは変わらなかった。

ただ、夜間だけ出没するBランク魔獣というのは、普通じゃない。

光を嫌う種か、昼間は別の場所に潜んでいるか、あるいは——


誰かが意図的に動かしているか。

最後の可能性は、考えたくない話だ。

ただ可能性としては消せない。

まあ、行けばわかる。


翌朝早く、村の入り口で騎士たちと合流した。 ゴードンが見送りに来ていた。

「気をつけてな」

「三日か四日で戻ります。村の巡回の件はリナさんに——」

「もう頼んである」

「早いですね」

「昨日のうちに話をつけた。あの娘は口が動く前に体が動くからな」

ゴードンが皺だらけの顔で笑った。


俺は馬に乗った。

久しぶりだが、体は覚えているものだ。

北へ向かう道は、思ったより整備されていた。 街道脇に木々が続き、時折川の音が聞こえる。

隣を走る騎士たちは、無口だった。

俺も特に話しかけなかった。 沈黙は快適だ。


昼頃、小さな宿場で馬を休ませた。

食事をしながら、背の高い騎士——名前はセルジオというらしい——が言った。

「あの、一つ聞いてもよいですか」

「どうぞ」

「ノア殿は、なぜ辺境の村に……?」


「静かそうだったので」

「は、はあ……」

セルジオが困った顔をした。 もう一人の騎士——こちらは名をデニスといって、無口なほうだ——がスープを飲みながら少し俺を見た。

目が「理解できない」と言っていた。


「エーデル村は、よかったですか」と何となくセルジオが続けた。

「よかったです」

「……その、お役に立てることがあれば、調査が終わった後も——」

「いりません」

セルジオが少し目を瞬いた。

「なぜでしょうか?」

「静かに暮らしたいので」


また静かなった。

俺はパンをちぎった。

悪い人間ではないが、こういう会話は疲れる。

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