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空 Atmosphere  作者: 甲斐 雫


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7/16

7 研修終了日前夜

 ジーナの研修期間終了を翌日に控えた朝になった。

 結局3か月間、出来るだけ来ると言っていたハイマン氏は、仕事が立て込みずっと来日できず、やっと昨晩遅くに支局に来ることが出来た。せめて1日だけでも、博と相互研究を深めたかったのだ。

 定時のミーティング時間だけは何とか確保し、博は昨晩の成果を捜査官たちと共有する。


 犯罪集団『シラヌイ』の内部事情で、解ったことが幾つかあった。

 幹部と思われる人物が4名いるということ。いわゆるボスを含め5名がみな、30代後半の比較的若い年齢層であること。しかし、かなりの秘密主義であるらしく、構成員たちの前には姿を現さず、連絡は全てネット等で行っているということ。

 そして、少し前に1人のドローン技術者を迎え入れているということ。

  これが、支局としては一番知りたかったことだ。

 このドローン技術者に関して、まだまだ情報は必要である。支局は引き続き、多方面での捜査を続けることにする。


 ミーティングが終わると、捜査官たちは先ず日常業務に取り掛かり、博はハイマン教授とミーティングスペースで議論のまとめに取り掛かろうとした。

 そんな彼に、ジーナが少しだけ時間が欲しいと頼みに来る。博は少しだけなら、とリビングスペースに移動して彼女の話を聞くことにした。


 ソファーに座った博の前に立ち、ジーナは真剣な面持ちで、けれどどこか悲しそうに話し出した。

「博・・・3か月経ったけれど、心を変えて貰う事は出来なかったのね」

「ええ、申し訳ないですが僕はやはり、空ひと筋なんです。君はとても魅力的だと思いますが・・・すみません、と言うしかありません。A国に戻ったら、きっと君のお眼鏡にかなう人物に巡り合えると思います。ですから・・・」

 博の言葉を最後まで聞かず、ジーナはもう1度口を開いた。

「博、今晩・・・ワタシを抱いてください。すまないと思うなら、せめて思い出をちょうだい。それで、きっぱりと諦めるから」


 ジーナの言葉は、リビングスペースにいた他のメンバーにもよく聞こえた。

(ぅわ!やっぱそう来たか!)

(・・・う~~ん、やっぱりジーナねぇ)

(凄い・・・積極的)

(それを、ここで言うとは・・・)

 何と反応すれば良いやら全く分からず、頭に何も浮かばないのは空だけだ。


 けれど、博の方は断るのにとても都合が良い事情があった。

「今日は夕方から、教授と一緒に犯罪心理学研究所に行く予定なんです。やっと双方の都合がついて、夕方から会合を持てるようになりました。夕方から始めるので、終わるのが深夜になると思いますから、今晩は向こうの宿泊施設に泊まることになっています」

 ですから、君の希望を叶えることは不可能です、と博は穏やかに断る。ジーナとしては、諦めるより他はない。ため息をついて項垂れ、彼女はひと言だけ告げた。

「・・・・ありがとうございました」

 それは、何に対するお礼だったのだろう。3か月間、突き放すことはせず、嫌うような素振りどころか優しく話し相手になってくれたことに対してなのだろうか。ただの、研修に対するお礼の言葉だったのかもしれないけれど。

 少しして、ジーナはきっぱりと顔を上げた。何かを吹っ切ったような、何かを決意したような、そんな晴れ晴れとした笑顔にも見えた。

 そして、買い物に行きたいからと外出許可を貰い、ジーナは何事も無かったようにメインルームを出て行く。捜査官たちは、ホッとして胸をなでおろしていた。


 夕方になり、教授は1泊分の荷物と資料をまとめると、メンバーたちに丁寧な礼を言い、穏やかに別れの挨拶を告げる。そして博と共に支局を後にした。2人とも、明日の午前中に直接空港に向かう予定である。ジーナも同じ便で、帰国する予定だ。

 そして彼らが出て行った後、しばらくしてジーナも帰ってくる。大きな紙袋2つに、大量の酒を買い込んできていた。

「なに、それ・・・お土産?」

 機内持ち込みの制限をはるかに超えるその量に、小夜子が驚いて問いかける。

「これ?決まってるじゃない、今晩飲むのよ。失恋にはヤケ酒でしょ!」

 ジーナはケロリとして言うと空の眼の前に立ち、1本の酒をドカッと置いて真剣な面持ちで告げた。

「空っ!付き合って貰うわよ。貴女のせいで失恋したんだから、責任取りなさいよねっ!」

「ハ、ハイッ!」

 彼女の凄まじいほどの勢いに、思わずとても良い返事をして立ち上がってしまった空だった。


(あの量のヤケ酒かぁ・・・)

 ざっと見ただけで10本くらいはあったと思う。どれもかなり強そうな酒だった。

 真は流石に心配になるが、あの2人は相当アルコールに強い筈だったと思い直す。けれど明日の朝、2人が二日酔いになっていないよう、一応祈っておくことにした。


 軽く夕食を摂った後、2人はジーナの部屋で酒盛りを始めた。もう既に帰国の準備を終えているらしい室内は、殺風景なほど片付いている。そんな中で、研修中の出来事や、それぞれが今まで遭遇した事件の話などをしながら、時間が過ぎていった。


 数時間もたった頃、ジーナが大きなため息をついた。カラの酒瓶がテーブルの上に乱立している。

「お酒に酔えないって、こういう場合は何だか悔しいわよね。前に『酒に失礼だ』って言われたこともあったけど・・・」

「泥酔して嘔吐したり、他人に迷惑をかける方が、よほどお酒に失礼なのではないでしょうか。味わって、美味しいと思いながら飲めば、決して失礼にはあたらないかと」

 いつもの穏やかな笑みで、グラスを干してゆく空も、全く酔っていないようだ。

「そうよね~~その通りよ、でもヤケ酒でこれだと、何だか意味がないじゃない。ヨシ、もうこうなったら、秘蔵のお酒を出しちゃうわ。飲みかけだけど、持って帰ろうかと思うくらい気に入っちゃったのよ。でも、やっぱり荷物になるから、これも空けちゃいましょ」


 ジーナはそう言って、半分以上残っている日本酒を出してきた。そして、再び空の前に腰を下ろすと、妙に楽しそうな口調で話を振る。

「せめて、酔わないとできないような話をしましょ。お互い素面だけど、気分だけでもね」

 ジーナはそれぞれのグラスに、たっぷりと日本酒を注いで話を続けた。

「空は、彼に抱かれている時はどうしてるの?ホラ、あの感覚制御よ」

「・・・?必要はないと思うので、していません。そもそも感覚のコントロールを行うのは、任務中だけです」

 房事の事を聞かれているにもかかわらず、空はいつも通りの平然とした受け答えをする。

「あ、そうよね・・・うん、と言うことは彼とのsexでは、ちゃんと快感を感じているわけだ」

「・・・はぁ・・・まぁ、多分・・・そもそも、快感とはどういう感覚なのでしょう?」

「はぁ?・・・・言葉で表現できない事を聞くわねぇ。気持ち良ければ、快感でいいんじゃない」

 何やら妙に会話が弾まない、と言うか弾み方の方向が妙な感じだ。


 そして空は、真面目に考え込んでしまった。

 気持ちが良いと感じる時は確かにあると思う。けれど、それどころではないような、翻弄されて何が何だか分からない状況も多い。それらも含めて、全て快感でまとめて良いのだろうか。

「あぁ、もう・・・イイわ、それでも。それじゃ、彼以外の人に快感を与えられるのって、どう思う?」

「・・・解りません。そう言う機会はありませんでしたし」

 ふぅん、とジーナは考え始めた。

 そこにくらいしか、糸口は無いような気がする。彼女に、性的接触の怖さを感じさせるには。

 何しろ、レイプでも痴漢でも全て感覚をシャットダウンして感じないようにしているし、最悪の結果である妊娠や性病などにも恐怖を感じない空なのだから。


「・・・そう言うことが、怖いって解らせてあげようか?」

「・・・・・え?・・・どう・・いう」

 空の反応が、妙に鈍かった。ジーナはほぼカラになった日本酒の瓶を持ちあげて、にんまりと笑って見せた。

「少しの間、寝ててもらうだけよ。準備を整える間、ね」

 どうやら全ては、計画されていたことのようだ。

 大量の酒を用意して始めたヤケ酒パーティーからの流れで、途中で追加された日本酒には効果時間が短い睡眠薬が入っていた。封を切ってあったのも、それでなのだろう。自然で疑問の欠片も浮かばないような、見事なシナリオだった。


 ほんの10分くらいだったのだろう。空が目を開けると、衣服を全て脱がされ、後ろ手に縛られてベッドに転がされていた。腕を戒めているのは、その感触からタオルらしいと解るが、何故こうなっているのか空には全く理解が出来ない。

「・・・・ジーナ?・・・これは、いったい」

 どういうつもりなんですか、と言おうとしたところで、グイと身体を仰向けにされる。口の中に、何やらザラザラした感触があった。声は出るし、頭もはっきりしているが、手足がほとんど動かない。

「これ、催淫剤なんだけど特注でね、感覚を鋭敏にする成分が多く配合されているの。粘膜吸収だから、取り敢えずさっき口の中に塗らせてもらったわ。もう効いてくる頃だけど、感覚をコントロールする余裕も無いと思うわよ・・・ホラ」

 ジーナは小さな小瓶に入った白い粉を空に見せると、綺麗な指先を彼女の首筋から胸に向かって、ゆっくりと滑らせた。

「・・・・・っ・・・んっ・・・」

 ゾクゾクと走る痺れるような熱い感覚が、触れられたところから全身に波のように伝わってゆく。堪えきれずにくぐもった声を上げる空に、ジーナは瓶の中身を少量、掌に零して彼女に見せた。

「粘膜吸収だって言ったわよね。当然、女性の方が吸収がイイのよ」

 そしてジーナは、空の足の間にその粉を入れようと、彼女の力の入らない片足を持ち上げる。

「や、やめてくださいっ!ジーナっ・・・イヤです、やめてっ!」

 空の声を聞き流し、ジーナは指に取った粉を粘膜にたっぷりと塗り込んだ。

「空は、何でそう思うの?イヤよね?やめて欲しいわよね?・・・それは何故?」

「・・・・っ・・・ぁ・・・はぁ・・っ」

 既に吸収が始まっている感覚に、空は問いに答えるような余裕はなかった。ジーナは、追い打ちをかけるように、彼女の耳元に囁く。

「怖いのよね。今、与えられている快感は、愛する人からのものじゃないのよ。怖いでしょ?自分の身体がコントロール出来なくなって、自分じゃない自分になるのって怖いわよね。しかも、これは博にされていることじゃないのよ。心を許している相手じゃないの。今、アナタを快感で溺れさせようとしているのは誰?」

 ジーナは囁きながら、ハニートラップの仕事で培ってきた技術の全てを彼女の身体に与えた。


「・・・やめ・・・ッ・・・ジーナっ・・・・お願い・・です・・・やめて」

 吞み込まれそうな意識の中で空は必死に訴えるが、ジーナは繰り返し彼女の耳元で囁き続ける。頭の中に、身体の中に、沁み込ませるように何度も。

「そうよ、ワタシはジーナよ。解るわよね、ワタシが怖いでしょ?もっともっと、怖がらせてあげる。2度と忘れないように、ね。・・・空、こんな風に薬やテクニックで、こういう風になるのよ。愛する人からじゃない快感を、怖いと思いなさい。ワタシを怖いと、レイプも怖いものだと・・・それを今からイヤと言うほど、教えてあげる・・・」

 ジーナの囁きには、どこか辛そうで悲し気な色が含まれている。


 けれど、彼女はその手と舌を休めなかった。そして空の身体から力が抜け、ぐったりと目を瞑るのを確認すると、彼女の手を縛っていたタオルを解き、自分も服を脱ぎ捨てる。

(・・・ごめんね、空。許してなんて言えないけど、せめて1度だけ・・・)

「知らなかったでしょ、愛してるのよ、空」

 意識の無い空にそう告げると、ジーナは彼女に身体を重ねた。



 その頃博は会合を終えると、教授だけを宿泊施設に残し、支局に向かってタクシーを飛ばしていた。

 今晩抱いてと言ったジーナを拒絶したことは、正しかったと思う。研究所に着いてから、真に連絡を入れてみると、ジーナは空を誘ってヤケ酒大会をしていると教えてくれた。

 その瞬間、博は自分がジーナを拒絶した直後のジーナの様子を思い出した。

(・・・あの時の、決意をしたような様子は・・・もしかしたら)


 博は、彼女ジーナがバイセクシュアルであることを知っていた。

 研修期間だけではあるが、その間直属の上司にあたる彼は、部下の詳細データを知ることが出来る。個人のプライベートな部分も全てだ。FOIではそう言うシステムになっているのだが、基本的にそう言った個人の性癖の部分は、本人の承諾なしには他者に告げることはできない。

 博が空に言えずにいたのは、それが理由だった。ジーナはバイだから、気を付けなさい、と。

 だから、ジーナの研修期間中は、自分に気持ちを向けさせておきたかったのだ。彼女が自分から、バイセクシュアルだと皆に言うまでは。


 ジーナが本部で、ハニートラップ要員として高い評価を受けている理由の1つは、相手は男性だけでは無いということなのだ。そう言う性癖がある女性はもちろん、そうでなくても場合によっては堕とせるのだから。けれど、彼女は今まで自分がバイであることを公言してはいない。知っているのは、今まで上司だった人物と博だけではないだろうか。それと、もっと上の地位にいるお偉方たちだ。


 博は会合の最中も気が気ではなかったが、それでも何とか教授や研究員たちが満足するような結果を出すと、取るものもとりあえず帰ることにした。


 そして、真夜中過ぎに漸く帰局し、自室に入って寝室を確認するが、やはり空の姿は無い。

 直ぐに踵を返し、ジーナの部屋のドアのインターホンを何度も鳴らした。やがて漸く開いたドアの向こうには、驚いた顔でバスローブ1枚だけを羽織ったジーナの姿があった。


 開いたドアから、特有の湿った匂いが漂って来る。

 博はジーナを無言で押しのけて、室内に入った。シングルのホテルルームのような部屋のベッドには、一糸纏わぬ姿で、乱れたシーツに仰向けに横たわる空の姿があった。

 汗に濡れた肌は火照って薄桃色に染まり、荒い呼吸に胸が上下している。

 白いシーツに散った黒髪が、何故か哀れに見えた。


 博は駆け寄って彼女の名を呼び、その頬に触れた。

「ーーーーっ!・・・ぁぅ・・っ」

 空は眼を閉じたまま、大きく痙攣し苦し気に身を捩る。

「・・・触らないほうがイイわ。まだ薬が切れてないから」

「君は・・・何故・・・」

 博は、何とか落ち着こうと大きく息を吸ってからジーナに問いかける。

「君が、僕にフラれた腹いせに、彼女にこんなことをしたとは思えません。理由は何なんですか?」

 勤めて平静を装った言葉だが、含まれる怒りは隠しようも無かった。


「・・・怖い、っていう事を教えたかったからよ。感覚のコントロールなんて、大した守りにならないわ。愛する人以外の相手から受ける快感が、どれほど怖いかを教えてあげたの。これで少しでも、空が本能的に、性的に自分を襲う相手を怖いと思えるようになったら、レイプはある程度避けられるでしょう。彼女の無防備な雰囲気が減ればイイの。普通の女性が当たり前に持っているものよ」


 けれど博は、それだけでは納得できなかった。

「彼女に怖さを教えた・・・それだけですか?」

「・・・多情な女って思われそうだけど・・・貴方を愛していたのは本当よ。でもいつの間にか、ワタシは彼女を愛していたみたい。この素直で美しくて、でも自分に全く関心の無い不思議な存在の、空と言う人間をね。でも彼女には貴方がいるし、フラれたとは言っても貴方を嫌いになったわけじゃないわ。むしろ、好きなまま・・・だから2人には幸せになって欲しい」

 博はそっと空の身体をシーツで包み、ジーナの話を聞いている。

「でも、やっぱり思い出も欲しかったのかしら。怖がられて嫌われてもいいから、1度だけって・・・怖くて顔も見たくない人間としてでも、彼女の心に刻まれるなら、通り過ぎて忘れられるだけの存在よりマシじゃない」

 ジーナはそう言うと、キッと顔を上げた。

「彼女のアフターケアは任せたわ。sex全てが怖い物じゃないと確認させてあげてちょうだい。さあ、彼女を連れて行って・・・出て行ったら、ワタシは思い切り泣くんだから」

 ふいっと窓の外を見ながらそう言うジーナの蒼い瞳は、清々しい寂しさが溢れていた。

 博は黙って空を抱き、静かに部屋を出る。

 背後のドアから、鍵がかかる音が聞こえた。


 部屋に戻る途中も、空は苦し気に身体を震わせていた。

 寝室のベッドにできるだけそっと寝かせるが、それだけでも刺激になるようで低く呻き声が漏れる。

(体を拭くか、せめてパジャマでも着せたいところですが・・・)

 ホットタオルを用意して、顔だけでもと拭き始めるが、そんな博の行動にも、空は拒むように力ない抵抗をする。

「・・・・ィ・・ヤ・・・・やめ・・・もぅ・・・」

 瞼をギュッと閉じ、弱々しくかぶりを振りながら掠れた声を上げる空の上半身を、博は掬い上げるようにギュッと強く抱きしめる。

 そして彼女の耳元に、何度も声を掛けた。

「空、僕ですよ。空・・・眼を開けて、しっかり見てください。空?」

 繰り返し囁かれる言葉に、藻掻くような素振りは消えたが、まだ瞼は閉じられたままだ。


 これは難しいだろうと考えた博は、取り敢えず一度彼女の身体をベッドに戻し、冷蔵庫から冷たい水を持ってくる。そして、もう一度抱き取ると、唇を合わせるのは彼女にとって辛いだろうとは思ったが、敢えて少量の水を口移しで飲ませた。

 瞬間、身体を強張らせた空だが、反射的に水を飲み込む。その冷たさが、僅かに意識を浮上させた。

 そして瞼が僅かに持ち上がり、震える唇で小さく呟く。

「・・・・ひ・・ろ?」

「ええ、僕です。今、君を抱いているのは僕です」

 空は力の入らない腕を伸ばし、彼の腕を必死に掴む。細い指が震え、眦から一筋の涙が零れた。

「・・・助けて・・・くだ・・さい・・・身体が・・・もう・・」

 燃え上がるような、身体の中を荒れ狂う嵐のような、そんな欲をどうすることもできない。ただ苦しくて辛くて、縋るように掴む指を、振り払うことなど出来るはずがない。

(こんな状態で、これ以上無理はさせたくないんですが・・・)

 それでも、少しでも彼女を支配する苦しさを和らげようと、彼は今まで以上の優しさと愛をこめて、彼女を抱いた。


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