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ふと、気がつくと江廼(えの)橋へ来ていた。


(ここは、確か……)


俺は、昔の記憶を頼りに橋の手すりを注意深く見る。

そこには、☂のマークに

『あさひ』と『みう』の文字が薄く彫られていた。




中学2年の途中まで、俺と美宵はお隣さんだった。幼馴染と言ってもいいだろう。

俺らはちっちゃい時からいつも一緒で、良くお互いの家であそんでいた。

そのため、2人の距離はとても近く、好き同士になるのは当然だった。


そして、二分の一成人式の日の帰り、この○○大橋で、美宵に結婚を申し込まれた。

いわゆる、『大きくなったら結婚しようね!』というやつである。

俺は二つ返事で了解した。

きっと、あの頃の俺らは好き合ったらとりあえず結婚するみたいな考えだったんだと思う。


そして、結婚の記念にこの橋の手すりに2人の名前を彫った。

今では、忘れ去りたい黒歴史であるが、甘酸っぱい初恋の思い出でもある。



そんな懐かしい記憶の前に立って、懐かしさが込み上げてきた後に、苛立ちがやってきた。

だから、


俺は自分の名前が彫られたところに親指の爪を立て、

激しく削った。


いくら強くしても相手は鉄なのでなかなか削ることが出来ない。

それでも削る。

強く、強く、もっと強く


「…ッ」


爪が剥がれてしまっても止めずに削る。

削った部分に着いた赤をハンカチで丁寧に拭き取ると、【あさひ】の3文字が消えていた。


「ぷっ」


抑えていたなにかにヒビが入る。

そして、


「あっはっはっはっ!」


崩壊した。


狂ったように笑った。

それと同時に熱いものが頬を伝う。


笑いすぎて呼吸が出来なくなることがおかしくて、気持ち良くてまた笑いを誘う。


いつしか堰き止めていたもの全てが出ていき、笑いが収まる。


親指が熱い。

痛みはもうなかった。


色々ごちゃごちゃになっていた自分の中の全てがひとつになった感覚。



自分でもどうしてこんなことをしたのか分からない。

美宵のことが嫌いになったのかもしれない。

もしかしたら、自分がモテないのはこれのせいだと思ったのかもしれない。いや、それは違うか。


呼吸を整えてふと、上を見る。

空は曇りひとつない青であった。


人生における転機はこういうことを言うのかもしれないと思った。

江廼は存在しない架空のものです。

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