自給自足
自分が食べたいものを畑に植えた。
自分が食べたいものが畑に実った。
自分の食べる分だけ、畑から収穫して食べていた。
他人がやって来て、食べ物を分けてくれと金を差し出した。
物珍しい金というものを差し出されて、欲を覚えた。
自分の食べたいものを、金と引き換えに他人に差し出した。
自分の食べたいものを、他人が食らった。
自分の食べたいものが足りなくなり、他人の金で他人の作ったものを食べるようになった。
他人の作ったものも、それなりに美味いと思った。
自分が読みたい物語を書き始めた。
自分が読みたい物語が完成した。
自分の読みたい物語を何度も読み返して、満足していた。
他人がやって来て、物語を読ませてくれと金を差し出した。
物珍しい金というものを差し出されて、欲を覚えた。
自分の物語を、金と引き換えに他人に差し出した。
自分の物語を、他人が読み散らかした。
自分の物語が自分だけの物語ではなくなり、他人の言葉で他人の好みに書き換えられた。
他人の書いた物語も、それなりに面白いと思った。
自分がしたいと思う事をして、生きてきた。
自分がしたいと思う事をしながら、時を重ねてきた。
自分のしたいことをし続けてきたから、自分の人生に満足していた。
他人がやって来て、満足した人生を分けてくれと金を差し出した。
物珍しい金というものを差し出されて、欲を覚えた。
自分の今までの歴史を、金と引き換えに他人に差し出した。
自分の今までの歴史を、他人が乗っ取った。
自分が満足した人生を手放し、他人が満足できなかった人生を得た。
他人の捨てた人生も、それなりに楽しめるものだと思った。




