第3話 絶体絶命なんて信じない。
オオカミに追われ、逃げていると渓谷にたどり着く。
落ちたら命はない、引き返そうとしてもオオカミがいる。
絶体絶命の状況に、カスミがとった打開策とは...。
まずいまずいまずいまずい!
仲間を呼ばれたら、私に助かる道はない。
決断の時だ。
オオカミを殴るか、反対側まで飛ぶか。
答えは一つでしょ、私。
私は走り出した。
2m先の、少しだけ反対側との距離が狭まった場所に。
オオカミも走り出した、そりゃそうだ。
私にとびかかってももう、落ちないのだから。
場所までのこり1m、オオカミとの距離はもう50cmもない。
「飛べ...飛べ...飛べ...飛べ....」
自分に暗示をかける。
「私は飛べる...飛べる...!!!」
私は踏み込んで、飛んだ。
少し後ろのオオカミも飛ぶ。
「届かない...!!!」
恐怖で踏み込みが甘くなった。
手を伸ばす、全力で、関節が外れるかと思うくらい。
手が届く、崖をつかむ。
オオカミは届いたらしい。崖上から私を睨む。
「カスミ君~。少し鈍ったんじゃないの~?」
うるさい!アカネもどき!
「ハイハイ、頑張ってね」とアカネもどきは言った。
両手で崖をつかむ。喰われるよりは落ちるほうを選ぶ、だけど生きるか死ぬかだったら生きるほうを選ぶ!
考えろ、考えろ、考えろ!
無 い
私が助かる方法は、考えうる限り無い...。
「アカネ!私はどうすればいいの!」
私は叫ぶ。
するとアカネは
「私も考えてるけど今のところ死ぬしかないね。」
と答えた。
死 ぬ し か な い 。
私とコミュニケーションをとれる唯一の友人(まぁもどきだけど!)が放った言葉は、想像以上に大きかった。
「絶対に嫌だ!せっかく来たのに!」
「って言われても...どうしようも...アァ!!!!」
アカネが何かひらめいたように叫んだ。
すごくうるさい。今すぐ叫ぶのをやめてほしい。
「あと20秒後、転機が訪れる。その時に行動するんだ!」
その転機まで教えてほしいなぁアカネさん
とかなんとか考えていると空模様が悪くなってきた。
「転機と天気をかけたわけね。ぉっさんか。」
雨が降ってきた、土砂降りだ。
私が掴んでる崖の土も柔らかくなってきた。
「これがどう私にかかわってくるのよ......
掴んでるところが崩れてお陀仏とか言わないでしょうね」
「一歩間違えれば♡」
なんてことを言い出すんだ。
いい加減このオオカミも私のことは諦めてくれないだろうか。
とかなんとか考えていると
崖が揺れだした。
地盤が緩んでいたんだ!一点に重さが集中して、崩れる...!
オオカミは倒れる。そのスキをついて、私は崖を上る。
「転機ってこれだったのね...」
「そのとーり!」
私は森に向かって走り始める。
オオカミは私を追おうとしていたが、崖が崩れ、闇に落ちていった。
その瞬間は見なかったが、『ドスッ!』という重く、聞きたくない音が暗闇から響いてきた。
「一歩間違ったらカスミもああなってたのか。」
私も一瞬考え、すぐに思考を止めた。
想像もしたくないことをアカネが言う。
ここらへんのデリカシーのなさはアカネそのものだ。
「さぁ、危機はいったん乗り越えた。どっちに進めばいい?」
アカネに聞く
「向こうだね、あと5時間頑張ってね」
と、忘れようとしていた絶望的なことを言う。
やっぱりデリカシーのなさはアカネ本人だ。