3 ヒロインかもしれない
「もー!!もう辞めます!!もう無理です!!」
「ま、待ってくれ!アウリエ!まだ間に合う!」
「グレン様の所ではこんな修行したことないですよ!無理!!」
俺はエメラルにやってきていた。
その理由はめちゃくちゃシンプルで、宮廷騎士団に勧誘されたから。さすがに俺は辺境の田舎暮らしと宮廷騎士団の重みがわからないほどバカな人間ではない。
しかしながら、無理だった。
ここの人たちはめちゃくちゃに修行をしている。
今も、一日の始まりに腕立てを一万回やるとかなんとか。
で、その後にはスクワットを十万回やるとか、やらないとか。で、で!極め付きには百キロを走ることになるとかならないとか。
アウリエは宮殿の離れにある騎士団訓練施設にいた。
そこは巨大な体育館のようになっていて、とにかく広々としている。
しかし、要所要所に宮殿らしい豪華絢爛な装飾があったりする。
とにかく、そんないかにも訓練場のような場所で宮廷騎士団のみんなに混ざって特訓という名のシゴキを受けていた。あまりにも無理すぎた。
とにかくもはやレベルが違う。
どう考えても俺はここが向いていない。
だから、辞めようとしていた。
が、ユーリからはめちゃくちゃ止められてしまっている。みんなもうスクワットに移行しているのに、俺だけまだ腕立て二百回だ。馬鹿げてる。
「どうして辞めてはいけないんですか!?どうせ着いていけませんよ!」
「しかし!アウリエは俺よりも強いだろ?そんな人物がいないなんて変だ!」
「そんなこと言われても無理です!まだ二百回しかしてない!」
『しか』じゃない!!『二百回しか』では決してない!
「それはわかる。しかし、特別扱いをすることはできないんだ。入団テストをパスして入ってもらった以上は、ちゃんとやるべきことをやってもらわないと示しが付かない」
ちなみにこの人は騎士団長だったらしい。
なので、団長特権で俺はここに入ることになった。
しかし宮廷騎士団のほとんどの人はアクリスタルまで来ていない。
それもあった俺みたいな軟弱者がここにいきなり入ってきたことに疑問を呈している様子だ。そんなこと言われても困るが、さっきも「まだ終わってないの!?」とか小言?を言われた。
そんなことを言われるためにここに来たんじゃない!
が、やはり宮廷騎士団なんて魅力的すぎる。
絶対にモテるのだ。
しかも、まくるのだ。それを考えるとこのまま辞めるのは惜しい気もしたが、あまりにも無理なので辞めようとするも辞めることができなかった。
そもそも別にそんなにモテたいと思っていない。
普通に彼女なんて一人でいいのだ。
ハーレムなんて軽薄な感じがする。
自分が好きになる人なんて一人だけでいいし、ヒロインも一人だけでいいはずだ。俺は浮気とかするタイプじゃないし、したくもないし。
そんな俺の元にとある女性がやってきた。
「大丈夫ですか?ユーリ」
「あぁ、リリー。この人が紹介したいと言った人だ」
その人はめちゃくちゃ眼差しが綺麗で、どこか威圧的な雰囲気があるものの、その根底には優しさがありそうな人物だった。
この人も騎士団員なのだろうか?
この場所に居るということはそうなのか?
しかし、汗をかいている様子がない。
さすがに腕立てを一万回して汗をかかないほどのバケモノはいないだろう。となると、なんだろう。どんな人なんだろう。でも、綺麗な人なのは間違いない。
「アウリエよ。彼女は『リリー・アルバート』。まあ、俺の姉だ」
「よろしくお願いします。弟がお世話になっております」
「あ、よろしく……」
なーんか、似てると思ったんだよなぁ!?
なんかどこか既視感があると思ったんだけどそういうことか!特にその眼光がそっくりな気がする。姉弟揃って眼光が鋭いなんて、両親はどれだけ目力があるんだ?
「実は、俺に勝った人物がいると両親に話したんだ」
「そしたら話が盛り上がっちゃってね?」
「それで、もしもアウリエさえよければなんだがな」
「私とお友だちになってくれない?ちょっと他の友だちとは違う形で仲良くしてくれると嬉しいな。アウリエルさん?」
……これは、意味深か?
「お友だちになってくれない?」には別の意味がある。
どう考えてもそうとしか思えない。
これはもしかすると結婚の話かもしれない。
そこまで飛躍する必要があるのかはわからないが、とにかくそういう感じの話をされている感覚がスゴいあった。あまりにも急すぎるが、そんな感じだ。
「じゃあ、今からどこかへお食事にでも――」
「待て!それはダメだ!ちゃんと修行を終わらせなければ」
「……絶対に終わらないですけど?一生このままですよ?」
「ユーリ。なんとかしなさい。今から二人でどこかに行くのだから、それを貴方の権力でなんとかしなさい」
ヤバイか?
もしかして、この人ヤバイ人か?
隠れ里では同い年の女子なんて居なかった。だから、俺にとってこんな機会はめちゃくちゃ珍しい、もはや人生で経験したことがないようなチャンスなのだった。
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