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ぱち、ぱち、という古びた豆電球から

作者: はまごん

初めて“二人称小説”というものを書いて見ました。

 ぱち、ぱち、という古びた豆電球から発せられた音と共に、君は見知らぬ部屋で目を覚ますだろう。恐らくそこは、古びた狭い独房。そして、そこに設置された鉄製の、硬く、冷たい寝床の上で仰向けになっている君の視界の端に見えるのは、少し開いた状態の鉄格子製の扉と、その向こうで、頭を打たれた状態で血溜まりに沈む、顔の見えない死体だろう。

 訳のわからない状況に混乱しつつも、君は起き上がり、回らない頭で必死に状況整理を始める。今は何時だ、此処は何処だ……。そして気づくのだ、“記憶を失っている”と。

 

 “とにかく此処から出ないと”そう思った君は、震えで上手く動かない足を引っ張りながら、扉開けようとする。だが、死体に阻まれて、上手く開けることができない。だから君は、“どうにかしないと”、そう、自然に考えるはずだ。


 君は辺りを見渡し、そして気付くはずだ。死体の側に、血塗れのバールが一本と、この扉を開ける際に使用したであろう一本の鍵が、落ちていることに。


 既に開錠の済んだ鍵は必要ない、そう考えた君は、バールだけを鉄格子の隙間からなんとか拾い、それを扉の隙間に思い切り差し込み、それをなんとかこじ開ける。

 震えの止まらない両脚で、どうにかそこを抜け出した君は、急いでこの空間から脱出したいと考えるだろう。


 少しだけの平静を取り戻した君は、状況整理のために左右を見渡し、脱出するための計画を立てようと試みる。しかし、見渡す限り続いていく、直線の廊下、独房、細長い蛍光灯、果てしない無音と少し黄色がかった無機質な壁の連続体を目の当たりにして、君はさらに混乱してしまうだろう。だが、走らなければいけない。なんとなくそう感じた君は、床に転がった死体を跨ぎ、走る。走る。走る。


 何処まで行っても同じ景色、同じ光量、同じ匂い、永遠の静寂に包まれた、ただひたすらに何の変化もない一直線を走り続ける君は挫折しかけてしまう。しかし、そんな時君の前に現れたのは、今までとは全く違う一室。何故か鉄の壁が鉄格子に貼られた黒塗りの、異質な独房。

 普遍で気の狂いそうな廊下を延々と見てきた君は、こう思うだろう。“入らなければ”と。少し下を見れば、鍵のかかったその部屋の横に、壁を破り、鉄格子をこじ開けたような跡の残った、君一人が入れるような隙間が開いている事が分かるはずだ。


 四つん這いになりながらそこに入った君は、その部屋の床にぽつんと置いてある、数枚の薄い原稿用紙を見つけるだろう。この場所の唯一の手がかりだ——。そう考えた君は、それを読み始める。


『ぱち、ぱち、という古びた豆電球から発せられた音と共に、君は目を覚ますだろう。貴方がいるのは、見知らぬ独房。君は鉄製の硬く冷たい寝床の上で横になっており、視界の端には、少し開いた状態の鉄格子製の扉と、その向こうに…………』


 この文章を読んだ君は、戦慄するだろう。此処に書いてある文章は、君が目覚めてから起こした行動と完全に一致しているからだ。そして、この続きを読まないままに脂汗を全身に滲ませながら、原稿とバールを握りしめ、入ってきた鉄格子の隙間を通り、先ほど走った道を引き返していくだろう。


 走る、走る、走る。


 その先で君が見たのは、最初と同じ光景。しかし、少しだけ違和感があるはずだ。何故か、死体が消えているのだ。君はその違和感に、気付くかもしれないし、気付かないかもしれない。だが、君には一つのやることがあるはずだ。この現象を終わらせるために、これ以上事態を悪化させないために。


 君は鉄格子を開けて、その向こうで寝ている自分を、持っているバールで殴り殺そうとするだろう。しかし、なかなか開けることができない。何故か、鍵がかかっているのだ。その時、君は血溜まりに浮かんでいた鍵の存在を思い出すだろう。

 既に死体なき血溜まりを確認すると、そこにあったのは、一本の鍵と、謎の原稿用紙。慌てて鍵を拾った君は一瞬、目にするだろう。その原稿用紙に書いてある文字を。


『逃げろ』


 拙い血文字で書かれたそれを、君は一瞬視線で追おうとするが、それをすぐに取りやめ、目の前の目標に集中しようとするだろう。

 今はそうするべきじゃない。この場所に、逃げ場なんてないんだ。そう確信した君は、震える手で鍵を鉄格子に差し込み、回し、抜き、地面に捨てる。そして、バールを持っていない方の手で扉を開けた瞬間、君は二発の銃声と共に酷い激痛を感じるだろう。最後に見えたのは、謎の黄色い防護服を着た、顔の見えない二人の人物。


 頭と腹を打たれた君は、意識を失う直前、原稿を持った手で腹を押さえながら倒れ込む。鉄格子に頭をぶつけながら、鼻先が地面に接触した瞬間、君は意識を完全に失い、地面に浮かぶ血溜まりに沈んでいくだろう。


 傍にバールと鍵を、腹の下に謎の原稿を挟んだまま。


 その原稿は、恐らく計六枚であるはずだ。そのうち一枚は、血文字で『逃げろ』と書かれた裏紙の原稿。そして、残りの五枚には、いつかの君が辿った全ての出来事が、最初からこう綴られているだろう。


 * * *


 ぱち、ぱち、という古びた豆電球から発せられた音と共に、君は目を覚ますだろう。君がいるのは、見知らぬ独房。君は鉄製の硬く冷たい寝床の上で横に


〈永〉

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