利輝くんの宝物
利輝くんは小学2年生の男の子で、お母さんと2人で暮らしています。
利輝くんはお父さんの顔を知りません。
前にお母さんに聞いたことがあります。
「お母さん。ぼくのお父さんはどんな人だったの?」
でも、お母さんは何も答えずただ寂しそうな顔をしたので利輝くんはお父さんのことを聞けなくなってしまったのです。
さて、町は真近に迫ったクリスマスの準備で大賑わいです。
商店街では、どのお店からもクリスマスソングが流れています。
小さな子供がおもちゃを見て「これサンタさんからもらうの。」と楽しそうにお母さんと話しています。
利輝くんはそんな親子を見て、少しだけ羨ましくなりました。
利輝くんのお家はあまりお金がありません。
だから、クリスマスプレゼントはいつもお母さん手作りの洋服やマフラー、手袋などです。
利輝くんの誕生日は、12月25日。そう、クリスマスの日です。
でも、利輝くんのお母さんには誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントの両方を用意することはできません。
お母さんはいつも利輝くんに謝っています。
「誕生日とクリスマスのプレゼントが一緒でごめんね。」
「いいよ。ぼく、お母さんが作ったお洋服、大好きだよ。」
利輝くんはそう言って、お母さんに笑いかけます。
でも利輝くんは、お父さんがいたらな、と心の中で思っていました。
クリスマスイブの日になりました。
お母さんはいつもより少しだけ早く帰ってきてくれました。
「利輝。お母さん明日お仕事お休みもらったよ。」
お母さんはニコニコしながら、言います。
日曜日以外でお母さんがお仕事をお休みすることはあまりないので、利輝くんはとても喜びました。
「じゃあ、明日のクリスマスはお母さんとずっと一緒だね!」
2人で微笑み合いました。
その夜、利輝くんは自分の部屋で眠っていると誰かが呼んでいることに気付きました。
「だーれ?お母さん?」
眠たげな目をこすりながら、利輝くんは起きました。
するとすぐ側に男の人が座っています。
「おじさん、だれ?」
利輝くんは尋ねます。
男の人は優しく微笑みながら言いました。
「利輝くん。朝起きたら、テレビの下の引き出しを開けてごらん。青い袋があるから、その中の写真を見てほしいんだ。」
「写真?」
「そう、それからこれは利輝くんのお母さんに教えてほしい。同じ引き出しの1番奥にある茶色の封筒を見てください、とね。」
「うん、わかった…でも…。」
利輝くんは、男の人の顔をジッと見つめます。
「どうしたの?」
「…おじさん、前にも会ったことある?」
その質問に男の人は、少しだけ考える仕草をします。
そして、
「うん、利輝くんがとても小さい頃にね。」
そう言って、立ち上がりました。
「利輝くん。お母さんと仲良くね。」
男の人は、利輝くんの頭を撫でました。
その大きな手になんだかとても安心して目を閉じました。そして次に目を開けたときにはもう男の人はいなくなっていました。
「あれ…。」
いつの間にか朝になっていたのです。
「…夢、だったのかな?」
利輝くんはポツリと呟きました。
台所で、お母さんが朝ごはんを作る音が聞こえてきます。
利輝くんは部屋を出て、お母さんに言います。
「おはよう。」
利輝くんの声にお母さんは振り向き笑顔で言いました。
「おはよう、利輝。ご飯もうすぐできるからテレビのお部屋で待っててね。」
そのとき利輝くんは、夢で会った男の人の言葉を思い出したのです。
「そうだ!」
足早にテレビのある部屋に行き、テレビの下の引き出しを開けました。
「青い袋、青い袋。」
ガサゴソと探す利輝くんを、お母さんは不思議そうに見ています。
「あった!これだ。」
利輝くんは見つけた青い袋を手にすると、中を開けます。
すると本当に写真が出てきました。
写っているのは、今より少しだけ若いお母さんと、お母さんの腕に抱っこされている小さな赤ちゃん。そして…「夢のおじさんだ…。」
夢に出た男の人が笑顔でお母さんの隣にいます。
「それなあに?」
お母さんも写真を覗き込みました。
「え?これ…。」
写真を見たとたん、お母さんは驚きました。
「お母さん。このおじさん、夢に出てきてこの写真のこと教えくれたんだよ。誰?この人。」
「…夢に…そっか、そうなんだ。」
お母さんは、泣きそうな顔で、でも笑顔で写真を見つめます。
「利輝。この男の人は…。」
利輝くんは、お母さんの顔を見ました。
「利輝のお父さんなの。」
「え…?」
利輝くんは、お母さんを見ていた目をゆっくり写真へと移します。
「ぼくの…お父…さん?」
「そうよ。利輝のお父さんだよ。そしてお母さんが抱っこしているのが赤ちゃんだった利輝。この写真はお母さんが利輝を生んだ病院から退院した日に撮ったものよ。これが最初で最後の家族3人での写真…。」
そこまで言うと、お母さんは涙を流しました。
「お父さんはね…この写真を撮った2週間後に…交通事故で…。」
お母さんの言葉に、利輝くんはお父さんが亡くなっていたことを初めて知ったのです。
お母さんは写真を撫でながら、
「利輝の名前は、お父さんが考えたのよ。お腹の中の赤ちゃんが男の子だって判った日から毎日毎日真剣に考えていたの。」
と言いました。
「じゃあ、ぼくの名前はお父さんからのクリスマスプレゼントで誕生日プレゼントでもあるんだね!」
利輝くんは笑顔で言いました。
お母さんは驚いた顔をして、利輝くんを見つめます。
そして、フフッと笑いました。
「そうだね。利輝へのプレゼントだね。」
お母さんは利輝くんを抱き締めました。
「ねぇお母さん。」
「なあに?」
「ぼく、もう1つお父さんから言われたの。これ、お母さんに教えてって。あのね、この引き出しの奥の茶色の封筒を見て欲しいんだって。」
利輝くんの言葉に、お母さんは引き出しの奥を探り封筒を見つけました。
「何かしら?」
お母さんは呟きながら封筒を開けます。
出てきたのは、小さなノートのような形をした物です。「これ、なあに?」
利輝くんの問いにお母さんは答えません。
なぜか小刻みに手が震えています。
「…お母さん…?」
「あの人…いつの間にこんなに…!」
お母さんは両手で顔を覆いました。
「お母さん、大丈夫?」
利輝くんはお母さんに抱き着き、心配気な顔をしました。
お母さんは、顔から手を離すと流れる涙を自分の指で拭いました。
「ごめんね、利輝。びっくりさせちゃったね。でも、お母さんもびっくりしちゃった。これね、通帳と言うのよ。銀行にお金をどれくらい預けたとか、どれくらい貯まったかが分かるの。」
そう言って利輝くんに見せました。
「この通帳お母さんの名前で作ったんだけど、知らないうちにお父さんが少しずつ貯金していてくれたみたい。」
中を開くとたくさんの数字が印字されています。
「利輝を生んだ日が最後の入金だけど、全部で300万円入ってるわ。」
利輝くんはその金額に驚きました。
「すごい。ぼくたち大金持ちだね。」
目を丸くしたまま利輝くんは言いました。お母さんはクスッと肩をすくめます。
「大金持ちではないけど、まぁ小金持ち?かな。ねぇ利輝。このお金はお父さんがお母さんと利輝のことを考えて残してくれたお金。だから、利輝がこれからもっと大きくなって勉強や習い事をするときに使うようにしようね。」
お母さんは利輝くんに優しく言いました。
「うん!大事に使おうね。」
利輝くんは満面の笑顔になります。
「お父さん。ぼくにたくさんのプレゼントをくれてありがとう。ぼく、頑張るからね!」
写真の中で微笑むお父さんに向かって、利輝くんは力強く言いました。
「あ…。」
お母さんがベランダの方を見ています。
「利輝。雪が降ってるよ。」
窓を開けると、ヒンヤリと冷たい風が吹き込んできます。
「うわぁ、雪がいっぱい降ってるね。積もるかな?」
「どうだろうね?でも積もったら、お母さんと雪合戦しようか?」
「うん!」
利輝くんとお母さんは、降りしきる雪を見つめています。
「あっ、見て。」
利輝くんが指を指した方向には、太陽の光がうっすらと差し込んで雪をキラキラと輝かせています。
「きれいだね。」
利輝くんの言葉に、お母さんは頷くだけの返事をしました。そして写真を胸に、心の中で言いました。
やっと、家族3人でクリスマスを迎えられたね。ありがとう、あなた。




