22 それぞれの「普通」
たくさんの食材を持ってアクリスタルまでやってきたアウリエとリリー、とその従者の数人。もはや貴族に近いような扱いを受けている彼女はこうして人を使うことができるのだった。
元々は断ろうとも考えていたが、アウリエから辺境の地での生活の話を聞いて恐ろしくなって頼ってしまったのだ。貴族とは大抵の場合で美食家であるが、リリーもそうだった。
色んな話をする中でリリーは絶望しそうになっていた。
なによりも辛そうだったのが、主食が同じということだ。
ここでは毎日毎日近くの山の芋を食べる。
それに山菜とちょっとしたジビエが中心の食生活になるわけだが、どうやらリリーにはそれが受け入れがたいらしい。修行は簡単だけどそこら辺は面倒だよ。
「大丈夫かしら?私」
「慣れたらきっと大丈夫だとは思うけど、どうだろ?」
「まあ、そうよね。私なんてユーリが騎士団長になるまでは普通の平民として暮らしていたわけだから、そういう生活もきっと大丈夫なはずよね?」
ちなみに、リリーが言う「普通」とは普通ではない。
普通に恵まれた環境で生まれているのは間違いがなかった。
そもそもなにもない人間を宮廷騎士団に入れることは滅多にない。
貴族たちの近くで仕事をすることになる彼らには、絶対的な実力か、それなりの生まれであることが求められていた。ユーリは後者で入って、絶対的とも言える実力を手に入れた。
「みんなもすみません。こんなところまで」
「いえいえ、私たちの仕事ですから」
「そうなんですね。大変だ……」
貴族に仕えている人たちって絶対に大変だよな。俺の中で貴族ってワガママなイメージしかないし、実際に接してみるとそうでも無さそうな雰囲気はあるけどさ。
でも、村社会って感じで大変なのは間違いない。
ちょっと失敗したら絶対にみんなに広まると思う。
きっとちょっとマナー違反したらみんなに知られるはずだ。
俺はそんな世界で生きていけるのだろうか?それを考えるとリリーをコッチに引き込んだ方が俺にとってはありがたそう。でも、向こうにとってどうなのかは知らない。
「とりあえず、道場に行ってみよう」
「わかりました」
アクリスタルまで着いたアウリエ御一行。彼らはとりあえずグレンの道場へ向こうことにした。そこにも大きな冷蔵庫はあるので、グレンが居たらそれが一番手っ取り早い。
そんな思いで向かった道場には誰もいなかった。
なので、今度はグレンの自宅まで向かうことになる。
従者たちは重たい荷物を背負って大変だ。
アウリエもそれを一部持っていたが、やはり根気も体力もないので結局のところほとんどは従者が持つことになっている。彼らは汗だくだった。
「ちょっと一旦休みます?俺たちが呼んできますよ」
「いいんですか?それでいいんですか?」
「もちろん。じゃあ、ちょっと挨拶に行こっか」
「そうだね」と了承したリリーとともにまたまた二人でグレンの家まで向かうことになった。今もお昼は余裕で過ぎている。グレンは朝が苦手だった。
それにしてもここで二人で暮らすことになるのか。
いくつかの行程をスキップしている感じだ。
どうせまた価値観の相違で喧嘩みたいになることもあるんだろうな。なんかそういう時ってどうしたらいいんだろ?なにかマニュアルのような物はないでしょうか?
「リリーってなにか趣味とかある?」
「乗馬、かな?」
「なるほど。ここなら馬も飼えそうだし、考えとこっか」
俺がそんな提案をすると楽しそうに笑うリリーがいた。俺は馬とか乗ったことはないけど、前まではここにも牧場みたいなのを経営している人がいたのは覚えてる。
人が消えすぎてその牧場も消えてしまった。
というか、二人で牧場でも開きたいな。
それでゆっくりスローライフでもしたい。
そもそも魔王なんてもう居ないんだから本当は強くなる必要なんて誰にもないでしょ?わざわざ強くなる必要も、騎士団に所属する必要もないような気がする。
だからグレン師匠はここに来たんだろうけどさ。
俺も強くなろうとして修行してたわけじゃないし。
逆に宮廷騎士団のみんなのモチベーションってなに?
やっぱり自分の階級を少しでも上げるためにやってるのかな?それとも、まだまだこの世界には問題があったりするのだろうか。
……ないだろうなぁ。
もし仮にあったら絶対に俺が呼ばれてるもん。
なんにもないから俺は自由で居られてるんだ。
まあ、平和が一番なのは間違いないけど、こんなに平和だと俺にはなんにもやることがない。別に英雄になるために剣術を習っていたわけではないけどね?
グレンの家まで向かう途中に自分の存在意義について考えてみたアウリエ。そうしたらそんなの特にないことに気付いてしまう。
なので、逆に「自由に生きていく」と決めたのだった。別にアウリエがなにをしようがしまいが世界はあんまり変わらないのだった。なので、普通に生きていけばいいのだった。
よいお年を~。
大晦日なのでいいことがあるでしょ~。
(小説を消すこともあります)




