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空晴人は、ただの平凡な男

――あぁ、気持ちいい


暖かい春の朝日が窓から差し込む部屋で、彼――晴人は目を覚ました。

フカフカのベッドはとても寝心地が良く、まるで天国のようだ。


少しだけ開いた窓から入り込む澄み切った空気が部屋の中を漂い、

起き抜けの気だるさをゆっくりとほぐしている。


誰もが感じたことのある当たり前の感覚。

横になったまま、枕元のスマホを手に取り、時間を見れば午前10時。

休日でも、もはや寝ている人類の方が少なそうな領域だ。


晴人は横たわりながら、寝ぼけた瞳を再び閉じる。

結論までの葛藤は10秒にも満たない。



――このまま二度寝してしまおう



今日は特に予定もない。

であれば、二度寝という最高の贅沢を存分に堪能しよう、

そう感じた晴人は、再びゆっくりと安らかな眠りに――



「いい加減起きろ!!馬鹿兄貴!!」



ドスンという音が鳴り響きそうな勢いで、約34キロの人肉が腹部に着陸した。

これにより、天国から現実へと強制送還される。



「ぐはっ!!・・・この、馬鹿やろう・・・僕の安らかな眠りを邪魔するなんて・・・」


「なぁ~にが安らかな眠りだってぇ!!・・・もう10時なんですけど、とっっっくに朝ご飯食べちゃったんだけど!!」



ベッドで眠る青年の腹部にどっしりと跨がる少女は、手を伸ばして両頬を引き延ばすという新種の目覚まし時計として役割を遂行する。

兄妹でなければある意味、否、そうであっても現実的な光景ではないだろう。


突然の乱入者によって、幸せな眠りもどこかへ吹っ飛べば、晴人もようやく重い腰をあげる。


欠伸をしながら身体を伸ばし、寝ぼけた両目を擦る。

ボサボサの髪はなんともみっともなく、だらしがない。



「ったく雨音あまねもなぁ、尊敬する兄様を起こすなら、もっと優しく労りながら――」


「はいはい、兄貴にくれてやる尊敬だけは、あたしのどこにも見当たらないから。」



とぼとぼ歩きながら部屋を出て階段を降りていく晴人のくだらない妄言、

それをさらりと躱し、丸まった兄の背中を眺めながら雨音は後ろをついて行く。



「大体さぁ~、わざわざ冬香ねえが作ってくれたご飯を冷ましちゃう馬鹿なんて兄貴くらいだと思うんだけど・・・」


「・・・ん?、何、冬香のやつ来てくれてんの?」


「ご飯の匂いで分かるでしょ・・・冬香ねえったら、わざわざ温めてくれて――」


「――あ~道理で最高の匂いがするわけだぁ・・・誰かさんの黒焦げトーストや目玉焼きに慣れてるから分かりやすくて助かる・・・」



雨音の言葉を聞いて鼻に意識を集中すれば、1階から漂ってくる最高の匂いに一瞬で気がつく。

そして余計な一言を言ってしまえば――


「マジで一発殴っときゃ良かったわ・・・」


殺意を露わにした妹が拳をブンブン振り回していた。



「よし、ちゃっちゃと食おう!!」


そんな妹などお構いなしだ、最高の朝食を味わうべく、一気に階段を駆け下りていく。



「・・・マジで、兄貴に冬香ねえはもったいないって・・・」


単純で馬鹿な兄の背中が1階に消えていくのをを眺めながら、

雨音は長いツインテールの髪を指でクルクルいじりながら、ため息交じりに階段を降りていく。

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