1 気楽に修行
土曜日の午前十一時半。
今日もグレン・フレイヤ師匠の剣術道場にやってきた。
グレン師匠は本当に緩い師匠で助かる。
仕事しながらだと修行するのとか面倒だ。だから、これぐらい緩い道場がたまたま山と山と山と川しかないような辺境の地にあるのはありがたい。いや、辺境の地だから緩いのか?
アウリエル・ルークス。
彼は人里離れた山の中の隠れ里にいた。
名前すらないような場所に十数人程度で暮らしている内の一人。
高校生ぐらいの年齢ではあったが、ここでは学歴なんて全く頼りにならないので普通に中学卒業で彼の勉強人生は終わった。そして、家業である竹細工で生計を立てていた。
子供の頃からこの里にいた。
だから、引っ越すことなんて全く考えていなかった。
彼はこの隠れ里『アクリスタル』が好きだった。
それに、小さい頃からこの『グレンの灼熱居合道場』に通っていたのだ。だから、今さら別のところへ行くなんて全く考えられなかった。ここで生活していこうと思っていた。
「おはーす。グレン師匠」
「おぉ!よく来たのう!アウリエ!コーヒーでも飲むか?それとも紅茶か?」
「まあ~~~、コーヒーで」
「わかったぞい。コーヒーはガムシロップ三杯だったか?」
「はい。それでお願いします。すみません、いつもいつも。本当は弟子である俺が早く来て準備しないといけないんでしょうけどね」
それにしても灼熱とは名ばかりだな。
ここには魔法とかもない。
だから、別に火属性の魔法が学べるとかでもない。
シンプルにグレンって名前から紅蓮を連想して灼熱って着けてるだけでめちゃくちゃ緩すぎるくらいに緩い。まあ、趣味でやってるんだしそれくらいでいいけどね。
ハの形を描くような白い髭をしたグレン。
頭も白い彼は優しい笑顔でアウリエのコーヒーを淹れる。
そして、冷蔵庫からザッハトルテというケーキを出した。
あまり身長は低くないグレンは道場着を着てなければ優しいお爺さんにしか見えない。笑ったときにできる無数のシワは今までたくさん笑ってきたことを現していた。
「そんなこと気にするでない!エネルギーを取らんとダメじゃぞ?」
「あ、チョコケーキ。ありがとうございます」
「ザッハトルテというんじゃぞ?美味いぞぉ?」
笑顔のグレン師匠はチョコケーキを乗せたお皿を二つ持って、俺が座っている畳の端っこにやってきた。普通の道場なら畳の上でケーキ食べたり、コーヒー飲んだりするのはダメなんだろうけど、ここはいいらしい。
俺が心配になっちゃうよ。
これからする修行も楽しいだけだし。
まあ、でも、なにかを習得している感じはある。
そのなにかがなんなのかは知らないけど、なにかを習得している感じはスゴくある。もしかしたら俺は居合切りの達人なんじゃないかって思うときもあるもんね。
そういうのって大概勘違いでしかない。
俺も昔は歌手になりなかったもんですよ。
自分の歌が誰よりも上手いと信じていた。
けど、実際はそうでもなかったらしく、里の忘年会で歌ったらめちゃくちゃ笑われてしまった。まあ、里だとよくあることですね。俺もそんなに気にしてないし。
アウリエは自分の居合の実力をその程度だと考えていた。
子供がするような勘違いを今でもしているものだと考えていた。
しかし、実際がどうなのかはわからない。
いや?実際がどうなのかは後のお楽しみというか、この後すぐというか、もうすでにみんなは知っているはずというかなんというか。
「そうじゃ。そういえば大事な話があるんじゃよ」
「だ、大事な話?なんですか?」
この里での「大事な話」なんてほとんど引っ越しの話だけだ。
もしかして、グレン師匠までここを去ってしまうのか?このままだと両手で数えられるくらいの人しかこの里には残らないことになるぞ?
「実はな。ワシは昔に魔王を討伐したことがあるんじゃがな?」
「はぁ!?はぁぁぁ!?そうなんですか!?魔王!?――マジで?それ本気で言ってます?」
「本気じゃよ。そんな嘘をつくわけがないじゃろ?」
嘘でしょ!?
俺そんな人から剣術習ってたの?そんなに貴重な機会に預かっていたの?そんなこと本当にありますか?えー、全然信じられないぞー?
この世界には魔物がいる。
人間を滅ぼそうとしていた魔物だった。
が、グレンたちが魔王討伐を果たしたことでその問題は解決した。
今からおよそ二十年も前の話ではあるが、逆に言うと二十年しか経っていないのだった。だから、あまりにも英雄的になりすぎたグレンはここにスローライフをしに来ていた。
「それがどうしたんですか!?なんでそんな話を!?」
「実は、その時に所属していた宮廷騎士団から連絡が来てな?」
「『宮廷騎士団』!?出てくるワードが全部強い!」
「彼らの上の方の人間がここに遊びに来るというのじゃ」
「遊びに来る!?こんな人の数よりも熊の数の方が多いかもしれない『アクリスタル』に宮廷騎士団の皆々様方が来る!?」
「その時に、一番弟子としてみんなの相手をしてやってくれるかのう?できるじゃろ?」
クリスマスが近い!
お疲れさまです!
(小説を消すこともあります)




