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復讐は暴露本で

作者: 涙乃

ジャンル不明のためその他にしています

以前公開していたものを多少改稿したものです


「なんだとっ!

文句があるなら同じくらい稼いでから言え!」




激しい怒声と共に床にお皿が散らばる。


あぁ、まただ。


癇癪を起こし、物を投げるのは日常茶飯事。


すぐに激昂するこの男性は、一応私の夫だ。


反論しても無駄なので、ひたすら俯いて黙っている。


「さっさと片付けろ!

こんなもの食べれるかっ」


夫は、激しく足音をたてながら部屋を出ていく。


一体何を怒っているのかというと、本日の料理のメニューが気に入らないから。


幼い子供でもこんなわがままは言わないと思う。


夫は好き嫌いが激しい。

本日、私はスープにカボチャを入れて、パンプキンスープを提供した。


私はカボチャが大好きだからだ。 


今までは夫が嫌いだから、別の鍋で作ったりしていた。が、はっきり言って手間がかかるし、面倒だ。


夫の器には、なるべくかぼちゃを入れずに注いだのだけど。

スープを一口飲んで、カボチャの味がすると先程の展開だ…。


ほんの少ししかカボチャはいれておらず、私が食べたかったからだと伝えるも、私の発言は全て文句とみなされる。


文句があるなら、同じくらい稼いでこいと。


もったいない……。

色々なものを粗末にして。


だいたい同じくらい稼いでこいって、そんなにあなたは偉いのか。


私達夫婦は、いわゆる政略結婚だ。


それなりに裕福な商家に生まれた私は、本来なら結婚せずとも家の手伝いで暮らしていけた。


だが、男爵家と父との間で何か取り決めがあったらしい。本来なら貴族でもない私が嫁ぐことなど考えられない。


おそらく、生前父が多額の援助をしたのだと思う。

父は私の身を案じて、結婚の話を取り決めたのではないかと思う。



父が亡くなったので、詳細は不明だ。

結婚の話は、有耶無耶になるかと期待していた。


けれど、そんな私の期待を打ち砕くように男爵家から迎えがきてしまった。


商売は母が切り盛りしている。

母に心配をかけたくないので、私はひたすら大人しく耐えている。


夫は、一応貴族のはしくれ。

家へ何かしらの迷惑をかけることになるかもしれない。

何をするか分からないから。


だから、私が我慢すれば丸く収まる。


夫は私に対してだけでなく、誰に対してもあのような態度なので、使用人達は耐えきれずに皆出て行った。

恐らく使用人達は結託して、私に押し付けたに違いない。


迎えに来た方も、この邸に着いた時にお会いした方々も、皆一様に「どうか、ご容赦ください!」と到着早々に何度も私に頭を下げていた。


その時は、何の謝罪を受けているのか分からなかった。


次の日に、その謝罪の意味を知ることになった。


だって、邸には誰もいなくなっていたから。


おかげで来て早々に、邸の管理を全て任され、掃除、洗濯、料理やら全ての雑用をこなしていて、疲れてまともな思考回路ではなくなった。



管理を任されるとは言っても、金銭面以外だ。


必要分金銭を受け取り、領収書を必ず渡さなければならない。


まぁ、贅沢を好んでしたいわけではないので別に構わない。


ただ、外出には制限がつく。


基本的に食材の調達、必要品購入時以外は許可がでない。 

それも時間制限つきだ。 


実家に逃げ込むことも考えたが、夫は、怒ると何をするか分からない。


恐怖で、半分言いなりになっている。



「ミーナ」



夫が呼んでいる。

そんなに広い邸ではないので、呼ばれてから時間がかかると、また怒られる。


私は重い足をなんとか動かして、夫の部屋へと向かった。


『はぁ…』


行きたくない……


でも行かないという選択肢ない。


必然的にため息が漏れる


早く行かなければ。

『お呼びでしょうか。旦那様』


扉越しに声をかけて室内へと入る。


「遅い!! ここまで何分かかっている⁉︎」


『5分もかかっていないと思いますが……」


「次は3分で来い!いや2分30秒もあればお前のトロイ足でも辿り着くだろ! モタモタするな!」


そこまで時間制限を設けるなら、自分が会いに来ればいいのに。


「服を脱げ」


またか…


「なんだその態度は?そんな態度をとるなら、

浮気をして二度と帰ってこないぞ! 私に見捨てられたら、お前一人で生きていけると思っているのか?」


どうぞ、と言葉に出かかったのをぐっとこらえる。

以前言った時には、殴られたからだ。

無言を貫くに限る。


強引にベッドに押し倒され、乱暴に脱がされる。


触らないで!気持ち悪い!


これくらい耐えなければ……


相反する感情で胸が締め付けられる


苦しい


唇を噛み締めすぎて、口内に鉄の味がする。



「夫婦の営みは義務だからな」


まさに獣のような目つきで、夫が覆い被さってくる



私は、ひたすらその時が早く過ぎ去るのを待った。

夜中に部屋に戻り、避妊薬を飲む。

夫と同じ空間にいるのが耐えられないので、少し離れた部屋を自分の部屋として使っている。  


ほんとは、もっと遠い部屋にしたいのだけど、呼ばれた時の移動時間を考慮してここにした。



「おまえを養ってるのは私だ。



お前は迷惑しかかけないのだな!


おまえとの結婚を周りは反対していた。それなのに私はおまえと結婚してやったのだ。


夫は、隙あれば執拗に自分を敬え!という発言をしてくる。


それと同時に、私がいかに駄目な人間で無能であるかを何度も言ってくる。



お前が! お前が! お前が!



夫の声が耳から離れない。


暴言は心を蝕んでいく。


なのに体は求めてくる。


私の気持ちを無視した夫婦の営みは耐えられない。


あんなのは拷問だ。


私は台所に行き、明日のパンを作ることにした。


気持ちが沈んでいる時は、無心になれることをすることにかぎる。


ひたすら生地をこねて、焼く。


そうしていると、余計なことは考えなくてすむ。


焼き立ては美味しそう。


少しだけ食べようかな。


おいしい。


あれ、なんか、しょっぱい?


やだ、私、泣いてる……、



声を押し殺すように、泣きながら食べていた。


過度のストレスで、自分の行動に抑制がきかない。



これ以上食べるのはよくない。


とりあえず、寝よう。


せめて夢の中だけは、楽しく過ごせますように。



翌朝、珍しく夫の姿が見えない。



台所に、メモが残されていた。


どうやら、早めに出勤したようだ。


ほっと安堵する。


昨夜焼いたパンを食べようと思い、カゴを覗いた。


「━━ない⁉︎」


二人で食べても余るくらい、充分な量は焼いたはずだけど。


まさかと思いとっさに

先程の書き置きのメモを引っ掴む。


『!』


-パンは職場へ持っていく-



「信じられない! 全部持って行ったの⁉︎」


夫はいつもこうだ。


例えば何かを二人分購入しても、自分一人で全部食べる。


今回のように量が多かったとしても、私のことは一切考えない。


思いやりというか価値観が違いすぎる…



私って何なんだろう……


夫もいないことだし、今なら外出してもバレない。今日は外で食べようかな。


私は食材を調達するときにいつも行くお店へと向かった。


お腹が空いていたので、少し休憩も兼ねて喫茶店に立ち寄った。


今日は時間制限も気にせずにのんびりできるかな。まさか邸に確認に戻ってきたりしないよね。


注文した商品を待っている間に、周囲の話し声が耳に入る。


立ち聴きはよくないのだけど。


「そのネックレス素敵ね」


「これ?旦那様のプレゼントなの」


「優しい旦那様ね~。この前も指輪をもらってたわよね?」




「あら、あなたの旦那様も素敵じゃない~」




プレゼント?

優しい

まるで別世界の話。


周囲の別の方達の話にも耳を傾けると、噂話やらお互いの家庭の話などだった。

皆、幸せそう。

それに、ほんっとに噂話好きだね。




楽しそうに話しているけど、詮索してる感じがする。 


皆、それぞれの家庭の話を聞きたがるものなのね。それなら、もしかして?


私なんかの話も聞いてくれるだろうか。


私は急いでお店を出て、実家へと向かった。


『お母様、お母様!」


「まぁミーナ。ミーナ?

もう、全く便りもくれないんだから!

元気にしてるの? 旦那様とは上手くいってる?」


母に抱きしめられて、思わず泣きそうになった。でも泣いては駄目。


『お母様!今は詳しく話せないけど、私の話をよく聞いて。』


私は必要な要件のみ伝えると、急いで邸へ帰った。


私は邸へ戻ると、急いで執筆に取り掛かった。

今まで言われた暴言の数々を、思いつくままに、正確に書いていった。


『出来た!』


気がつくと夕方になっていた。夫が戻るかもしれない。



ーコンコン-


窓を叩く音がする。

母の遣いの方だ。


「奥様に頼まれて来ました」


『ありがとう。これを印刷所に回して。出来るだけたくさん印刷して。後のことはお母様に』



「かしこまりました」


私は執筆した用紙を手渡した。

どうか、多くの人に届きますように!



これで準備は整った。

後は反応があるといいのだけど。



それからしばらくただ日々を過ごしていた。


そして、変化が訪れた。


「ミーナ!」


『お呼びでしょうか、旦那様』


「これは、いったいなんだ!

これに見覚えは!お前は何をしてくれたんだ!」



激昂した夫は本を机に投げつけて、私の胸ぐらを掴む。


『何とは?事実を記した本です』


「この本を書いたのはお前だな?名前をぼかしているが、読む者が読めば私のことだとわかるではないか!どうしてくれる!』

『私は事実を記したまでです。世間では家庭の話に興味のある方が多いようなので、ちょっとした情報を提供したまでです。あぁ、でも旦那様は困りますよね~?


私が今まで受けていた仕打ちは、世間の方はどう思うでしょうか。

数々の暴言、暴力。犯罪ですよね?」


「なんだとっ。」


激昂した旦那様に殴られてよろめいた。


「どの口がほざく。誰のおかげで暮らしていけてると思う!


文句があるなら同じくらい稼いでから言え」


『文句があるから同じくらい、いえそれ以上稼いできました!」


「はっ、笑わせる」


『旦那様は、役所勤めとはいえ、正規職員ではなくら見習いですよね?


正直そんなに稼いでいらっしゃらないのでは?


私はこの本を二種類に分けて大量に印刷しました。


冒頭部分のみの無料提供本と、全て読める販売本に。実家のお客様に冒頭部分だけを無償で提供したら、思いの外問い合わせが多くて。


私はお客様のご要望に応えたい一心で、

多くの本を届けさせていただきました。


反応は予想以上でした。



ですので、稼いだ分の文句は言わせていただきます!


旦那様は人として最低です!

尊敬できる部分が全くありません!

結婚をしてあげた?笑わせますね。


さっさと離婚してください!今までは実家へ手を出されると怖くて大人しくしてました。


このまま許されるとは思わないでくださいね?


旦那様曰く、私は駄目な人間のようですので』


「取り押さえろっ」


突然数人の衛兵が家に入ってきて、夫を拘束した。


「なんだっ!貴様らはっ」


「モーナス男爵、貴殿が奥方様に日常的に暴力を振るっていた疑いがあるので拘束する」


「なんだとっ。まさかこんな本を信じるのか。笑えるな。証拠は?」


「私は見ました」


皆が一斉に振り向くと、母の遣いの方が立っていた。


「私はミーナ様が殴られた所を目撃いたしました。」


「嘘だっ!」


「嘘ではありません。お嬢様と約束があり、私は隣の部屋で待機しておりました。言い争う声が聞こえて、不謹慎と思いましたが、そっと扉から様子を伺うと、ミーナ様が旦那様に殴られていました…」


「それはっ、今日が初めてだっ」


「モーナス男爵。認めるのだな?

例え初めてというその言葉が本当だったとしても、女性への暴力は重罪だ。

奥方様が証言をされないというのなら…」


『証言させて下さい!旦那様は私に暴力を振るっていました。』


私の身体検査をすれば、暴力を受けたことがわかるはずです


「連行しろ!」


「ミーナ。覚えていろっお前ごときが」


私は拘束された夫の耳元に顔を近づけた。


『旦那様、言葉には気をつけた方がよろしいですよ。私の証言一つで、旦那様の罪の重さが左右されるようですから。よくて鞭打ち、爵位剥奪、国外追放、もしくは…処刑…』


私は旦那様にだけ聞こえるように囁いた。


「処刑だと⁉︎いやだ、たのむ、ミーナ、許してくれ!いやだー!!」


暴れながら連行されていく夫を、冷めた目で見送った。


「ミーナ嬢、モーナス元男爵についてだが」


私は夫の取り調べの為、頻繁に証言に呼ばれた。

話の信憑性、証拠。


男爵とは言え貴族。扱いは慎重に。


私は、夫に死んで欲しいとは思っていない。

ただ、実家や私へ逆恨みされることを恐れていた。


なので、ひたすら、涙を浮かべて、

大人しく耐えていたアピールを貫いた。


本のことは、耐えれなくなって書いてしまった。人名を変えているので、特定されるとは思わなかった


と苦しい言い訳を貫いた。


「あなたの証言によっては、減刑の余地がありますが」


『私が望むのは、旦那様から開放されることです!


安心して暮らしていきたいです』


減刑の話が出る度に、暗に遠くにやって欲しいと仄かした。


夫は人の痛みが分からない方だと思う…と度々口にした。


そして、

思惑通り夫は、監視付きの国外の強制労働所送りとなった。

爵位は腹違いの弟に譲位された。


人の痛みを知る為に鞭打ち200回も執行された。




「やめてくれ!

やめてくれ!

私は悪くない。

あいつを養っていたんだ。」


休む時を与えられずに鞭打ちが行われた。

執行人の腕の負担がないように複数人によって。


元男爵は、話す気力もなくなって何度も気を失っていた。その都度、水をかけたりして意識を強制的に戻して、容赦なく鞭打ちが執行された。


その後、元男爵は労働所送りとなった。


二度とこの国へ戻ることは叶わないだろう。





やっと、夫から解放されて、自由になれたと思ったのも束の間。


私は、また囚われの生活を送っている。


ここは、塀に囲まれた収容所。


小さな窓には格子が嵌められている。


その窓から差し込むわずかな光だけが、私にとっては時間の指標だった。


因果応報とはよく言ったものだ……。



もしくは、人を呪わば穴二つか。


自分の状況に乾いた笑いすらでてこない。



どうしてこうなったのかと言うと、

━━そう、私に関する暴露本が出版されたのだ。


夫への復讐をするために出版したこと、


母にも協力を要請したことなど、赤裸々に書かれていたのだ。 


隠れて見ていた従業員からの証言も記載されていた。



本人の許可なく、その人を貶める内容のものを意図的に出版したとして、私は捕えられた。


貴族に対して許される行為ではないから。


例え暴力を受けていたのが事実としても、貴族の名誉を著しく傷つける行為は咎められる。



壁際に背を預けるようにして、蹲って窓から差し込む光をただ眺めている。


他にすることもないので、心がどんどんどす黒い感情に呑まれていくようだった。


それでも、あのままの結婚生活を続けることよりは百倍もましだ。


ただ、母を巻き込んでしまったことだけが、心残り。


「おい、お前に面会だ」


面会?


絶対に会いにこないでと母には伝えているのに……。


これ以上私と関わってはいけないから、絶縁するように伝えたのに。



コツンコツンコツンと、足音が近づいてくる。


気怠いのを我慢して顔を上げると、格子越しに見知らぬ紳士が佇んでいた。




「あぁ、戸惑った顔をしているね、義姉さん?」



「━━誰?」


「はっ!本当に何も知らないんだ?馬鹿な奴。

わかるように説明してあげようか?

平民の義姉さんが、どうして貴族と結婚することになったのか。


僕はね、父さんの━━前モーナス男爵の子じゃないんだ。


後妻に入る時には、僕は既に母さんのお腹の中にいたんだ。



たまたま母さんと義姉さんの父が同郷で、その事実を知っていてさ。 


しかもバラされたくなければ義姉さんを次期当主の嫁に迎えるようにと脅したりなんかするから。


父は世間体を気にして口止めできるならと、結婚を快諾したくせに、僕達親子は家から追い出された!義姉さんの父親が暴露したせいで!


まぁ、僕のことを除籍せずに亡くなった父も甘いよね。

もしかしたらと信じていたのかもね。



義兄は感情のままに体が動く馬鹿な奴だから、ざまぁみろと思ってたけどね。

まさか、義姉さんが、反撃してくるなんて思わなかったから。


でも、所詮は平民。中途半端な復讐で墓穴を掘ったね。



義兄を追放してくれたことは感謝してる。

馬鹿な義兄は何も知らないけどね。

おかげで爵位が転がり込んできたしね。



あのまた義兄さんに痛めつけられていたら、義姉さんを見逃してあげたのに。


僕は根に持つタイプなんだよ。




あぁ、まずはお互いの自己紹介から始めようか



「初めまして。僕はノア・モーナス。元義姉さん」



























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― 新着の感想 ―
ざまぁではないですね。主人公が報われず、後味が悪いとはいいませんがスッキリしない結末です
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