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国王カズキとの対面

 

 カズキ?

 今カズキといったか?

 いや待て。カズキなんて名前は日本中を探せばいくらでもいる。

 全くの別人だったら恥ずかしいし。

 というか、アメリアがシュンって。

 アメリアはおれの肩を掴み男性の前へと押しやる。


「俊ちゃんはこっちですよ」


「これは失礼。女性を間違えるなど」


 男性はおれの手を掴み……、なんとなく何をするのか察したので嫌悪感剥き出しでアメリアの背後に隠れる。

 アメリアはおれの肩に手を触れると、男性から距離を置くように庇ってくれる。


「俊ちゃん。すいません、男性に対して耐性が低い子でして」


「そうですか。断られたのは初めてですよ」


 そう言って笑う男性。

 けど相も変わらず目は笑っていない。

 こいつ……一発ぶん殴ってやりてぇ。どうせ女性は笑顔を向けていればくらっと来るんだ的なこと思ってそうだ。

 あぁムカつく!

 これには心を読めるアメリアも同意見だったのだろう。


「あまり私たちを舐めない方が良いですよ?」


 と、言って牽制する。

 こちとらひとり神でもうひとりが吸血姫だからな。

 物理的にも余裕だぞこの野郎!

 ジュリアンはひとつ「これは失礼いたしました」お辞儀をする。


「分かればいいんです。それで、今回は……あぁ。やってしまいましたね、俊さん」


「何を?」


 異世界転移者よろしく能力を見せびらかすことは一切していないし、吸血鬼の時は誰にも見られていなかったはずだけど。

 何? 何かやらかしたことあった?


「錬金板。目の前で実践したのがダメだったようです」


 ……あっ。

 ということは何だ。

 あの商人、人のこと売りやがった!

 そりゃ、国王から直々に情報提供して金貰えるならやるよな。今頃きっとホクホク顔に違いない。

 そして国王も国王でよく信じる気になったなぁ。一商人の話を。


「転移人が居ますからねぇ……」


 アメリアの呟きにおれはなるほどとうなずく。

 少しでも戦力が欲しいと……、ほんとこの世界はクソだな。

 ひとつくらい国を崩壊させておいた方が良いかもしれない。

 んで、ここからどうするかだ。

 受ければ王の下へ直行コース。受けなければ役目を果たしに行けるわけで。

 どうすればいいのかアメリアに目を向ける。


「そうですねぇ。異世界転移を止めるよう呼びかけられるなら行く価値はありそうですね。ダンジョン自体はまだ把握できていないので」


「なるほど、一理ある」


 問題はこいつについて行くってところなんだが……。

 チェンジできないかなぁ……。

 アメリアはひとつおれの頭を撫でる。


「諦めましょう。私が庇ってあげますから。ジュリアンさん。私が一緒でも問題ないですよね?」


「はい。一緒に謁見してもらっても構わないとカズキ様は仰せです」


「私が付いていますので大丈夫ですよ!」


 ……分かった。

 先の見えないダンジョンよりも今だ。

 何だったら国王のコネを使って協力を取り付けれるかもしれないし。うん。良くメリットしかないな。


「というわけでジュリアンさん。私と俊さんで国王さんに会います」


「迅速な決断、ありがとうございます」


 ジュリアンが馬車の扉に手を掛けて、おれとアメリアを招き入れる。

 座席が固いなぁ。なんて考えていたら、アメリアがおれを膝の上に座らせてくれた。

 おれの方は大丈夫なったけど……アメリアの方が痛くないか? ひとり重量が加算されるわけだし。

 ジュリアンが馬車の扉を閉じる。御者に一声かけて馬を走らせこの場を後にする。

 女性の黄色い声で尾を引いて。


 アメリアは女神の翼を広げると、羽ばたくことなく馬車の中で浮遊する。

 ここに来て初めてジュリアンが鉄仮面を外して驚いた顔を晒す。


「女神様……?」


「はい、この世界の女神アメリアです! 座席が居たいのでこの状態で良いですか?」


「大丈夫です。……本当に女神様?」


 普通信用しないよね。

 女神の翼といってもおれも天使の翼との違いが分からないし。

 黄金の色合いだから女神と言われれば信じそうになるってくらいだろうよ。


 黄金の翼が蜘蛛の巣みたいに馬車内に張り巡らされた状態。

 割と奇妙な状況下の中、アメリアはおれが落ちないよう腹に腕を回してくれる。

 馬車の中は、木材特有の何か懐かしいにおいがする中、アメリアの隣におれ、対面にジュリアンが座っている。

 ジュリアンがおれに目を合わせて聞いてくる。


「ところでぶっちゃけて聞きますけど、あなたも転移者なんですか? 住んでいた場所とか分かりますか?」


「……うん? ……ああ、そうだよ。転移者。住んでいた場所は東京」


「やはりそうでしたか。さしずめ女神さまの使いといったところでしょうか。何か目的とかはあるのですか?」


「目的かぁ。……うーん、言っても良い奴なのかこれ。場合によっちゃあれだしなぁ」


 おれが渋る様子を見せた途端、ジュリアンから濃密な敵意が放たれる。

 アメリアの腕がびくりと跳ねる。だからおれはアメリアの腕を手に取り、大丈夫だと告げる。


「どこの国の遣いですか?」


「それだけははっきりと言う。無所属だ。どこの国にも付きたくないんでね」


「そうですか……。あくまで知らないを貫き通しますか。それでも良いでしょう」


 本当に無所属なんだけどな。

 わざわざ敵地の中で信じてもらうよう話せば何とかなるか? 随分と楽観的な考え方だけどさ。

 ジュリアンが窓の外へと目をやる。


「そろそろ付きますよ。マリンネアへ」


 水の国みたいだなぁなんて内心笑っていると、何か脳に電流が走るような感覚。

 おれも同じように目を向けて見ると、何か不思議な雰囲気を放つ一帯があった。

 言葉には言い表せない胸がざわつく気配。心の底から何かがあると訴えかけられるかのような。

 アメリアがおれの肩をバンバン叩いてくる。


「あ! 俊さん。あれ。あれダンジョンですよ!」


 こんな近くにあったのか。もう少し早く動き出せばよかったかもしれない。

 国との距離もだいぶ近かったようで、馬車はすぐに山を思わす門の前で立ち止まる。

 ジュリアンが外に下り、見張りをしている兵士と何か数度やり取りをする。

 数分するころには、やり取りが終わったようだ。再びジュリアンを入れた馬車が出発する。




 そこはまさに賑やかという言葉を体現したかのような街並みだ。

 前いた町より活気がよく、何より際立つのは一番デカく存在感を放つ城。

 パレードをやってそうなBGMが流れるようで、流石は王都と言ったところだ。

 シンボル的な特徴の建物はここから三つほど見える。


「活気があふれていて、すごいですね俊さん!」


「日本からの一方的な輸入だけどな」


 異世界を半近代化させるのに一体どれだけの転移者を雇ったのだろうか。

 城の前に居た兵士たちが馬車を敬礼で出迎える。

 いつの間に翼を消していたアメリアがおれを抱えたまま馬車から降りる。

 ジュリアンに案内されるがまま城の中を歩いていく。

 町は近代化しているのに城は何というか異世界よりなんだな。

 赤いカーペットに石レンガの床と壁。一定の距離で花瓶が置かれていたり、誰か分からない絵画が飾られていたりする。

 趣味の悪い成金みたいな城の内装を見せられること数十分、


「そろそろつきますよ」


 ジュリアンがこちらに振り向きそう言う。


 ……なんか緊張して来た。心臓の鼓動がうるさいなぁ。

 もう少し図太く生まれたかった。


 ジュリアンが重低音を鳴らして扉を開けた。

 すぐ正面、階段を数段上がった先の玉座に座る青年がいた。

 意外にも若い。あれだと王様というより王子といった方がしっくりきそうなほどだ。

 両脇に付き人を二人侍らせている。

 床には有名人が通るような赤い絨毯。両脇には非常事態に対処できるようにか、兵士たちが並んでいる。

 近くまで行くと、王様の姿はより一層明確になる。

 マントや王冠をつけた王様然とした装備。高級な服を着ているというよりかは、着せられているといったほうがしっくりくる。

 その顔をはっきりとした瞬間、おれは言葉を失った。

 何度見ても変わらない。おれの見知ったその顔立ち。

 ……嘘だろと思いながら、ついおれは言葉を漏らしてしまう。


「……和樹?」


 二年前神隠しに会って行方不明になり、ついぞ見つからなかったおれの友人。

 和樹が二年前にいなくなった姿と変わらず、国王の椅子に腰掛けていた。


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