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何ももらえずに異世界に飛ばされたので何かやることないですか、なんてそんなぁ。  作者: 秋野PONO(ぽの)
第四章 黒い夜へ続く道

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第47話 地下室の秘密

 次の日、朝早くにレヴィルはすでに食堂にいたため、悠は資料を返して礼を言った。

「ありがとうございました。お返しします。全部あるかどうか確かめてください」

 レヴィルはにっこり笑うとその場で確認し、頷いた。

「はい、確かに。ところで、悠さん」

「は、はい」


「何がどうわかりましたか?なんて無粋なことは言いませんので安心してください。その代わり、少しだけ、顔をこちらに向けてくれます?」

 いぶかしがる悠には気を向けず、レヴィルはじっと目を細めて悠の顔に見入っている。今日の彼は眼鏡をかけていないが、見えるのだろうか?


 長い間見つめ合っているのに悠が耐えられなくなってきたころ、レヴィルは顔をそらして窓の外を見る。

「雨が、降りそうな空模様ですね。悠さん、少し散歩でもしませんか。湿った空気はお肌に良いですよ」


 面食らった悠だが、資料を見せてもらったこともあり、また不思議な圧力のある言葉に負けて、外に出た。

 

※※

 

「あ、アリアカネですねぇ。これ根のところ粉にして睡眠薬になります。ドロムの花だ。綺麗ですけど食中植物ですよ♪」

 レヴィルの面白さの良く分からない解説に首を傾げながら中庭を歩く。

 雲行きが怪しくなってぽつぽつと降り始めている。しかしレヴィルは気にも留めない。

 やがて、サナニエルの住まう屋敷へたどり着いた。

 ピカピカの手入れの行き届いた屋敷である。光沢のある薄青い尖塔が二本端にそびえている。

 屋敷の周りはレンガの花壇で様々な植物が植えられており、目に楽しい様相だ。

 レヴィルは屋敷の入口には目も向けずに、尖塔のある方へ歩いていく。


 仕方なくついていく悠。


 やがて、尖塔の真下、建物の側面のあたりに来て、その足がピタッと止まる。

「悠さん。このお花、綺麗ですね。」

 指さしたところには何の変哲もない青い花が咲いている。

「?え、ええ。あぁ、この花です?まぁ、確かに綺麗ですね」


 訳が分からなくて戸惑う悠に、レヴィルは「ふむ?」と独り言を言って悠をジッと見つめている。

「何も見えません?」

何が……、訳が分からなくて返す言葉も出ない。

レヴィルはぶつぶつと独り言を言っているが、やがて悠の方に向くと、


「失礼」


 左手をつかんで彼女の指先を屋敷の壁に触れさせる。

「ちょっと……何を?!」

 言いかけて、悠は軽い眩暈に襲われたような感覚になる。……いや、眩暈ではなかった、屋敷の白い壁が揺らいでるのだ。陽炎のようにゆらゆらと。


 「なんでしょう……。何か……ここに」

「触れることがトリガーになるようですね」

 レヴィルは一瞬にこりと笑ったが、すぐに笑いを消した。表情が消えた彼は、見た目よりずっと年上のように見えた。

 ふと、彼の瞳には、熱というものが削げ落ちているのではないかととの思いに悠は駆られる。意図的に全ての感情を、消しているのだろうか。人間のように、おしゃべりする、人間ではない、何か。


 だが、すぐにレヴィルはその表情すら隠してしまう。人間のような温かみが戻ってくる。

 彼は真剣な表情で悠に向く。


「悠さん。お願いがあります。ここに地下?もしくは上階?への道があるはずです。私では力が足りません。あなたの力が必要なのです。ここを開いてもらえますか」

 面食らう悠だが、その言葉が嘘ではないことに気づいている。

 なぜだか、「分かる」のだ。

 目を閉じる。


 ジャイルーンの輝く笑顔が浮かぶ。なぜか資料に記されない魔の民の記録。私はこれを暴きたい?

 否、暴きたいのではなく、守りたい。


「ここ……。」

「はい。ここに必ずあります。サナニエル様とジャイルーン様を、お助けすることに、必ずなります。さあ、私を信じて」

 壁をジッと見つめる。「あれ?」とつぶやく。先ほどまで白い壁だったのに、今は黒い階段が見える。しかし、すりガラスを通したようにその輪郭があいまいだ。


「なんか……見づらくて……」

 悠が目を凝らし、もっと近づこうとしたそのとき。

 すりガラス越しの景色がゆがみ、その渦が悠の方に迫ってきた。


「きゃっ!」

 その瞬間、するりとレヴィルが悠の前に割り込み、渦は全て彼の背中に受けめられる。ごうっとつむじ風の様な音がする。

「残滓ですよ。おっと」


 レヴィルは悠の顔をみるや、自身の右手のひらで悠の両目を覆い、何事か聞き取れない言葉を呟いた。悠は、手のひらで覆われた目の奥が暖かく発熱するような不思議な感覚に、手を振り払うのも忘れて立ち尽くす。

 風の音がやまない。


 レヴィルは低く唸ると、悠の体をすっぽり抱き込むと先ほどの言葉の続きを空に向かって呟き続ける。

 レヴィルが、1分ほどもそうして何事かの言葉を呟き続け、最後の言葉を言い終えたとき、辺りは静かになっていた。

 抱き込まれた悠は呆然としていた。レヴィルの体からは古いインクのような濃い匂いがする。守ってくれているのだろうが、なんだか息苦しさを感じ、顔を少し背ける。

「もう大丈夫です。手を触れると、強すぎるのかもしれませんね」


 レヴィルが体を離したので、悠は素早く渦のあった方を見る。


 階段が、できていた。


「あれ以上強いと、階段も、吹き飛びそうでしたので少し抑えさせていただきました」

 レヴィルは「さあ、行きましょう」と当然のように悠の手を引いて階段に踏み込む。


 えー……、ここ……入らないとダメ……?

 悠はものすごく嫌な顔をするが、レヴィルにはさっぱり通じていないのだった。


 ※※

 階段の先は地下室だった。

 狭い、人間2人はいると息苦しくなりそうな狭い部屋。家具は木の本棚、机、椅子のみだった。

 レヴィルは嬉々として部屋を漁り、机の上の小さなノートを開き、何やら自分のメガネのグラスをノートのページに当てている。


「記録用です」

 不思議な光景に悠がよく見ようと目を凝らすと、ぽうっとノートが光りだす。

「待って待って……!説明しますから、物騒な目の力は使わないでっ……。これは、記録用の魔道具です。このグラスに当てると当てられた文字を全て記録します」


「あっ、ごめんなさい」

「いえいえ、発動が……制御出来ないのですね」

 レヴィルは一瞬優しい目をしたが、すぐに探索モードになるとノートの記録に精を出す。


 •••


 ややあって、全ての必要な記録を写し取ると、レヴィルは満足そうに頷くと部屋をあとにした。

 帰り際にペン立てに数本刺さっていた羽根ペンをさりげなく一本抜いて懐に収めたのを悠は目撃した。


※※

 帰り道。雨は、本格的に降り始めることなく、空は曇りを保っている。

 悠は誰にともなく呟いた。

「私の目、どうしちゃったんだろう。最近、夢で嫌な言葉ばかり、見る」

 ふと、レヴィルの背中を見ると、焼け焦げて炭のような塊が服にくっついていた。

「大丈夫ですか?」

 レヴィルが庇ってくれたのだろう。

「これくらい全然ですよ。あなたに怪我をさせたら、僕は生きて王都に帰れないかも……。だから、これくらいで済んでよかった」

 おどけた口調でレヴィルが、答える。

 湿った空気が2人の間に流れる。

 ふと、レヴィルが静かに口を開いた。


 「あなたの目は、時にあなたが望まないものを、たくさん映すでしょう」

 悠は、ハッとしてレヴィルの方を見た。


「しかし、忘れないでほしい。どんな時も、あなたの人生にはあなただけの意味がある。あなたを待っている「誰か」や「何か」がある。あなたにとっては、おそらく、厳しいと感じられるものでしょうね」

 レヴィルの口調には迷いがない。悠に言ったというより、空に向かって言葉を返しているような口調だ。


「しかしそれは……あなたにしか出来ない何かがある、という明確な合図です。進んだ先にしか、あなたの求めるものはない。頑張ってください。自分を見失わないで」


 彼は誰に向かってその言葉を言ったのだろう。悠は思う。私に?それとも、自分に?

 それはともかく、雨はこれ以上降らないようだ。

 なんとなく、悠は気分が軽くなるのを感じた。

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