第1話 異世界転生なんて信じない。
世の中の諸君。これを見ているかい?
もし見ているなら私の言葉を信じてほしい。
私はラノベが好きだ。異世界転生系が好きだ。
だから不慮の事故でトラックにひかれたら
異世界転生できるものだと思っていた。
私は今、病院にいる。
これを見ている諸君は、横断歩道を渡るとき
右 左 右 をよく確認してからわたってくれ。
あと、
異 世 界 転 生 は 実 在 し な い
そう思ってくれ、私は2度とラノベを信じない。
第1話 転生なんて信じない。
世間は夏休み、みんなは楽しんでいるかい?
私は病院のベットで楽しく宿題をしているよ。
「知らない天井だ......」
そろそろ飽きた。
知らない天井ごっこはこれで200回を超えただろう。
最初はわくわくしたさ!最初はね。
今になったら知り尽くした天井といっても過言じゃない。
シミの位置、模様の規則性、タイルが何枚貼ってあるか。
もうすべてわかる。飽きたさ、この天井を見るのは。
「はろー、起きてるかい~」
扉が開き、声が聞こえた。
親友の臼井アカネだ。紙袋を持ってベットの隣にある椅子に座った。
「やぁ、起きてるよ。宿題やるのも飽きたんだ。」
「そんなこと言ってみたいよ。ほら、差し入れ。」
と言って紙袋から出したのは一冊の本だった
ライトノベル、異世界転生ものだ。
「あぁやめてくれ!異世界転生ものはうんざりだ!」
「どうして~、大好きだったじゃん~。」
私は轢かれても異世界転生できなかったことを伝える。
するとアカネは大爆笑した。多人数部屋だったら怒られてるぞ。
「お馬鹿だね~!そんなこと起きるわけないじゃん!」
「私は信じてたんだ!トラックに轢かれれば異世界に転生して~うんぬんかんぬんして~って!」
「あはははは!!!転生できなくて残念だねぇ!あはは!」
「ん~~!もういい!帰って!」
と言って私は掛布団を被る。
「はいはい、そんじゃまた来るよ。」
といってアカネは帰っていった。差し入れのライトノベルは机の上にまだあった。
試しに読んでみるかと思ってその本を手に取り、開いた。
その本は異世界転生ものだったが、トラックに轢かれたり、通り魔に刺されたりするものではなかった。
というよりは......この内容は......
「私と...同じ...?」
その主人公は、轢かれ、入院し、転生する。
よく読んではないが、私とほぼ同じ状況だった。
「ふーん、私みたいな状況の主人公もいるんだな。」
とかなんとか思っていると扉が開く。
面会時間はとっくに過ぎているので看護師さんか清掃の人かなと思っていると声を掛けられる。
「本読んだ?」
アカネだ、この時間は病室には愚か、病室等にすら入れないはずだ。
「なんでここにいるの?」
当然の質問を投げかける。
「本読んでるね、えらいえらい」
質問には答えてくれない。
「なんでここにいるかって聞いてるんだけど」
「その質問に答える意味はない、だから答えない」
よくわからないことを言われてしまった。
「それは置いておいて、三浦カスミ君?」
「なんでフルネームで呼ぶのよ」
君呼びはもっと謎だけど黙っておこう。
「異世界転生は存在しない、だったっけ?」
カナエっぽくない。確かに姿や声はアカネだが、しゃべり方というか雰囲気というか、何かアカネと違う。
「異世界に転生したいんでしょ?カスミ君」
「私はもう信じてない、異世界なんて存在しない。」
「うそつき....」
すこし笑う、それが私にとっては不気味だった。
「本当は信じてる。それを信じたくないと、ありえないと思い込みたいだけ。」
「違う!ありえないんだ、最初から!」
私は叫んだ、だけどアカネが言っていることは真実だった。
異世界がある、転生できる。それは私の昔からの考えで、妄想で、半分以上生きがいだった。
「物理的にあり得ない!」
「物理じゃない。」
物理じゃない......?
「想像で作られ、それらは自我を持った。」
アカネは語りだした。
「みんなの妄想、それを矛盾なく文章化し、世界を作り出す想像力。カスミ君は体験してるだろう?」
ライトノベルという形で、ということだろう。
「それが?」
「本や映像などで構築された世界は、みんなが頭の中で想像しているものよりずっと深く、硬く、そして確実な形となる。」
そしてアカネは告げた。
私が一番求めていて、否定していて
今私が【一番聞きたくて、聞きたくない言葉】
「異 世 界 は 、 存 在 す る 。
異 世 界 転 生 は 、 で き る 。」
聞きたくて、聞きたくない言葉。
私は驚いて口をふさいだ。
存在する、できる。
その言葉は、私にとって大きすぎた。
昔から信じてきた、実現すると思ってた。
馬鹿なことだって分かってるし、存在しないものだってどこかで分かってたはず。
だけど、認めなかった。認めたくなかった。
でも存在する。できる。
私は半泣き状態だった、なんでだろう。
馬鹿みたいだけど、泣けてくる。
でもなんでこんな話を私に?
その疑問を伝える。すると......
「そんなの君に転生してもらうからだよ!決まってるじゃん!」
と、言葉選びこそアカネとは違うものの、テンションはアカネそのままだった。変な感じだった。
え?私が異世界転生するの?