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【和風ダンジョン】化け屋敷〜猫又編〜  作者: 真綾


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調教師・胡蝶

今回少し長め。


 いつも通りの朝食のとき。昨日の母さんからの手紙の内容を親父に聞くか悩んでいた。聞けば「修行が足りなかったかもしれない」と言われ、いつも以上に厳しくなる可能性もあるのでやめた。


 上座に親父が座り、向かい合って俺と晶が隣同士になって座る。数代前の当主が足腰が弱くなり「リビングは椅子とテーブルがいい」と言ったため、改築されている。妖怪たちも自分たちの存在を忘れられないために化け屋敷というものを作り現代社会に適合してきている。術者である俺たちも変化をしていかなければ、どこかでやられてしまう。


清春きよはる、しばらくの間修行は中止だ。その代わり夜の見回りに出てもらう」


「俺が行くんですか?」


 学生時代は成績が下がってはいけないという母さんの教育方針のため家業を手伝うのは最低限になっていた。修行だけは毎日やらないと腕が鈍るので強制的にやっているが。


調教師ちょうきょうしがきて、この辺りを教えてほしいとのことだ。昨日お前がまとっていた匂いのモノを祓われては困るだろう?そうならないために付き合ってやってくれ」


「それは兄様がまた私と遊ぶ時間がないってことですね」


 晶の雰囲気が変わる。基本的に温厚そうに見えて俺のこととなるととても熱くなる。好かれているのは嬉しいが、俺のことで喧嘩になると巻き込まれる可能性がある。

 俺は黙って食べ続けることにした。

 親父は箸を置き、あきらの顔を真剣に見つめる。


「晶、お前は学校の勉強をちゃんとやりなさい。今の時代は術者の力だけで生きていけるわけじゃないんだ」

「何のことですの?」


 晶は親父の顔を睨み返している。

 俺も学校の成績は最低限のレベルでいいから取るように言われている。勉強は嫌いじゃないが、修行の時間と学業とを両立するのは難しい。

 修行を異空間でしているおかげで、時間を有効に使えているというのが正しい。


「先生からお便りがきてな」


 懐からA4サイズの紙を取り出した親父の顔はどこか悲しそうだった。 

 晶は心当たりがあるからか、親父から顔を背けた。


「勉強はちゃんとしていますわ」

「テストで0点とったのは、わざとだろう?」

「勉強ができないからこそ、兄様に教えてもらわないといけないんです」


 ダンっとテーブルを叩く晶。最近一緒にいる時間が少なかったのが原因だったにしろ、自分の成績を落としてくるなんて。

 俺に勉強を教えてもらうよりも先に、怒られることを考えていなかったのか?いや、考えついていたはずだ。それでも俺と一緒にいる時間を取りたいという、欲が勝ったのだ。


「それが狙いか」


 とても分かりやすいくらい大きなため息をつく親父。何か言いたげに俺に視線を向けてくる。

 晶も俺のことを見てきた。熱い視線を向けられても、俺は自分の身が一番可愛い。喧嘩に口を挟むつもりはなかった。


「遊んでもらえないのなら、少しでも一緒にいられる方法を合法的に考えただけです」


 そうですよねと言いたげな晶。親父が頭を抱えている。


「晶、お前どうして清春のこととなると少し頭が悪くなるんだ……?」

「兄様のことが大好きだからですわ」


 答えになっていない。妹に好かれて悪い気はしないが、どうしてここまで懐かれているのか自分でも正直謎だった。

 この話で先に折れたのは親父の方だった。


「分かった。修行を一緒に行ったりして一緒にいる時間を増やしなさい」

「ありがとうございます」

「ただし、調教師の方との仕事を邪魔することは許さないので、絶対についていかないこと」

「お父様!」

「晶、お前の力は強い。それはよく知っている。だがまだまだ未熟なんだ。仕事が長引けば清春は家に帰って来られなくなる。ならば早く仕事を終わらすことに力を入れるのが、一番だとは思わないか」

「そうですわね」


 どこか嬉しそうな晶。これは仕事を早く終わらせないと、ねて大変なことになるんじゃないか?

 というか親父。どこか楽しそうな顔に変わっているけど、俺が仕事をサボらないようにするために晶も巻き込んでいる気がした。

 我が親ながら本当に食えないやつだ。


「兄様、何かあったら晶にすぐ知らせてください。全力でサポートいたしますわ」


 晶の嬉しそうな顔。そして親父は飯を食べ始める。これは晶に声をかけてあげないといけないやつだ。


「晶、お前は勉強に集中な」

「はい!」


☆★☆


 調教師もダンジョンに入ることがある。力のない人間が使役しえきとして妖怪を求めることもあるし、術者に強い妖怪を売りつけることもある。調教できる妖怪たちばかりではない。

 母方の血のおかげで護りに特化した術を得意としているので、時折一緒に仕事をしていた。

 歳が近い方だったので、自然と仲良くなったのが、今回来ている胡蝶こちょうだった。

 集合場所はこの地の入り口。古来からある結界は年月とともに薄れてゆき、今この世界に張り巡らせいている結界も無くなってしまっては、人が生きていくことができなくなってしまう。一般人に存在を認識されていなくても、世界を守るために命をかけてきたご先祖様のためにも、俺はこの仕事を続けるつもりだ。


 結界の入り口はこの世とあの世の境目に近く、悪きものは近づけない。結界を壊されないために、近づけないのだが。


「お久しぶりですぅ。清春様」


 ツインテールをした女性。闇に隠れるように黒い着物を着ていた。

 俺の本来の仕事着は狩衣なのだが、今のご時世では浮いてしまう。ご先祖様代々の服装ではなく、Tシャツにジーパンだった。

 一般の人にみられても違和感のない服装ってなったらこうなるんだけど、親父には不評だ。

 化け屋敷攻略に行くときはちゃんと正装をして行っているので多めにみて欲しい。


「様はやめてください。胡蝶さんの方が年上ですよね?」

「照れてらっしゃいます??」

「違います」

「清春様、敬語もやめてくださいって、お願いしましたよね??」

「自分の意見だけを通そうとしていませんか」

「そうですね。対等でないといけませんよね。因果応報、情けは人のためならず。何事も過不足なく……。術者の方とのやり取りは本当に難しい……」


 俺より頭一個分身長の低い胡蝶は、口を尖らせる。胡蝶以外に誰もいない。彼女の暴走を止める人がいないということだ。

 

「俺のが年下なんだから」


 思わずタメ口を使ってしまう。にっこりと胡蝶は笑った。


「そうですねぇ。でも力は私の方が低いです。調教師たるもの、そこを見誤ると命を落とす危険性があります。だからこそちゃんと力のある人を敬わないといけないんです」

「俺より年上と言っておいて、ツインテールはやめないんだな」


 話をそらそうとすると、そのツインテールをブンブン振り回し始める。

 初めて会ったときから5年くらい経つが、彼女の容姿は変わっていない。二十代だったと思うが、とても幼く感じる時もある。

 髪型のせいもあるとは思うが、髪の毛には霊力が宿ると言われているため、術者は髪を伸ばす人が多い。俺も男子の割には髪は長い方だ。


「これは私にとってのアンテナなんです!」

「アンテナ?」

『そんなわけないですよ。ただの趣味です』


 にゅっと胡蝶の後ろから猫が、よく見たら虎が顔を出す。ホワイトタイガーの虎狛は胡蝶の使役だ。戦闘能力に長けており、「力が弱い」と言っている胡蝶が一目置かれている理由の一つ。虎狛の種族は白虎であり、普通使役にできないはずなのだ。

 それでも虎狛は胡蝶を選んだ。それ以上もそれ以下も理由はいらないのだ。


虎狛こはく久しぶりです」


 胡蝶が気にしていなくとも、虎狛に睨まれてしまえば色々大変なことになる。

 主人である胡蝶はそれを分かっていないので問題な気もする。


『お久しぶりです。本当にこの子を我が主人アルジと認めたこといまだに後悔しております』


 そういいながら胡蝶の頭の上に座る虎狛。とても優しそうな声で話しているからそれが本心でないことは分かっている。

 しかし胡蝶は素直性格なため、その言葉を鵜呑みにする。


「な、最強に可愛くて強い私に仕えたいって言ったから、使役にしてるのに?!」

『……主人、このままでは調査が進みません。本題に入りましょう』

「分かったわ。当主様から話は聞いているのかしら」

「何も。ただ母さんから危険が迫ってるから気をつけろって手紙をもらったくらいかな」

麗華れいか様からですか‼︎ お元気ですか?一度お仕事をご一緒しましたが、本当に素敵な方でした」

「元気なんじゃないかな」


 何かあれば親父が大暴れすると思うし。親父自身も母さんが仕事に出ることをよく思っていない。できることなら自分のそばにいて欲しいと考えている人間だ。

 それでも母さんの思いを優先している。

 俺は結界の中に胡蝶を招き入れる。この辺り一帯の守護を任されている一族として、異変を見過ごすわけにはいかない。


「我が名は安倍清春。この地を護り導く者なり。我が地を踏むことを二名に許そう。胡蝶・虎狛。この地での力の制限を解除する」


 ふわりと俺と胡蝶の間を風がすり抜ける。


「それで今回は何できたんだ」

「ふわぁ。やっぱり清春様の術は美しいですねぇ」


 とても簡単な、術とも言えないものだと俺は思っている。部外者が結界の中で力が発揮できないようにしている。悪い術者が入ってくることを防ぐ意味もある術式。


「胡蝶さんはいつも俺の術を褒めてくれる」

「本当に綺麗なんですもの。今まで見たことある術と比べられないです」


 自分の周囲を回る風を見終わった胡蝶が真剣な眼差しで俺をみた。


「動物たちの動きが変で。手の空いていた私が、現状把握のために来たんです」

「動物が変?」

「はい。数日前から」

「変なところはなかったと思うけど」


 人よりも動物たちの方が異変に敏感だ。化け屋敷ができる前などに動物たちが棲家から逃げることはよくある。

 そういえば今日は少年の気配を感じない。いつもなら公園近くに来れば気配を感じるのだが。成仏はしていない気がしていた。どうしてここにいるのか忘れてしまった者の顔をしていた。それがとても印象的だった。


「清春様でも異変を感じていないのですか?そうなると勘違い、いや確かになんかこう、違うんですよね。普段と」

「調教師の君がいうんだから、そうなんだよ。この地域全体が変ってイメージでいいのかな」

「そう広くない範囲なので、どうしてなのかが分かりにくくて」

「それを調べるために来たんだから、落ち込まなくていいんじゃないか?」

「清春様、お優しい」

「普通だろう」

「調教師たるもの霊獣や使役するモノに舐められてはいけません。優しさも諸刃の剣と言われて育てられてきました。やはり世界には優しさが必要」

『ごめんなさいね。この子誰とでも仲良しになれてしまうから、長老たちに危険視されていたの。力を蓄えて謀反を起こすんじゃないかって。だから厳しく育てられたの』

「虎狛何言ってるの?謀反とか。おじい様たちはそんな優しい理由で私に厳しかったんじゃないわ。私が出来損ないだったから厳しく躾けたのよ。どんな霊獣も使役にできるように」


 胡蝶の調教師としての実力は折り紙つきだ。何度か仕事を一緒にしてきたが、彼女に従えられなかった霊獣はいなかった。

 それは胡蝶の持っている霊力がとても穏やかなものである。元々動物が好きだった胡蝶。術者の一族に生まれずに、そして能力も桁外れたものを持っていなければきっと普通に動物好きな女の子として一生を終えることができたと思う。

 胡蝶と俺とはよく似ていると思う。お互いに力を持って生まれてこなければ違った人生《道》を歩めたのではないかと。


『胡蝶、あなたが従えているのはこの私なんですよ。それを忘れてしまっては困ります』

「うん。私も虎狛のこと大好きだよ‼︎」

『……』


 純粋すぎる彼女を手に入れたい悪きものは多いだろう。

 己の身を守れるように当主が彼女をしばいているのだとしても、それが伝わっていない。

 虎狛が俺に助けを求めるような視線を向けてくる。

 俺には彼女の純真無垢さが羨ましい。自分の身を守るために妹に当主になってもらおうとしていて、妹の晶はそれを分かった上で、俺に懐いてくれている。

 醜い俺には、胡蝶の存在が眩しいんだ。

 絶対に口に出して教えてあげるつもりはないが。


「俺は明日も学校があるから、早く調べよう。その違和感の正体」

「清春様はやはり素敵ですね。虎狛、いい?私は自分の意思で調教師をしているの。修行が厳しかったけど、そのおかげで今お友達が多いわ。私はこの力を持って生まれたことに後悔はしていないの。そのおかげで虎狛と出会えたし」

『胡蝶、私が言いたいことは……』

「清春様の貴重なお時間を頂いてこの辺り一体の調査をするんですよ。お説教は後で聞きます」


 胡蝶は虎狛から逃げるように歩き出す。俺はその後に続く形で歩き始めた。


 一晩かけて見回りしたけど、異変は何も感じ取れなかった。

 そして、少年の姿もなかった。

ここまで読んでいただきましてありがとうございます!!

胡蝶が可愛すぎて、暴走して文字数がぁってなりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?


まだまだ続きます!!

よろしくお願いします。

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