数弱理系の俺は英弱文系の君と恋をする
高校一年生 新原 一翔は、教室の後ろの席で、数学のテストを握りつぶしていた。
「うそだろ…また30点台かよ…」
答案用紙には、赤ペンで×印が乱雑に踊り、先生の「もっと頑張れ!」というコメントが、まるで煽り文句のように見えた。
一翔は数学が大の苦手だ。公式を覚えても、問題を見ると頭が真っ白になる。なのに、なぜか理系の道に進みたいという、ちょっと無謀な夢を持っている。得意なのは英語と地学と生物。英語の長編エッセイならスラスラ読めるし、岩石の種類や細胞分裂の仕組みならいくらでも語れる。だが、数学だけはまるで宇宙の暗号だ。
「新原、落ち込んでる暇あったら次のテスト勉強しなよー」
隣の席の友人がニヤニヤしながら言うが、一翔は「うるせえ」と一蹴し、答案をカバンに突っ込む。
そんなとき、教室の前方で小さな悲鳴が聞こえた。
「うそ…マジで…8点!? 8点って何!?」
声の主は、英田 すずだった。
すずは、クラスのアイドル的存在だ。ふわっとした栗色の髪に、ちょっと垂れ目がちな瞳がチャームポイント。笑顔はまるで子犬のようで、男子の半分は彼女に片思いしているんじゃないかと噂されるほど。だが、今の彼女はそんな可愛らしい雰囲気とは裏腹に、英語のテストを手に絶望の表情を浮かべていた。
「こんな点数、初めて見た…! これ、親に見せたら家追い出されるよ…!」
彼女の声は震え、答案用紙を握る手もプルプルしていた。
一翔は、すずのその姿に少しだけ同情した。
「へえ、英田って英語ダメなんだな。意外だな、頭良さそうに見えるのに」
心の中で呟きながら、彼女の答案をチラッと覗き見る。確かに、8点。壊滅的だ。
放課後、一翔は図書室で地学の参考書を広げていた。数学のテストのことは忘れようと、好きな火山の構造について読みふけっていたとき、目の前にドサッと参考書が積まれた。
「うわっ、なんだ!?」
見上げると、そこにはすずが立っていた。彼女は頬を膨らませ、明らかにイライラした様子で参考書をテーブルに置いた。
「新原くん、だよね? ちょっと、席借りるよ!」
「あ、う、うん…どうぞ?」
一翔は少しドギドキしながら、参考書を端に寄せた。すずはガタッと椅子を引き、ドスンと座る。彼女の持ってきた参考書は、英語の文法書や単語帳の山だった。
「英語、死ぬほど苦手なんだよね…。今日のテスト、8点だったの。8点! 信じられる!?」
すずは一翔にグチをぶつけるように話し始めた。一翔は「うわ、めっちゃ話しかけてくる…」と内心焦りつつ、適当に相槌を打つ。
「で、でもさ、英田って数学得意なんだろ? 今回のテスト、90点くらい取ってたじゃん。すげえな」
一翔が何気なく言うと、すずの目がキラッと光った。
「え、新原くん、数学のテスト見てたの? ふふ、90点、褒めてくれる? 私、数学は得意なんだよね! 特に代数! 方程式とか、解いてるとパズルみたいで楽しいの!」
彼女の声が急に弾む。さっきまでの落ち込みっぷりが嘘みたいだ。
「へえ…俺、数学めっちゃ苦手なんだよな。今日のテスト、38点だったし…」
一翔がボソッと呟くと、すずが身を乗り出してきた。
「え、38点!? それ、結構ヤバいね! 新原くん、理系志望って聞いてたけど、大丈夫!?」
「うるせえよ! 理系だって数学できなくても…いや、できなきゃダメか…」
一翔は頭をかきながらため息をつく。すずはクスクス笑いながら、急に真剣な顔になった。
「ねえ、新原くん。提案があるんだけど」
「ん? なんだ?」
「私、英語教えてもらいたい。新原くん、英語得意でしょ? テスト、いつも90点以上じゃん。で、私が数学教えるよ! お互い苦手な科目、補い合わない?」
一翔は一瞬、言葉に詰まった。
「え、俺が英田に英語教える? いや、でも…」
「でも、なに? 私、可愛いからって甘く見ないでよ! ちゃんと教えるから!」
すずがニコッと笑うと、一翔の心臓が少しドキッとした。確かに、すずの笑顔は反則級に可愛い。だが、それ以上に彼女の提案は魅力的だった。数学の赤点を脱却できるかもしれない。
「…まぁ、いいか。じゃあ、やってみる?」
「やった! じゃあ、今日からよろしくね、先生!」
すずが手を差し出し、一翔は少し照れながら握手した。
翌日から、一翔とすずの「相互補完勉強会」が始まった。場所は図書室の隅っこ。放課後の静かな空間で、二人は参考書を広げ、互いの苦手科目に挑む。
「じゃあ、まず英語から。ほら、この文法問題やってみて」
一翔がプリントを渡すと、すずは「うっ、英文見るだけで頭痛い…」と呻きながらペンを握る。
「ほら、動詞の活用からだ。過去分詞とか、ちゃんと覚えないとダメだぞ」
「うー、過去分詞って何!? 過去形と何が違うの!?」
すずが頭を抱える姿に、一翔は思わず笑ってしまう。
「まぁ、落ち着けよ。ほら、例えばこの文、動詞を過去分詞に変えると…」
一翔が丁寧に説明を始めると、すずは目をキラキラさせながら聞いている。
「へえ、新原くん、教えるの上手いじゃん! なんか、ちょっと分かってきたかも!」
「そうか? なら、さっきの問題、もう一回やってみろよ」
すずがペンを走らせ、なんとか正解を導き出すと、「やったー!」と小さなガッツポーズ。 次は一翔の番だ。すずが用意したのは、因数分解のプリント。
「ほら、新原くん、これ簡単だから! 因数分解、こうやって考えるんだよ。まず、共通項を見つけて…」
すずの説明は、まるで魔法のようだった。複雑な式が、彼女の手にかかるとスッキリ解けていく。一翔は「すげえ…」と感嘆しつつ、問題に挑戦するが…。
「うわ、間違えた! なんでこうなるんだよ!?」
「ふふ、焦らない焦らない! ほら、ここで符号ミスってるよ。もう一回、ゆっくりやってみて」
すずが一翔の答案を覗き込みながら、優しく指摘する。彼女の髪がふわっと一翔の肩に触れ、一瞬、ドキッとする。
「…お、お前、近いな」
「え? あ、ごめん! つい夢中になっちゃって!」
すずがパッと離れると、顔が少し赤くなっていた。一翔もなんだか気まずくなり、二人とも黙々と問題を解き始める。
数日後、勉強会は順調に進んでいた。すずの英語の点数は少しずつ上がり、一翔の数学も赤点スレスレから50点台に突入。だが、ある日、事件が起こる。
「新原くん、ちょっと見て! この英文、訳してみたんだけど、合ってるかな?」
すずが差し出したノートには、英文とその訳が書かれていた。
「『I have a crush on you』…え、私、この訳、自信ないんだけど…『あなたに片思いしてる』とか『あなたのことが好きだ』でいいよね?」
一翔はノートを見て固まった。
「え、な、なんでこんな文選んだんだよ!?」
「え、だって、教科書に載ってたんだもん! ほら、恋愛系の表現って覚えやすいかなって!」
すずは無邪気に笑うが、一翔の心臓はバクバクだ。
「いや、でも…その、う、合ってるよ。訳、合ってる」
「やった! じゃあ、新原くん、この文、私に言ってみてよ! 発音練習!」
「は!? いや、絶対嫌だ!」
「えー、ケチ! ほら、言ってみなよ! I have a crush on you!」
すずがニヤニヤしながら一翔を煽る。一翔は顔を真っ赤にしながら、「う、うるせえ! 次、数学やるぞ!」と話題を逸らした。
勉強会を始めて数ヶ月。二人の成績は着実に上がっていた。すずの英語は20点台後半まで伸び、一翔の数学も60点台に突入。だが、それ以上に、二人の距離は縮まっていた。
「新原くん、さ。勉強会、楽しいよね」
ある日、すずがポツリと言う。一翔は少し驚きながら、「まぁ、悪くねえよ」と答える。
「私さ、新原くんと話すの、結構好きかも。なんか、落ち着くんだよね」
「…お、お前、急に何だよ。恥ずかしいこと言うなよ」
一翔は照れ隠しに笑うが、内心はドキドキが止まらない。
その夜、一翔はベッドで天井を見つめながら考える。
「英田すず、か…。確かに、可愛いよな。あの笑顔、反則だろ…」
一方、すずも自分の部屋で、ノートに書いた「I have a crush on you」を眺めながら、頬を赤らめていた。
すっかり放課後のルーティンになっていた「相互補完勉強会」。
図書室の隅っこ、窓際のいつもの席。二人は参考書を広げ、互いの苦手科目に挑む日々を送っていた。すずの英語は30点台に突入し、一翔の数学も70点近くまで伸びてきた。成績の向上もさることながら、二人の会話は勉強以外の話題にも広がりつつあった。「ねえ、新原くん。地学ってさ、なんでそんなに好きなの? 岩とか火山とか、ぶっちゃけ地味じゃない?」
すずがペンをクルクル回しながら、ニヤニヤと一翔をからかう。
「地味とか言うなよ! 火山なんてめっちゃロマンあるだろ! 地球の鼓動を感じるんだよ、マグマがドクドク動くの!」
一翔が熱く語り始めると、すずはクスクス笑いながら「はいはい、ロマンチスト」と茶化す。だが、彼女の目にはどこか感心したような光が宿っていた。
そんなある日…
「新原くん、この英文、読んでみてよ。発音、自信ないんだよね」
すずが差し出したのは、英語の教科書の恋愛詩の一節。
「え、詩!? めっちゃハードル高いじゃん…」
一翔は渋々ページをめくり、英文を読み始めた。
「My heart beats for you, like waves on the shore…」
一翔の少し低めの声で、詩が静かな図書室に響く。すずはジッと聞き入り、頬がほんのりピンクに染まる。
「うわ、新原くん、発音めっちゃいいね! なんか、ドキッとした!」
「は!? ドキッとすんなよ! ただ読んだだけだろ!」
一翔は顔を真っ赤にして叫ぶが、声が少し大きすぎた。
「しーっ! 静かに!」
司書の先生が鋭い視線を飛ばしてくる。二人は「すみませんでした!」と頭を下げ、顔を見合わせてクスクス笑った。
期末テストが近づいてきた時期、二人の関係はさらに深まっていた。すずは英語の長編問題を解けるようになり、一翔は数字をみてもアレルギーを起こさないまでに成長。
が、順調に見えた勉強会に、初めての暗雲が漂い始める。 ある日、すずが少し元気のない顔で図書室に現れた。
「英田、どうした? なんか、暗いぞ」
一翔が心配そうに聞くと、すずは小さくため息をつく。
「うーん、なんかさ、歴史の授業でグループ発表の課題出てさ。私、英語の資料読まなきゃいけなくて…。もう、頭パンクしそう」
「英語の資料なら、俺が手伝うよ。どんなの?」
一翔が気軽に言うと、すずの表情がさらに曇る。
「ううん、いいよ。新原くんにばっかり頼るの、なんか悪い気がするし…。私、文系だし、歴史は自分で頑張らないと」
「は? 何だよそれ。勉強会やってるんだから、頼ってくれよ」
一翔は少しムッとしながら言うが、すずは首を振る。
「新原くんは理系で忙しいでしょ? 数学の勉強も大変なのに、私の英語ばっかり気にしてたら、夢の理系進学、遠のいちゃうよ」 その言葉に、一翔はカチンときてしまった。
「何だよ、俺が理系志望だからって、バカにしてんのか? 俺だって、ちゃんと数学やってるよ!」
「バカになんてしてないよ! ただ、私、新原くんに迷惑かけたくないだけ!」
すずの声も少し高くなる。図書室の空気がピリつく中、二人は互いに目を逸らし、黙り込んでしまった。 その後、勉強会はぎこちない雰囲気で終了。すずは「今日はもう帰るね」と早々に荷物をまとめ、一翔も「…ああ」と素っ気なく答えた。 家に帰った一翔は、ベッドに寝転がりながら後悔していた。
「くそっ、なんであんな言い方したんだよ…。英田、落ち込んでたのに…」
一方、すずも自分の部屋で、歴史の資料を眺めながらモヤモヤしていた。
「新原くん、怒っちゃったかな…。でも、私だって、ちゃんと自分で頑張りたいだけなのに…」
期末テスト当日。一翔は数学のテストに挑むが、頭の中はすずとのことでいっぱいだった。
問題を解きながら、ついすずの笑顔を思い出してしまう。結果、数学のテストはいつもより手応えが悪く、自己採点で60点台ギリギリ。 一方、すずの英語のテストも散々だった。歴史の課題に追われ、英語の勉強が疎かになっていたのだ。
「ううっ、せっかく新原くんに教えてもらったのに…。やっぱり、私、英語向いてないのかな…」
テスト終了後、すずは教室で項垂れていた。 放課後、一翔は意を決してすずに話しかける。
「英田、ちょっといいか?」
「…新原くん? う、うん、なに?」
すずが少し警戒した目で見上げる。一翔は少し照れながら、頭をかいた。
「その、昨日、なんかキツい言い方して悪かったな。俺、英田が迷惑とか全然思ってねえよ。むしろ、勉強会、楽しいし」
すずの目が少し潤む。
「…新原くん、私も、ごめん。なんか、意地張っちゃって…。私、新原くんに教えてもらうの、ほんと助かってるんだよ」
二人は少し気まずそうに笑い合い、和解の握手を交わした。 「で、期末、どうだった?」
一翔が聞くと、すずは「うう、英語、死んだ…」と頭を抱える。
「マジか。俺も数学、微妙だったわ。…なあ、英田。次のテスト、もっと本気で一緒に勉強しない?」
「うん! 絶対、赤点脱出しようね!」
すずがニコッと笑うと、一翔の心臓がまたドキッとした。
期末テストの結果は、二人にとって微妙なものだった。一翔の数学は62点、すずの英語は38点。赤点は免れたものの、目標には程遠い。冬休みに入る前、図書室で二人は顔を突き合わせて作戦会議を開いた。
「このままじゃ、俺、理系の夢が…」
一翔がため息をつくと、すずがグイッと身を乗り出す。
「ダメダメ! 新原くん、弱気になってる場合じゃないよ! 冬休み、ガッツリ勉強しよう! 合宿みたいにさ!」
「合宿!? いや、どこでだよ。図書室、冬休みは閉まるぞ」
「んー、じゃあ、うちに来る? 私の家、親が年末まで仕事でいないし、広めの勉強部屋あるよ!」
すずの提案に、一翔の頭が一瞬フリーズした。
「え、お前んち!? いや、さすがに…」
「何? 新原くん、変なこと考えてる? ふふ、勉強だよ、勉強!」
すずがニヤッと笑うと、一翔は「バ、バカ! そんなん考えてねえよ!」と真っ赤になって否定。こうして、二人の「冬休み勉強合宿」が決定した。
すずの家は、駅から少し離れた静かな住宅街にある一軒家だった。リビングに通された一翔は、ソファに座りながらキョロキョロと部屋を見回す。
「へえ、英田んち、めっちゃ綺麗だな。なんか、おしゃれなカフェみたい」
「でしょ? ママがインテリア好きだからさ! ほら、勉強部屋こっち!」
すずが一翔を二階の勉強部屋に案内する。そこには大きな机と、壁一面の本棚が並んでいた。歴史の参考書や数学の分厚い問題集がずらりと並ぶ中、なぜか英語の単語帳だけが新品同様にピカピカだった。
「英田、お前、英語の勉強サボってた証拠じゃん、これ」
一翔が単語帳を手にニヤニヤすると、すずが「うっ、うるさい!」と取り返す。 勉強合宿初日は、順調に進んだ。すずは一翔に英文法のコツを叩き込まれ、一翔はすずに因数分解と二次関数のグラフを徹底的に教わる。だが、問題は昼休憩の時間に起きた。
「新原くん、お昼どうする? 私、料理得意だから何か作るよ!」
「マジ? じゃあ、お任せで!」
一翔が期待して待っていると、すずがキッチンから持ってきたのは…真っ黒に焦げたオムレツだった。
「え、うそ、なにこれ!?」
「ううっ、ちょっと火加減間違えただけだよ! 味は大丈夫…だと思う!」
すずが自信なさげに言うが、一翔は恐る恐る一口食べる。
「…英田、これ、炭の味しかしねえ」
「ひどい! 新原くんのバカ!」
すずが膨れるが、一翔は笑いながら「よし、俺が何か作るよ。簡単なのならできる」とキッチンに立つ。結果、一翔が作ったのは、意外にもふわふわのスクランブルエッグ。
「うわ、新原くん、めっちゃ美味しい! 料理できる男、ポイント高いね!」
「ふん、こんなの簡単だよ」
一翔は照れ隠しにそっぽを向くが、すずの笑顔に心がチクッと温かくなる。
冬休みも中盤に差し掛かったある日、勉強合宿の帰り道に雪が降り始めた。
「うわ、雪! 新原くん、雪だよ! やば、めっちゃロマンチック!」
すずがはしゃいで雪を手に受け、一翔に投げつける。
「おい、冷てえ! やめろよ!」
一翔が反撃しようと雪を握ると、すずがキャッと逃げる。二人は公園で雪合戦を始め、笑い声が雪景色に響いた。
「新原くん、ほんと楽しそう! なんか、いつもよりイキイキしてる!」
「は? いつもだってイキイキしてるだろ!」
「うそ、いつもは数学で死にそうな顔してるもん!」
「うるせえ!」
二人は雪の中でじゃれ合い、息を切らしながらベンチに座った。 「ねえ、新原くん。さ」
すずが少し真剣な声で切り出す。一翔は「ん?」と彼女を見る。
「私、勉強会始めてから、ほんと変わったよ。英語、ちょっとだけ好きになったし…新原くんと一緒にいるの、めっちゃ楽しい」
「…お、おう。俺も、数学ちょっとマシになったし…英田と勉強するの、悪くねえよ」
一翔は照れながら答える。すずは雪を眺めながら、ポツリと呟く。
一翔が慌てると、すずは「ふふ、忘れるわけないじゃん!」と笑う。雪が二人の間に静かに降り積もり、まるで時間が止まったようだった。
「…英田、俺もさ。お前と一緒にいると、なんか、ドキドキすんだよ」
一翔が勇気を振り絞って言うと、すずの顔がポッと赤くなる。
「え、うそ、新原くん、なにそれ! 急に! ずるいよ!」
「ずるいのはお前だろ! いっつも笑顔で俺を惑わすんだから!」
二人は顔を真っ赤にして笑い合い、雪の中で手を繋いだ。冷たい雪とは裏腹に、心はポカポカだった。
冬休みが終わり、新学期が始まった。二人の関係は、勉強仲間から「なんかいい感じ」に進化していた。バレンタインデーが近づく中、すずはそわそわしていた。
「新原くん、チョコ、好き?」
ある日の勉強会で、すずが何気なく聞く。一翔は「ん? まあ、嫌いじゃねえよ」と答えるが、内心は「まさか、義理チョコ!?」と期待と不安でドキドキ。 バレンタインデー当日、すずは手作りのチョコクッキーを一翔に渡した。
「新原くん、これ、食べて! めっちゃ頑張って作ったんだから!」
「うお、マジか! サンキュー、英田!」
一翔がクッキーを一口食べると…。
「…英田、これ、塩と砂糖間違えただろ?」
「え!? うそ、ほんと!? やだ、間違えた!?」
すずがパニックになるが、一翔は笑いながら「まあ、英田らしいな」と全部食べた。
「新原くん、ほんと優しいね…。大好きだよ」
すずが小さな声で言うと、一翔は「うお、急に何!?」と顔を真っ赤に。
「ふふ、冗談! …でも、半分本気かも?」
すずのウインクに、一翔は心臓が爆発しそうだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんな関係が早2年続き新原達は3年生に。勉強会は相変わらず続き、定期テストで一翔の数学は80点台、すずの英語は70点台まで伸びていた。とても成長しているとはいえ、大学入試という大きな壁が目前に迫る中、二人はこれまでにないプレッシャーを感じていた。
1月。共通テスト直前の冬休み。二人は地元の公民館を借りて、ラストスパートの勉強会を開いていた。机の上には参考書と過去問が山積みで、ホットココアのマグカップがほのかに湯気を立てる。
「新原くん、この英文、長すぎ! こんなの読めないよ~!」
すずが頭を抱えて叫ぶ。彼女が手に持つのは、共通テストの英語長文問題。
「落ち着け、英田。ほら、主語と動詞を追えばいいんだよ。まずここ、接続詞に注目して…」
一翔がマーカーを手に解説を始めると、すずは「うう、新原くん、ほんと頼りになる…!」と目をキラキラさせる。だが、すぐにニヤッと笑う。
「でもさ、新原くん、数学の過去問、さっき間違えてたよね? あの微分、めっちゃ基本なのに!」
「うっ、うるせえ! あれはケアレスミスだ!」
一翔がムキになると、すずが「ふふ、かわいい」と呟き、一翔は「かわいいって言うな!」と顔を真っ赤に。公民館の静寂が、二人の笑い声で破られた。
そんな中、すずが急に真剣な顔になる。
「ねえ、新原くん。さ。私、第一志望の大学、絶対受かりたいんだ。歴史学のゼミ、めっちゃ面白そうで…。でも、英語が足引っ張るかもしれない」
一翔はすずの不安げな表情を見て、グッと拳を握る。
「英田、お前なら絶対いける。俺が英語、みっちり教えてやるから。で、俺も…数学、頑張るよ。理系の夢、諦めねえ」
「うん! じゃあ、約束ね! 二人で絶対合格!」
すずがピンクの小指を差し出す。一翔は少し照れながら小指を絡め、「お、おう」と頷いた。
-------------共通テスト当日-------------
朝の冷たい空気の中、一翔とすずは試験会場の前で待ち合わせていた。すずはマフラーをグルグル巻き、緊張でガチガチだ。
「新原くん、なんかお腹痛い…。緊張しすぎて死にそう…」
「バカ、死ぬなよ! ほら、深呼吸しろ。英語は今までやってきたこと出せばいいだけだ」
一翔が励ますと、すずは「うん…新原くんが言うなら、頑張れる!」と小さくガッツポーズ。 だが、試験開始直前、すずが大慌てで叫んだ。
「やばい! 新原くん、シャーペンの芯、全部折れてる! どうしよう!」
「は!? お前、予備持ってこなかったのか!?」
一翔が自分の筆箱からシャーペンの芯を渡そうとすると、すずが「待って、新原くんのシャーペン、貸して! なんか、新原くんの使ったら運気上がりそう!」と無茶苦茶なことを言う。
「何だよそれ! まあ、いいけど…ほら、使えよ」
一翔がシャーペンを渡すと、すずは「ありがと! これで絶対合格!」とニコッと笑う。その笑顔に、一翔の心臓がまたドキッとした。
テストは波乱万丈だった。一翔は数学で予想外の難問に苦しみ、すずは英語のリスニングで「何!? このネイティブ、早口すぎ!」と心の中で叫んだ。それでも、二人は互いを信じて問題を解き進めた。
共通テストの結果は、一翔が数学で150点、英語で184点、すずが数学で124点、英語で166点。二人とも他の教科はまずまずの成績。そして、第一志望の大学の二次試験に進めるラインをクリアしていた。
二次試験に向け、二人はさらに勉強に励んだ。一翔は理系学部を目指し、物理と数学の応用問題に挑む。すずは文系学部向けに、歴史の論述と英語のエッセイを練習。勉強会は夜遅くまで続き、時にはオンラインで互いの答案をチェックし合った。 ある夜、ビデオ通話での勉強会中、すずがボソッと呟く。
「新原くん、さ。もし、二人とも大学受かったら…デート、する?」
一翔の画面が一瞬フリーズした(心も)。
「で、デート!? 急に何だよ! まあ…いいけど?」
「ふふ、やった! じゃあ、合格したら約束ね!」
すずのウインクに、一翔は「ずるいぞ、英田!」と叫びながら、モチベーションが爆上がりした。
3月、合格発表の日。一翔とすずは、大学のウェブサイトを前に、公民館で一緒にパソコンを開いた。
「新原くん、怖い…私、先に見れないよ…!」
すずが目をぎゅっと閉じる。一翔は「よし、俺が先に見る!」と自分の受験番号をチェック。
「…あった! 俺、受かってる! 理学部、合格!」
「やった! 新原くん、すごい! じゃ、じゃあ、私も…!」
すずが震える手で自分の受験番号を入力。画面に「合格」の文字が映し出されると、彼女は「うそ! マジ!? やったー!」と飛び上がった。
「英田、すげえ! 文学部、合格じゃん!」
二人は抱き合い(いや、ハイタッチの勢いでちょっとだけハグ)、喜びを爆発させた。 その夜、桜の咲く公園で二人は合格祝いをした。すずが持ってきたのは、なぜかまた塩味のクッキー。
「英田、これ、また砂糖と塩間違えただろ…」
「う、うそ! やだ、ごめん! でも、愛情たっぷりだから!」
「愛情!? お、お前、急に何!?」
一翔が真っ赤になると、すずは笑いながら手を握る。
「新原くん、大好きだよ。大学でも、一緒に勉強会、続けようね」
「…お、俺も、英田のこと…大好きだ。絶対、続けようぜ」
桜の花びらが舞う中、二人は照れながらも笑い合い、未来への一歩を踏み出した。
ここまで見てくれてありがとうございした!




