10 やっぱり修行はしなさい
無傷で千人組手を終わらせてしまったアウリエ。彼の実力は確かな物であると宮廷騎士団の全員が思うようになった。しかし、それでも問題はまだある。
あまりにも強すぎて引かれてしまっているのだ。そして、修行の時にアウリエがよくない芝居をしているのではないのか?と疑念を持たれてしまっているのだ。
今日も今日とて訓練施設に来た俺。
しかし、今日はなんだか空気が違った。
不思議なまでに緩んでいたのだ。
前はみんなもっと“シャキシャキ”動いていたはずなのに、みんなどこか“ダラダラ”と動いているような気がする。もしかして俺のせいですか?
「よ、よく来たな。アウリエよ」
「なんだかいつもと空気が違いません?気のせいですか?」
「気のせいではないな」
「なにがあったんですか?というか、なにがあったの?」
「……もうハッキリと言わせてくれ。みんなアウリエに負けて萎えてるのだ。あんなに修行ができていなかったお前に負けてみんな気持ちが萎えてしまっている」
そんなこと言われても知らんし。
「ちなみに、俺はホントに本気で修行を――」
「わかった。しかし、そんなことは誰も信じてないぞ?」
「……」
ええーー?そんなこと言われても知らないんですけど!こんなことを言っちゃうとアレだけど、この修行が間違ってるだけなんじゃないですか?まあ、こんなこと言えないけどさ。
「みんなでグレン師匠のところにでも行きますか?」
「そんな迷惑なことはできない。世界を救った英雄だ」
「……本当なんです、本当に修行ができないんです……」
「……今は信じられない」
「もー!グレン師匠がどんな修行をしていたのかも知らないで!俺は本当に気楽な気持ちで、それこそ習い事に行くくらいの感覚で、いや?もっと楽な気持ちで修行をした結果、こうなったんですよ!」
そう。
めちゃくちゃ気楽にやっていたのだ。
だからめちゃくちゃ強いとか言われて困ってるのだ。
自分でもそんなわけはないと思っている。
もっと言うと、ちょっとみんなあまりにも弱すぎませんか?とすら思っている。やはりこれも言えないが、そういう思いが沸いてくるのは仕方がないことだ。
アウリエは困っていた。
結婚さえできればいい。
そんな気持ちもあったが、兄弟とは仲良くしたかった。
それに、どうせなら宮廷騎士団とも仲良くしたかった。
もうアウリエは修行をする必要がない。だから、みんなが走り回っているのをただ見守っているだけだ。そして、その姿勢もまた兵士たちにとっては不快でもあった。
「……今さらになって申し訳ないが、やはりやってくれるか?」
「え!?ホントに!?」
「まあ、そう言いたくなる気持ちはわかる。しかしな」
たしかにこのままの空気で迎え入れられるのは最悪だ。
もうちょっと歓迎してくれてもいいじゃないか。俺は辺境の地からここへ引っ越してきたばかりの田舎者なんだし、もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃないの。
「……わかりました。でも、最後まではできないですよ」
「……それも本当なのか?」
「できないって!スゴい勘違いされてるよ」
「みんなもそれは信じないと思うぞ?」
「信じる信じないとかじゃなくて本当にできないのに。もしかして、今までの俺のアレコレをアレだと思ってるんですか!?演技だと思ってるんですか!だとしたら主演男優賞をください!」
帰ろう。
いつかは必ずアクリスタルに帰ろう。
でも、今すぐだとリリーも受け入れてくれなさそうだ。
俺がここに馴染めないのと同じように、向こうも向こうに馴染めないのだと思う。まあ、俺たちはもっとちゃんと歓迎してあげるだろうけどね?しすぎるかもしれないし。
「とりあえず!やるのはわかりました!意味わかんないですけど!」
「まあ、とりあえずやってみてくれ」
というわけで俺はまた腕立てから始める。
明らかにペースが遅く、百回すらできそうにない。
それを見てやはり不審に思っていそうなユーリ。これから家族になるかもしれない相手に向けるような視線ではない冷たすぎる視線が痛い。
「……おちょくっていたりするのか?」
「だから違うって!本気なんだって!」
「そんなわけがないだろうが!本気なわけが!」
「そんなに言うならまたやりますか!?やらないでしょ!?」
「二人とも止めなさい!まず、ユーリはアウリエのことを疑うのを一旦は止めなさい。そして、アウリエは……なんでしょう。修行ができるように努力しなさい」
喧嘩になりそうだった二人の元にリリー。
ぶっちゃけアウリエのことを信じていない彼女。
しかし、そんなことがあっても愛情はあった。
ちゃんとした実力のあるアウリエのことを信じている気持ちと、本当はできるはずなのに怠けているかもしれないアウリエのことを嫌いになりそうな気持ちが半々。
せっかく頑張ったのにこれではアウリエが報われない。しかし、千人組手で無傷で完勝できるような桁外れの人間が、みんなが当たり前にしていることができないなんておかしいと思うのは普通でもあった。
もう年末です!
読んでいただきありがとうございます!
(小説を消すこともあります)




