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異世界クイズ

 

 そういっておれは、ある程度開けた場所に出てくるとインベントリからなんか効果のある布を地面に敷き詰める。

 ホットドッグからリンゴジュースと次々に取り出していく。

 ステーキとか時間経過で腐っていそうな気もするけど、ゲーム特有の腐らない設定があるおかげで新鮮な状態で飛び出してくる。

 あとはとパスタや焼きそば、ご飯と魚系も。

 飲み物に関してはレモンスカッシュといった炭酸系からミルクティーなど甘いものまで各種取り出していく。

 ……無駄に何か効果があるって勘違いして買いだめしていたのが役に立ったな。

 人生どこで必要になるか本当に分からないものである。

 食べ物に関しては和樹もいらないって言っていたし、その辺りは残ったまま。

 ぶっちゃけ装備類はおれが必要最低限の分しか残していない。八割渡すと言ったが、実際には八割九分である。

 もっとも和樹からしたらそんなの知る由もないだろう。


 ……思えばあいつ、変な笑いが出るほど喜んでいたのに、おれに対してギョーザを出したんだよな。

 心中どうあれ酷くないか?


 いただきますといった号令もなく、おれは食料に食いつく。

 ……美味い。美味いんだけど……なんか足りない気がする。

 こう、ゲームだからかな。あと一歩。

 味にして七十五点。高級料理店九十点。母の手料理は百点。


 少女の方はというと、そんなの大して気にしないようだ。

 次から次へと食事を口に運んでいる。


「美味しい! これあんたが作ったの?」


「違う」


「じゃあ誰が作ったのよ」


「知らね。お前は一々ファミレスの料理を誰が作ったか気になるタイプか?」


 少女は不機嫌そうな顔でそれ以来言葉を紡がなくなった。

 なんやねんこいつ。

 というかそんな食ったら後で脇腹痛くなるぞ。

 おれでさえ、胃袋が小さくなっている都合上腹七分を意識してめっちゃ注意しながら食っているというのに。

 アメリアは「たはは」と乾いた笑みを浮かべる。


「それであなたはお名前なんというんですか?」


「……アカリーナ」


 目の前の少女……態度悪い金髪碧眼は機嫌悪そうに答える。


「人に助けられて、目的も話さず、食事の世話になっている奴が随分とぶっきらぼうに言うんだな。あれか? 月に一週間の女の子でも来てんのか?」


「ちょっと俊さん! それはダメです。何があろうとそれを挑発の言葉にするのはダメです。謝れとは言いませんが猛省してください」


「わーったよ」


 おれの挑発に金髪碧眼は人殺しもかくやという、ものっそい恨みを込めた目で睨みつけてくる。

 だからどうしたっていう話だが。

 アメリアがおれと金髪碧眼の間に割って入る。


「それで私たちは攻略しに来たのですけど、アカリーナさんはどうして来たんですか?」


「……」


「なるほど、魔法の修行ですか。中々上達しないからと」


「なんでそれ!」


「ふふっ、エスパーですから」


 勝手に心読む辺り、不躾に入り込んでいるのはどっちだよと思わなくはない。

 思うだけでクッソ便利だから何にも言わないけど。

 金髪碧眼は突然態度を改めて頭を下げてくる。


「先ほどの収納魔法を見込んでお願いがあります。弟子にしていただければ——」


「嫌ですよ」


「——と思い……。嫌? なんで嫌なんですか?」


「なんて言えばいいんでしょうかね。あなたの態度が気に入らない。それで終わりです」


「それじゃ納得できません!」


「私たちはあなたの親でも友達でもありません。ましてや初対面でした。なのに心の中は終始、悩んで悩んで素直になれずつい不機嫌な態度を取っていましたね。それでは相手にずっと不機嫌な態度が伝わるだけです」


「……」


「俊さんに関してもそうです。相手のことを少しでも考慮しましたか? ひとりでこんな危ない場所に来て、勝手にやられて、本当なら助ける義理なんてまるでないんです。一度でも俊さんにお礼を言いましたか? ご飯に関してもアカリさんはお礼を言いましたか?」


 心配かけたっていう、あたかも相手が心配していたみたいなことしか言ってないわな。

 一度としてお前を心配した覚えはねぇよ。

 アメリアは一呼吸置く。


「それがあなたを弟子に持つことを拒否する理由です。分かったらお家に——」


「それじゃダメなの! 理由は言えない。けどどうにか!」


「その理由を分かったうえで言っているんです。なにも見なかったことにしますから、今日はお帰りください」


 ……なんか怖くない? アメリア。

 そんなにこの金髪碧眼が気に入らないのか? ……いったい何を読んだのだろうか。

 金髪碧眼は席を立つとどこかへ歩いて行ってしまう。……あいつもあいつで何なのか。


「さっ、俊さん。片付けましょう。もうそろそろお腹いっぱいになる頃だと思いますよ」


 アメリアに言われて気づく。

 本当だ。そろそろきつくなってきた。ここらで止めておくのが吉だろう。

 後片付けを終えた後におれは改めてアメリアへと言っておく。


「その……いつもあんがと」


「触発されちゃいましたか。さっき言ったあれ、本当に俊さんにも当てはまっているんですからね?」


「肝に銘じます。助けてくれて、見放さないでいてくれて、風呂で身体を洗ってくれてありがとうございます。今後とも風呂に関しては世話になると思いますのでどうかよろしくお願いします」


「はいっ! 隅々まで洗ってあげますよッ!」




 食事を終えたおれとアメリアがさらに進んでいくと、道が途切れた開けた場所へ出てくる。

 何か文字が刻まれている石碑。どうやら奥地に来たらしい。


「何々、この中から共通するものを答えろ?」


 アメリアが石碑の文字を読み終わる。

 青白い光が放たれる。振り向いてみれば、広場の中心に五体の人形が立っていた。

 一匹目は犬のような猫背に太いかぎづめを生やした奴。ゴムみたいな感触の身体でその双方は赤くぎらついている。


「これはグールですね」


 アメリアがそう解説をしてくれた。

 二体目はなんか靄みたいなやつだ。煙の形をしていて、実体がない存在を無理やり人形にしたせいか変な感じになっている。

 かと思いきや、触れてみると人形は様々な形へと姿を変える。

 特にこれといった形を持たず、手を放すと再び黒煙上の何かに変わっていった。


「ふむ、これは邪気ですね。東洋の方では人に取り付いて妖怪に変異させるとも言われています」


 へぇ~と感心しつつ、おれは次の人形へ。

 こちらは……人間の女性? 涎を垂らし、狂気的な笑みで血濡れのバトルアックスを振り回している。

 もっともバトルアックスも布と綿で作られているからか痛くも痒くもないわけだが。


「これは殺人鬼ですね」


「それはなんかおかしくない? これをどう見て、あっこれ殺人鬼だ! ってなるんだよ」


「けど首から殺人鬼ですって札が掛けられていますよ?」


 ……ほんとだ。なにこの面妖な感じ。ちょっとうんって感じだわ。

 四体目はゴブリンだ。こいつらは見ていたのでよく分かる。

 人で、五体目は等身大の黒いゴスロリ姿の白髪ロング赤眼美少女。

 ホワイト・ブラッドだ。

 なんでここにおれの人形があるの?


「ちょうどぴったりな役柄だったんじゃないでしょうか?」


「……わけわかんないけど、ここから仲間外れを選べばいいんだよな?」


「そうみたいですね」


 ……いやバラバラすぎるだろ。

 魔物に煙に人間に吸血姫。これになんか共通点あるの?

 ひとつひとつ探ってみるとところからだな。

 四つ文字の真ん中に入る漢字を当てるクイズもそうだけど、とりあえず適当に埋めていくと何とかなることが多いし。

 一番重要になりそうなのは殺人鬼だよな。これが一番ヒントだと思う。

 人型……だと煙が入らない。殺人……だとおれはまだ人を殺していないから入らないよな。

 流石にゲーム内まで入るとなんも言えない。

 となると一番有力なのはやっぱり鬼か。

 グールは食人鬼、殺人鬼は殺人鬼、ゴブリンは小鬼でおれは吸血姫もとい吸血鬼。

 アメリアもたまに鬼になるし……。なんかものっそいおっかないオーラが放たれてくる。思う分にはセーフであってほしい。

 邪気でしょ? 邪気……。そういえば漢字には一応邪鬼があるっちゃあるんだよね。

 けどそれだとこじつけだよな? いや、殺人鬼もだいぶこじつけだと思うけどさ。

 鬼以外考えられないよな。


「アメリア分かった?」


「そこまで解けているなら十分でしょう。鬼で正解だと思いますよ」


「マジで?」


「知らないですか? 昔の東洋では邪気を鬼として扱っていたことを。だから邪鬼とも書きます。節分で豆を食べるのは、身体の内側にある邪気、つまり鬼を外へと追い出すためって言われているらしいですよ?」


 ……なんでそんな知識持ってるんだよ、アメリア。


「一概に悪い意味で鬼という言葉は使われていますが、地獄の門番の仕事を鬼が受け持ってくれるので、悪いことばかりではないんですよ? 単純に地獄は苦痛を与える場所だから鬼が使われているのかもしれませんが」


 台無しだよ。

 そんで知識マウント止めて。そういう無駄な知識ほどこの身体は覚えちゃうんだから。

 おれは石碑の前に立って「鬼」と答える。

 すると石碑は白く輝き始め、「正解です! おめでとうございます!」とアメリアの声で響き渡った。


 石碑がゴゴゴという音を鳴らしながら後ろに下がっていく。

 下に続く石作りの階段が見えてきた。

 降りてみるとその先には地面に大きな五芒星が描かれた祭壇が広がっていた。


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